数字で見る男と女の働き方

【第10回】つわり体験でワークライフバランス再考

 10月、11月は筆者の都合で本連載をお休みさせていただき、お詫びいたします。理由は妊娠によるつわりでした。今回はこの体験を踏まえて、記事を書かせていただきます。

*  *  *  *  *

 妊娠そのものは計画通りだったので、驚きはなかった。昨年の7月から今年の7月末まで1年間、調査のため米国に留学していたが、この間に数十人のワーキングマザーに話を聞いた。周囲には妊娠中も元気に仕事をし、また育児をしながら仕事を続ける同僚や先輩が何人もいた。彼女たちを見て、「妊娠・出産しても、私も何とかやっていけるだろう」と比較的安易に考えていた。

 ところが全く想定外だったのが、つわりである。妊娠3カ月に入った9月から10月にかけては、ほぼ毎日吐き続けることになった。最初の頃は、食べたものはすべて吐くため食事は取れず、ひどい時にはお茶やジュースですら受け付けなくなった。久しぶりに会った家族は、私を見て「一瞬、誰だか分からなかった」と驚いた。

 起きている間は常に車酔いのような状態が続くため、9月末からは出勤することが不可能になった。11月、5カ月目に入ってやっと体調が安定し職場に復帰したが、これまで吐いた回数は128回に達した。嘔吐が100回を超えた頃、「もしかすると、これが原因で仕事を辞める女性も多いのではないか」と感じたほどだ。

 働く既婚女性の退職理由は「出産・育児のため」が最も多く、86.7%に達する(厚生労働省・平成15年「第2回 21世紀成年者縦断調査」)。こうしたデータを見て、これまでは「仕事と育児の両立が大変だから、仕事を辞めざるを得ないのだろう」と解釈していた。しかし実際に自分が妊娠を体験してみると、つわりがひどくて仕事を続けられなくなる人がかなりいるのではないか…と思えてきた。

 つわりとは、妊娠初期の胃のむかつきや食欲不振、味覚の変化や不快感のこと。妊娠して5〜6週目(1カ月半くらい)から、15〜16週目(4カ月くらい)くらいまでだが、期間は個人差がある。

 妊婦の8割は、何らかのつわりを経験するとされる("Morning Sickness: A Mechanism for Protecting Mother and Embryo", S. Flaxman and P. Sherman, Quarterly Review of Biology, 75(2), 2000. *)。

 期間だけでなく、症状も個人差が大きい。眠いだけで気分は全く悪くならなかったという人もいれば、点滴を必要としたり入院する人まで様々だ。私の場合は、自宅療養で済む範囲としてはかなり辛かった方だが、もっと大変な人もいる。保育所整備などの育児支援はもちろん大事だが、女性の就業継続を本気で望むなら、産む前からの支援をメニューに入れるといいかもしれない。

 日産自動車は2006年から、妊娠が分かった時点で産休に入れる「母性保護休職」制度を設けた。同社ではカルロス・ゴーンCEO(最高経営責任者)の下、「女性活用」を進め、工場の生産ラインにも女性が増えた。彼女たちが辞めずに働き続ける施策を取り入れるのは、人材戦略の観点からは自然な流れと言える。つわりを体験した後では、こうした制度がいかにありがたいか理解できる。

* 脚注:56の先行研究をまとめている

 今回痛感したのは、男性のワークライフバランスの重要性だ。私の場合、夫が多くのことを助けてくれたので、本当にありがたかった。自宅近くの産院や分娩に適した病院を探し、直接足を運んで予約を入れ、妊婦健診には4回付き添ってくれた。ほとんど寝たきりの私に代わり、区役所へ母子手帳を取りに行ったのも、ネットから妊娠や出産情報を集めてくれたのも夫だった。

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このコラムについて

 米ミシガン大学で、客員研究員として男女のキャリアについて調査をしている筆者が、米国の研究やリポートなどの数値を基に、働く男女の現状や意識を再確認していく。 女性リーダーのための記事は「NBonline Women at Work」へ。

筆者プロフィール

治部 れんげ

1997年、一橋大学法学部を卒業し日経BP社に入社。「日経エンタテインメント!」「日経ビジネス」編集部を経て「日経ビジネスアソシエ」編集部所属。2006年7月より1年間、フルブライト奨学金を得て、米ミシガン大学 The Center for the Education of Women客員研究員として、「米国男性の家事育児参加と、それが妻のキャリアに与える影響」をテーマに調査や取材を行った。

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