1、証人尋問で明らかになった誤読。
大阪で行われた裁判の中で、大江健三郎さんの「沖縄ノート」の一節についての重大な誤読が、大江さん本人の証人尋問で明らかになった。その一節とは、
慶良間の集団自決の責任者も、そのような自己欺瞞と他者への欺瞞の試みを、たえずくりかえしてきたということだろう。人間としてそれをつぐなうには、あまりにも巨きい罪の巨塊のまえで、かれはなんとか正気で生き延びたいとねがう。かれは、しだいに希薄化する記憶、歪められる記憶にたすけられて罪を相対化する。つづいてかれは自己弁護の余地をこじあけるために、過去の事実の改変に力をつくす。・・・・(『沖縄ノート』p210岩波書店)
大江さんを訴えた原告と原告側弁護士は、これを、慶良間の集団自決の責任者であった赤松嘉次を名指しして<罪の巨魁>=極悪人といったのであるから、名誉毀損、敬愛追慕の情侵害にあたるというのである。
法廷の場で原告側弁護士は、鬼の首を取ったような意気込みで大江さんに詰め寄ったにちがいない。
原告代理人
「赤松さんが、大江さんの本を『兄や自分を傷つけるもの』と読んだのは誤読か」 大江氏
「内面は代弁できないが、赤松さんは『沖縄ノート』を読む前に曽野綾子さんの本を読むことで(『沖縄ノート』の)引用部分を読んだ。その後に『沖縄ノート』を読んだそうだが、難しいために読み飛ばしたという。それは、曽野綾子さんの書いた通りに読んだ、導きによって読んだ、といえる。極悪人とは私の本には書いていない」 (省略か)
原
「作家は、誤読によって人を傷つけるかもしれないという配慮は必要ないのか」 大江氏
「(傷つけるかもしれないという)予想がつくと思いますか」 原
「責任はない、ということか」 大江氏
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/print/event/trial/99545/「予期すれば責任も取れるが、予期できないことにどうして責任が取れるのか。責任を取るとはどういうことなのか」
産経読者には、ノーベル賞作家大江健三郎氏を追い詰める、靖国応援団少壮弁護士徳永信一の満面の笑みが浮かぶところだ。
という見出しが躍れば、産経読者は彼の笑みを確信する。『大江氏言葉に詰まる場面も 沖縄集団自決訴訟』
ところが他紙をも読む賢明な読者は、じつは全く逆の展開が法廷に起こったことをすぐさま知ってしまう。
原告側は反対尋問で、「沖縄ノート」の記述の解釈や、根拠について詳細な説明を求めた。
「罪の巨塊」という言葉で、個人を断罪しているのではないか。作家・曽野綾子さんが著作「ある神話の背景」などで「沖縄ノート」の記述を批判しているのと同様の主張を尋問でぶつけた。
大江さんは「罪とは『集団自決』を命じた日本軍の命令を指す。『巨塊』とは、その結果生じた多くの人の遺体を別の言葉で表したいと考えて創作した言葉」「私は『罪の巨塊の前で、かれは・・・』と続けている。『罪の巨塊』というのは人を指した言葉ではない」と説明、「曽野さんには『誤読』があり、それがこの訴訟の根拠にもつながっている」と指摘した。
(沖縄タイムス)
産経報道ではなぜか消し去られているが、大江証人は曽野綾子氏の誤読の内容を具体的に指摘していたのである。
(誤読)
「巨塊」を→「巨魁」に
物を→人に
「えっ? 曽野綾子さんが誤読したって? まさか?」
曽野綾子氏の大江批判をすっかり信じて訴訟を提起した徳永弁護士は狼狽した。しかしながら支持者の面前では動揺を見せてはならん、ましてここは一世一代、ノーベル賞作家と対決する法廷だ、精一杯の虚勢を張って面子を保とうとした。
徳永弁護士は、徳永の読み方が誤読だと言うに止まらず、曾野先生の読み方も誤読だと断定し、通常の読者の読み方はことごとく誤読になってしまうような書き方をしたことを反省せず、誰も読めないような読み方を求める大江氏の主張を、裁判官が受け入れるとは思えないと語りました。
・・・・・しかし、この裁判が曽野綾子氏による誤読の上に立ち上げたバベルの塔であることは、徳永弁護士が認めた準備書面に繰り返し書きとめられ、消しがたく刻印されていたのだ。 ((2)につづく)
実現不可能な天に届く塔を建設しようとして、崩れてしまったといわれることにちなんで、空想的で実現不可能な計画はバベルの塔ともいわれる。
西洋美術上の題材の一つであり、16世紀の画家ピーテル・ブリューゲルが描いた絵画が有名である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%99%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%A1%94
※後に詳しく引用しますが、この件について詳しく述べているものに、
文藝評論家=山崎行太郎の『毒蛇山荘ぶらぶら日記』
http://d.hatena.ne.jp/dokuhebiniki/20071118/p1
曽野綾子の「誤読」から始まった。大江健三郎の『沖縄ノート』裁判をめぐる悲喜劇。
・・・があります。
by ni0615
教科書が教えない歴史(1)恣…