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【社説】

少年審判傍聴 慎重な検討が必要だ

2007年11月27日

 たとえ被害者・遺族に限っても、少年審判の傍聴には検討すべき課題が多い。被害者、加害者の双方にとって不幸な結果を招かないよう、少年法の改正は急がずにもっと冷静な議論を続けたい。

 非公開になっている少年審判を被害者らが傍聴できるようにする少年法改正が動きだした。法務省は近く法制審議会に諮問する。

 少年事件の情報は審判非公開のためほとんど公開されず、多くの人が事件から学ぶことができない。情報を社会にもっと公開すべきだ。

 しかし、被害者の怒り、悲しみの力を利用して加害者に責任を強引に取らせようとする、最近の刑事法改革の流れのなかで審判非公開の原則を崩すことには疑問がある。

 事件について知らされない、加害少年への配慮優先で被害者不在−など現行制度に不満の声は多い。

 傍聴はそれらの声に応える側面があるが、弊害も予想される。

 少年審判は罪を犯した少年を立ち直らせるための第一歩である。

 この段階の少年心理は不安定で、心底から謝罪できる状態になっておらず、反省、悔悟の気持ちは裁判官や付添人の弁護士、矯正関係者との接触を通じて育ってゆくことが多いという。被害者も悲しみ、怒りのまっただ中にあり、心の整理がついていないのが普通といわれる。

 こんな状態で双方が対面しても、被害者は加害者に対する拒否感情が先立ち、審判室でのやりとりを冷静に受け止めることができないのではないか。狭い部屋で被害者の目が光っていれば、少年が起こったことや自分の心情を率直に述べることができないかもしれない。

 両者の感情がぶつかり合い少年の更生、社会復帰に重大な影響を及ぼすおそれがある。傍聴するかしないかで遺族などが悩み、あえて傍聴した結果、新たな心理的ショックを受けることも懸念される。

 情報公開、被害者の立場の尊重は審判傍聴とは違う方法で実現するよう、もっと知恵を絞るべきだ。

 少年に対する刑罰適用年齢の引き下げ、刑法の法定刑引き上げは既に行われ、成人の刑事裁判では、被害者が被告人に質問し、場合により独自に論告求刑できることになった。被害者遺族が「被告人に極刑を」と署名を集める事態になっている。

 他方、犯罪白書によれば、刑務所は再犯者であふれ、矯正にあまり役だっていない実態を露呈している。

 もっかの急務は、処罰をむやみに強化することではなく、もっと効果的な矯正手段を考えることだろう。

 

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