彼は言う。3センチや5センチの身長差は
手を伸ばすと10センチ以上の違いになる、と。
「チームに絶対必要な存在となりたい」と語る22歳は、
クリアな視界でコートを見渡す。
- YU KOSHIKAWA
- こしかわゆう 1984年6月30日石川県生まれ。
'02年、岡谷工業高校2年生の時に、キャプテンとして春の高校バレー準優勝など活躍。
卒業後、サントリーサンバーズに入団。
'05年のバレーアジア選手権で優勝した全日本メンバー。
パワフルなジャンプサーブとスパイクが魅力。
190cm、87kg
いまから9年近くもまえの、まだ中学の制服を着始めたばかりのことだというのに、越川 優にはあの驚きが忘れられない。
「地下にある眼科へ行って、コンタクトレンズをして出てきたときにはホントにびっくりしました! 階段を登っていったときの、街の見え方があまりに違うので。大げさじゃなくて、感動しました」
小学校4年からコートに立つのが日課となっていた越川は、中学入学の頃から視界がぼんやりしていることを感じていた。それでも「なんとなくはプレーできていた」のだが、「少し見えにくいなあ」という思いは消えなかった。のちに全日本にまで上り詰める競技への真剣さが増してきた少年には、その「少し」の妥協さえも許せなくなった。
「僕はとくに勉強熱心じゃなかったですから、そっちのほうが理由じゃないです(笑)。いまから思えば、原因はやっぱりバレーボールになるのかも。すごく目を使う、頭を使う競技ですから。それで、知らず知らずのうちに負担がかかっていたのかもしれないですね」
それからはもう、コンタクトレンズが欠かせなくなった。岡谷工業高校での栄光も、サントリーサンバーズや全日本での目ざましい活躍の陰にも、コンタクトレンズがあった。高校を卒業してから使い続けているのは『ワンデー アキュビュー』である。
「僕には1日使い捨てコンタクトレンズが合っていますね。自然に視野を広く確保できますし。取り外しが簡単で、装用感もいい。コンタクトレンズを着けている感じがしないくらいですから。長期の遠征でもまとめて持っていきます。これなしでは日常生活も困りますよ」
もちろん、コート上では最強のパートナーである。パンチ力のある越川のスパイクに、適切な視野の確保は欠かせない。
「スパイクの瞬間は、もちろんボールを見ています。ボールを見ながら、周辺視野で相手のブロックやレシーバーの位置も確認したり。見るというよりも、感じるという表現のほうが合うかもしれません。バレーボールはボールを止められないスポーツですから、つねにボールと人の動きを見ないといけないし、相手が次に何をしてくるのかを考えながらプレーすることが必要なんです」
情報を取り込みにくいときもある。
「調子がいいときと悪いときでは、やっぱり見え方は違います。ジャンプに高さがあるときは、滞空時間も長いので見えやすい。ブロックがいても、指を狙ったりわざと当てたりすることもできる。見えているから余裕がありますからね。相手のレシーバーがどこにいるかも分かります。そういうときは楽しいですね! 気持ちがいい。逆に自分のジャンプができていないと、落ちるのも早いから見えにくくなる。とくに僕はバレーボール選手としては小さいので、飛ばないと勝負できない。長身選手のブロックがかぶさってくると、まったく見えなくなってしまう。自分では飛んでいると思っていても、相手はさらに大きいということが世界ではありますし」
190センチの越川を「小さい」と言うことには、ちょっとした違和感があるかもしれない。だが、バレーボールではわずか数センチの違いでも、とてつもなく大きな意味を持つのである。
「3センチとか5センチの身長差は、手を伸ばすと10センチ以上に変わるんですよ。日本の平均身長は194センチぐらい。ロシアは202センチぐらい。この8センチの違いが6人にあって、手の長さの違いも合わせたら、すごい差になる。それは試合が長引くほどに感じますね。終盤の勝負どころで、とくに。少しでも自分のカードを増やして、相手と違うことで勝負していかないと勝てない。それがいま、日本に一番必要だと思います」
11月下旬に行われた世界バレーで、日本は8強入りを果たした。越川は限られた出場機会のなかで、キレのあるスパイクを披露した。 '08年の北京五輪出場を目指す彼には、かけがえのない財産となったはずだ。
「北京五輪は行かなければいけない場所です。そのためにも世界バレーでは結果を求めて、世界との距離感をしっかり確認して、12月のアジア大会と来年のアジア選手権につなげていきたい。去年のアジア選手権で優勝しましたが、どの国も五輪の出場権をかけた大会ではまったく違うチームになってくる。日本もどんどん進化していかなければ」
そのために、自分は何をすべきなのか。
「チームに絶対に必要な存在になりたい」と越川は言う。「一日一日が勝負」と語り、わずか1%の体脂肪の違いに気を配り、過去の成功例にもこだわらない。アジア選手権の記憶さえも、彼にはレベルアップの過程に過ぎないのだ。クリアな視界をもたらす『ワンデー アキュビュー』でコートを見渡す22歳は、我々の想像よりもはるかに上の領域を見つめている。