◎金市工の推薦辞退 残念だが戒めにしよう
つかみかけた夢が無残にも砕け散ってしまった。野球部員の不祥事で、金沢市工が来春
の選抜高校野球大会の推薦辞退を申し入れ、日本高野連はこれを了承する見通しという。
不祥事を起こせば、こうした事態もありうることを、部員たちは十分知っていたはずだ
。それでもなお自転車を盗むようなまねをしてしまったのは、修学旅行で浮かれていたという理由だけではあるまい。自転車を無断で拝借し、乗り捨てる行為を「犯罪」と思わず、軽く考えていたからではないか。
高校生だけに限らないが、自転車や傘などを「ちょい借り」し、不要になったら置き捨
てにする行為がまん延している。推薦辞退は残念というほかないが、せめてこの苦い経験をみなで共有し、戒めとしたい。小さな過ちが、重大な結果を招く厳しい現実を、改めて県内の高校生にあまねく言って聞かせよう。
金沢市工は、今秋の北信越県大会で優勝し、第八十回記念選抜高校野球大会の「21世
紀枠推薦校」に選出された。今年で創部七十九年目の古豪で、この三十年の間に夏の県大会決勝に八度進出した実力と、学校周辺の草むしりなどのボランティア活動を地域と一体になって続けてきた実績が認められた。県高野連の推薦決定は現役、OBを含めた金沢市工野球部の歴史への評価とも言えたのだろう。
その栄誉を、たった一人の野球部員の過ちが帳消しにしてしまった。一般の部員、学校
関係者、保護者らは断腸の思いだったろう。特に悔やんでも悔やみきれぬほど後悔し、苦しんでいるのは仲間の夢を奪った当事者ではないか、とも思う。せめてこの苦い教訓を無駄にせず、子どもたちの成長の糧としていかねばならない。
ちまたでは、歩くのが面倒という理由で、自転車を無断借用し、目的地近くで乗り捨て
る行為が目に余る。本人にどれほど罪の意識があるのか分からないが、万引を窃盗、援助交際を売春と言い換えたら、ことの重大さが理解できるのと同じように、これもれっきとした「窃盗罪」にあたる。金沢市工野球部員の過ちがどんな結果を招いたのか、子どもたちに伝え、我が身に置き換えて考えさせる機会にしたい。
◎ゴア氏の受賞演説 米中は真剣に耳傾けねば
国連気候変動枠組み条約締約国会議が折り返し点を通過し、各国の閣僚レベルが参集し
て必要な政治的判断をも交えた折衝で合意文書の採択に持ち込むという最も重要な「閣僚セグメント」に入った。
これに狙いを定めたように、地球温暖化問題に積極的に取り組んできたことによって国
連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」とともにノーベル平和賞を受けた米国のアル・ゴア氏(クリントン政権の副大統領)が、受賞演説で「二酸化炭素(CO2)の二大排出国である米国と中国は明確な対策に取り組むべきだ」とずばり呼び掛けた。
両国にとってははなはだ面白くない中身だろうが、真剣に耳を傾けてほしいものだ。
中国は京都議定書では温室効果ガスの削減がゼロであり、他方、米国はクリントン大統
領に代わったブッシュ大統領が同議定書に文句をつけて批准しなかった。今年十一月に公表されたIPCCの第四次報告書によると、世界のCO2排出量に占める割合は米国が一位で22・1%、中国は二位で18・1%だが、最近は米国を抜いて一位になったといわれる。
インドネシアのバリ島で開かれている今回の締約国会議の焦点は、二〇一三年からの京
都議定書以降の取り組みを話し合う行程表「バリロードマップ」をつくることだ。
中国はかつて他の途上国とともに結束して先進国側と対抗した、いわゆる「77アンド
中国」をよみがえらせるかのように、自らを途上国側に置き、先進国側のより大きな削減を主張しているが、エゴまる出しだ。米国はどうかというと、これもまた以前と変わらず、途上国側も削減に参加することが京都議定書以降の取り組みでも前提にすべきだとの主張を繰り返しているのだ。
日本は現段階での削減数字の書き込みには反対だが、京都議定書では過分の削減を担い
、今回は経済発展が著しい中国やインド、さらには京都議定書では削減ゼロのロシアなども削減に積極的になるのが望ましいとする、いわば「全員参加」を主張している。各国の削減をめぐり不透明感が漂っているが、中国と米国にはもっと前向きになってゴールを目指せ、といいたい。