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社説(2007年12月11日朝刊)

[電子投票]

信頼に足る制度設計を

 銀行の現金自動預払機(ATM)と同じようにタッチパネルを操作して投票する「電子投票」が、次の衆議院選挙から導入されることになりそうだ。

 自民・公明両党と民主党が、電子投票を国政選挙に導入するために特例法の改正案で合意。その「公職選挙電子投票特例法」が今国会で成立する見通しとなったからだ。

 改正案は地方選挙での電子投票条例を定めている市町村が対象になる。

 自治体が国政選挙で電子投票の実施を総務省に申請し、総務相が指定した自治体に限って電子投票を認めるというわけだ。

 二〇〇二年に施行された「地方選挙電子投票特例法」に基づいて電子投票を実施したのは、岐阜県可児市議選や宮城県白石市議選など十市町村で計十六回。現時点で条例を設けているのは八市町村しかない。

 〇三年に行われた可児市議選では機器のトラブルが続発し、その後の訴訟では選挙そのものを無効とする最高裁判決も出ている。

 それが、多くの自治体が導入に二の足を踏む理由になったのは間違いない。選挙の投票には公平性や正確性、信頼性の原則が求められるのに、その条件が揺らいだのだから導入を控えたのは当然といえよう。

 自治体の意向調査を行っている沖縄県選挙管理委員会によると、導入に前向きな自治体も(1)コストがかかる(2)精度面で不安―という理由から検討には至っていないという。

 電子投票の最大の利点は結果判明が早いことだ。

 集計作業が早ければ、動員する職員を大幅に減らすことができ、人件費の削減につながるのは間違いない。

 電子化によって疑問票がなくなれば、名護市議選や石垣市議選のように次点の候補者が裁判に訴えて議席を争うこともなくなるはずだ。

 一方で、コンピューターを用いた投票には情報を操作されるのではないかとの懸念も付きまとう。懸念を払拭するにはシステムの精度を高める以外に手はなく、有権者が信頼を寄せ得る機器の開発が欠かせない。

 メーカーは機器の精度をあげるために全力を傾ける必要がある。

 改正法で国は、条例によって電子投票を実施する自治体には交付金を配る方針を打ち出している。

 これによってコストが削減され、なおかつ若者の政治参加を促し投票率も高まるのなら、導入を検討する自治体は増えるのではないか。国に求められているのはその条件整備である。



社説(2007年12月11日朝刊)

[医師不足]

緩慢な対応は許されない

 医師の不足が全国的に深刻な事態に陥っている中、離島県のそのまた離島の久米島で、医師の相次ぐ退職により、産婦人科と小児科の継続が困難になっている。

 公立久米島病院で七人いる常勤医師(院長含む)のうち、来年四月までに三人が退職する。産婦人科と小児科は医師が不在となる。

 命の重さに離島、都会の区別はないはずだ。どこに住もうが、国民は医療の恩恵を等しく受ける権利がある。ひとり久米島だけの問題ではなく、全国で問題が起きているところに、事態の深刻さと問題解決の難しさがある。

 医師が患者を置いて「命の現場」を離れるにはそれ相応の訳がある。休みの少ない過酷な勤務状況は、その最たる理由の一つだ。二十四時間、三百六十五日患者と向き合う医師も人の子。休日なしの勤務は本人の体を痛めつけるばかりでなく、疲労の蓄積による判断の誤りや、医療ミスも引き起こしかねない。これらの災いは巡りめぐって患者に降りかかるから看過できない。

 日勤から引き続き夜勤に入る「当直」や休診日に泊まり込む「日当直」をこなし、当直明けには入院患者の診察にも当たる。国内至るところで見られる医師の勤務状況だが、医師数の少ない分、へき地の病院では一人一人の負担過重は相当なものだろう。

 久米島病院では当直のとき、すべての疾患に原則一人で対応するという。専門外への対応による精神的ストレスの高さは察して余りがある。病院当局に現場から窮状が伝えられても改善されなかったところに、今回の任期終了前退職の背景がある。

 地域医療の専門家は、過剰な勤務に耐えられず、一人が辞めたらほかに負担が掛かると言ってみんなで辞めるというドミノ現象が起きていると警鐘を鳴らしている。

 国は中長期の抜本的対策を早急に考えてほしい。緊急性のあるケースについては国、県が一体となり、有効な手だてを実施すべきだ。緩慢な対応は許されない。


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