ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「でも、こんなとこに金あるのか？チャーリー」。

「うん。ある」。

「まさか徳川埋蔵金あるから一緒に掘ろうとか言うんじゃないだろうなぁ？」

「西条。お前貸してくれたの500円だろ？埋蔵金じゃオーバーするじゃん」。

オーバーなんてなまやさしいもんじゃないっていうか、比較対象自体、意味がありません。
しかし西条くんの言い分こそもっともでした。
雑木林のわずかな間についた小道を入って行くチャーリー。
どう考えても埋めている以外に思いつきません。

「あるんだ・・・。それもナナハン用の金が・・・」。

ナナハン用の金？

そしてその道のわずかな先に、突然広場が開けて来ました。

「チャーリー、こ、ここ・・・・」。

「ああ。元は枕木かなんかを運び出すのに国鉄（現JR）が使ってたらしいんだけど。それを昔オヤジが安く譲り受けたんだよ」。

「あれぇ？ここって・・・」。

「うん。千葉は記憶あるだろ？」

「ああ。でもあん時は別な道から入ったよな」。

それはちょっとしたグランドと言ってもいい広場で、雑草でうめつくされてはいましたが、通路用とも思える舗装までしてありました。
横には平屋の作業小屋までついていて、その扉にヘタクソな文字で

　W　C・・・？

「WCって・・・」
「トイレ？」
「にしてはでかい・・・」。

するとチャーリー。

「ちがうよ。イニシャルなんだよ。俺が描いた・・・っていうか・・・俺たちが描いた」。

「オレたち？」

「そうだ。チアキ＆・・・・」

チアキは、チャーリーの本名「麻生千晶」のチアキ。その「C」です。

「Wは・・・・」

ここで千葉くん。
「ああ。渉くんかぁ」。

「うん・・・。ま、そうだ。この中に金、しまってあんだ」。

「ナナハン用の金・・・」。

扉に近づくチャーリーでしたが

ここで突如大声をあげたのが久保くん。

「嘘だろ？チャーリー！」

「ん？な、なにが？」

「てめぇWCつったらよー！トイレに決まってんだろぉがあ！」

「え・・・。そ、そんなこと言ったって・・・」

「その文字のおかげでよ〜〜〜〜。すっかり油断しちゃった俺の肛門括約筋はどうしてくれんだよ〜〜〜〜〜」。

「え・・・・」。

「あ〜〜〜〜。わかんねぇかな！こいつは！ハウ、ハウ、ハウ・・・」。

「ハウマッチイズディス？」
「ハウオールドアーユー？」
「ハウンドドッグ？」

最後だけ違う・・・。

「ああ。ここ本物のトイレ、ちゃんとあるぞ。ほらあっち」。

「あ！ほんとだ！」

よほど肛門括約筋がたいへんなことになっているのでしょうか。
大急ぎで駆け出す久保くんでしたが

「でも何年もつかってないからな！気をつけろよ〜〜！」

「え！それならそのへんの野原のほうがましだ！」

と、突如コースを変更！得意の茂みに入っていきます。

「久保！」

「たのむよ。もう声かけんなよ〜〜〜〜」。

「いや。マムシに気をつけろよ」。

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

なるほど。これほどの山林。どこにいても不思議ではありません。
これに反応したのが西条くん。

「あ！そうか！」

「ん？なにがそうか？」

「マムシに噛まれたら、心臓に近いほうをしばって毒を吸い出すんだよな」。

「ああ。応急処置な。うん。でも虫歯あるやつとかはできないらしいな」

「そっか」。

西条くん。なにか思いついた顔をしています。

「いや。こういうとこにな。女子といっしょにハイキング来てな。あ。澪ちゃんでもいいや」。

澪ちゃんでもいい？

「うん」。

「マムシにチ○コ噛まれた〜〜〜　って言ってぇ〜〜」

出たか・・・・。

「吸い出してもらうっ！」

「・・・」「・・・」「・・・」

「ま。いいや。チャーリー。そこの小屋の中にあんのか？」
「ああ。さすがにちょっと開かないなぁ。誰か手伝ってくれ」。
「ああ。いいぞ」。

完全無視する僕たちのはるか後方。西条くんの大妄想は止まりません。

「こらこら・・・歯ぁたてんなよ・・・へたくそだなぁ・・・・えへへ」

盛り上がってます。マムシで。えへへじゃないよ。

「ああ・・そんなことしたら毒がぁ、毒がぁ出るぅぅぅぅ」

「はいはい」。

お前のは確かに毒だ。きっと。
毒蛇であそこまで想像が膨らむのはたいしたものです。

「言っとくが西条」。

「ん？」

「今噛まれるなよ。僕ら、誰もお前の吸い出さないからな」。


しかし。そこに久保くんが茂みから大慌てでもどってきました。

「へび〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「えええええええええええええ！」

これで突然大騒ぎ！

「俺はやだぞ！」
「俺もやだ！」
「お、俺は歯立てるからだめだぞ！」
「お、オレも一度も経験ないからヘタクソだぞ！」
「お、お前！薄情だな！小学校で保健委員だったろ？」
「ば、ばかやろ！いつのこと言ってんだ！てめぇこそ修学旅行で連絡係だったろ！」
「そ、それとこれとどういう関係あんだよ！」
「ジェミー！お前女装してやれっ！」
「え！ぜ、絶対やです〜〜〜〜〜〜〜できません〜〜〜〜」
「久保！悪いが毒まわって死ね！」
「お経はまかせろ！」

美しい譲り合いを続ける僕たちに、きょとんと久保くん。

「え？な、なにが？蛇いたってだけだけど・・・」。

「なんだ。噛まれたんじゃないのか。俺はまたてっきり・・・」。
「うん。噛まれたと思った」。
「脅かすんじゃねぇよ！ばか！」
「うん。すっげー脅しだった。今の」。

「え？」
事情のわからない久保くんに

「いいんだ。久保」。
「うん。なんでもない」。
「うん。もう思い出させないでくれ」。
「うん。オレさっきちょっと想像した」。
「うん。俺も。早く忘れたいよ」
「しばらくうなされそうだ」。
「もう保健委員にはなんない」。
「深般若波羅蜜多時〜〜」。

西条くんのくだらない妄想のおかげで、友情のもろさを露呈した僕たちだったのでした。

※プチ予告更新してあります

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