ぼくたちと駐在さんの700日戦争

その中でも、特に目立っていたのが、同じお揃いのジャンパーを着た連中。
背中にはサソリのマークがついています。
こうした連中は、暴走族ともまた少し違うのですが、正統派ライダーというわけでもありません。
そのハンパさがまたやっかいなわけですが。

彼らは10名くらいですでに殺人ナナハンを囲んでいました。

　「これだよなぁ」
　「ああ。これだぁ。間違いねぇ」。
　「キヨ。お前、これ買えばぁ？」。
　「じょ、冗談じゃねぇよ！」

といった会話をしているところへ僕たち到着。
一番おおはしゃぎなのは、もう、誰でもわかるジェミーです。

「せんぱ〜〜〜〜い！バイクいっぱいです〜〜〜〜」

うん。そりゃバイク屋だから・・・。

このはしゃぎようを、冷淡な目で見ているサソリ軍団。
なにか気に入らないようです。
もともと東京育ちで上京の多いジェミーは、かなりのシティボーイで、田舎にあってはそのスタイリッシュさが極端に目立っていました。これが田舎不良たちの目によくとまるわけですが。

はしゃぎすぎのジェミー。このサソリ集団のひとりにおもいっきりメットをぶつけてしまいました。
というか。わざとしかけられた？

「あー。ごめんなさ〜い」。

「ってーな!!てめぇ!!」

どんなパターンでも、集団とは強気になるのがやっかいなところで、
「詫びはそれだけか？あ？」

あっと言うまにからまれているジェミー。
サソリ軍団は、どうやら僕たちが20名近いということには、まだ気づいていないようです。

「お前。俺らの背中のマーク、目に入ってねぇのか？」

なにか曰く付きなのかも知れません。サソリにSCORPIONの文字。

が、ジェミー。襟元をつかまれる程度は、日常茶飯事ですので

「なにするんですか〜〜〜〜。エビのお兄さん」

「海老じゃぁねえんだよ！サソリ！」

「え。だって下にシュリンプって書いてあるし・・・」

「これはなぁ！スコルピオンって書いてあんだよ！Sしか合ってねぇだろうが！ぼけ！」

「んーーーー。でもその絵、海老にしか見えない・・・・」。

逆撫でするジェミー。
でも確かに。言われてみりゃ海老だわ。

「海老じゃぁねぇっつってるだろ！ハサミあんだろ？ハ・サ・ミ！」

「え！海老だってありますよ〜」

「海老のは尻尾だろうが！バカか！」

なに言い争ってんだか・・・。

「え。だって同じ節足動物・・・」。

「サソリは節足動物じゃねーの！わかるか？え？昆虫なの！昆虫！」

「え。サソリはクモの仲間ですよ〜〜〜〜。足の数違うんです〜〜〜。節足動物門鋏角亜門クモ綱です。」

くじけないジェミー。
これが相手に火をつけたようです。

「バカだな。こいつ。いいからやっちゃえよ！」
「うん。なまいきだ。こいつ！やっちゃおうぜ！」
「こっちこいてめぇ！」

「い、いたいです〜〜〜〜〜〜」。

ジェミーを店の裏側へとひきずりこもうとしています。
そこには店からも通りからも隠れるまさにちょうどいい野原がありました。

「孝昭せんぱ〜〜〜〜い！甲殻類がなんか乱暴してくるんですけど〜〜〜〜〜〜」

救いを求められた孝昭くん。
「あ？お前、哺乳類だろ？甲殻類くらい自分でなんとかしろ」。

「だって尻尾にハサミあるんですって〜〜〜」。

「あああ？ハサミぃ？甲殻類ならハサミくらいあるだろ」

「えーーーーー。かわいい後輩がやられてもいいんですかぁ？」

「だいたいなぁ。そういうときは名前呼ぶなっつってあるだろうが！」
そうです。これは僕たちの固いお約束でした。

孝昭くんたちの姿に気づいた「シュリンプ軍団」。

「なんだぁ？あいつ？」
「仲間か？」
「先輩とか言ってたな」。
「高校生かぁ？」

が、

「先輩よぉ。てめぇもいっしょにやられてぇか？」
「ひゃっひゃっひゃ。かわいい後輩が助けもとめてるぜぇ？」
「一緒に土下座でもしろやぁ。くらぁ」

余計なことを言ってしまった甲殻類。
まぁ不良ってのは人数集まると、必ず強がります。悪い癖です。

孝昭くん。
「ああああああ？やられてぇかだとぉ？」

ほらね。
まただ・・・。

「ジェミー！ふせてろ！」

「いや・・・ふせろったって・・・・」。

孝昭くん。得意の石つぶて攻撃から、いきなりメットで襲いかかり！

　ガコッ！

当然、このシチュエーションを待ちに待っていた西条くんたち4名ほどが、後に続きました。

「いや〜〜〜〜。ひさびさだ〜〜〜」
「待ってました〜〜〜〜〜〜〜」
「いやっほ〜〜〜〜」

大歓びの4人に対し、グレート井上くんや森田くんはあきれ顔。

「あ〜あ。また始めた・・・・」。
「困ったもんだな」。
「通報されなきゃいいけど」。

武闘派の争いごとにはへきへきしている僕たちでしたので、極めて冷静なものです。

「相手何人くらいだった？」
「10人くらいかな。あ、4、5、6・・・動くからわかんないな」。
「うん。でもあれくらいなら西条と孝昭でなんとかなるだろ」。

「なんか千葉も混じってる」。
「うん。荒れてんだよ。千葉」。
「あ〜〜〜。衝撃の失恋だもんなー」
「だからガゼルにしときゃいいのにな」。
「いや。インパラだって。ぜったい」。
「うん。足細いよな〜〜〜〜」。

今だ草食動物。お欄ショックおそるべし！


武闘派が必死に闘いを繰り広げる横で、僕たちは殺人ナナハンの撮影を行っていました。

「森田。あっちのケンカも10枚くらい撮っておいてくれ。なるべく不利な戦況でな」。
「いや・・・。不利っつったって、もう、4人くらい寝転んでるぞ」。
「バカだな。そこは写さないんだよ」。
「わ、わかった。やってみる」。

が、森田くんが10枚撮るのを待たず

「はっほ〜〜〜〜〜〜♪」

孝昭・・・すっかりケンちゃんの影響を受けちゃって・・・。

「しかし孝昭、強いなぁ。なんか前よりさらに卑怯で手荒くなったみたいな・・・」。
「ケンちゃんの影響モロなんだよ。きっと」。
「あ〜〜〜。似てるっつえば似てる」。
「あそこまでいくと学習能力だな」。

全員をのしたところで、孝昭くん。

「おい。蟹ぃ」。

さらに甲殻類が変化しちゃってます。サソリの面影はすでにない。

「返事しろや。え？甲殻類は口ついてなかったっけかぁ？」
相手をおもいっきりふんづけます。
これもケンちゃん受け売り。

「・・・は、はい。だから昆虫類ですけど・・・」。

クモの仲間って教えられたろ？
こいつらもまぁ。
なんだかわからずマークにしてたのか。

「お前らぁ。謝ってるやつに暴力ってのはどういう了見だぁ？ああ？」

脅し方までそっくりです。
影響されやすいやっちゃなぁ。

「実はお前ら・・・。しかけたろ？」

「え・・・・」

さすがに口ごもります。

「やっぱりな。お前らみたいなのはなぁ」。

「は・・・はい・・・」。

「甘いもんが足りねぇんだよ！」

ばか。そこまで真似しなくっていい。

「はぁ？」

「だからな・・・・・えっと・・・・」。

ほら。自分で言ってつまってます。

「そこいらでアイスでも買って帰れ！」

「？」「？」「？」「？」「？」「？」「？」「？」「？」


やがて蟹軍団は平謝りで去り、
西条くんがジェミーを捕まえています。

「ジェミー。なんだって名前呼んだ？」

そうです。鉄の掟をやぶっていますから、当然ジェミーにも制裁があります。

と、思いきや西条くん。
「だいたいにおいてよー。なんで孝昭なんだよ！普通、呼ぶんならオレだろ？」

ただのヤキモチ？

ここで孝昭くん。
「そりゃ、俺の方が頼りになるからに決まってんだろ？」

「なんだとぉ。孝昭ぃ！もっぺん言ってみろぉ！」

あっけなく内紛に発展。

「やるかぁ？」
「おおお！やらいでかっ！どっからでも来い！西条！」

どこでも始まる仲良しコンビ。
と、ここでジェミー。

「だって〜〜〜。西条先輩の名前よぶと〜〜〜。有名じゃないですかぁ」。

「あ？う、うん」。

「そうすると〜、相手、名前聴いただけで逃げる可能性ありますから〜〜〜〜。今までもありましたし〜〜〜」。

げ！そこまで計っていたか？
おそるべしジェミー！自分の仇を先輩にうたせるとは！

「その点で〜〜〜。孝昭先輩はこのへんじゃ不有名ですから〜〜〜〜」。

「ふゆうめい〜〜〜〜？」

「はい！無名ばんざいです〜〜〜！」

「むめいぃぃぃい？」

「あ〜〜〜〜〜〜〜っ！なにすんですか〜〜〜〜〜〜！」

この日一番重い怪我を負ったのは、ジェミーであることは言うまでもありません。

「♪はっほ〜〜〜〜〜」

※プチ予告更新してます〜〜〜。

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