ぼくたちと駐在さんの700日戦争

それにしてもあのデカいガタイでフロンテクーペ・・・。
「よく体入ってたな・・・。あの車に・・・・」。
「まったく・・・・」。

ケーキ屋ケンちゃんは、そのまま倒れた男たちを無視してキャラバンへと向かいました。
その間、ひとりの男が立ち上がり、後ろから襲いかかりましたが

　ガスッ!!　ドスッ!!

またしても、指さえふれることができずに地べたに這いつくばることになりました。

「♪はっほっほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

おっかね〜〜〜〜〜〜〜〜〜！

やがてケンちゃん。勝手にキャラバンのドアを開くと、鍵を引き抜きました。

次に倒した男をひとりずつ丁寧にふんづけると、それぞれの胸に手をいれ、なにかしら引き出していました。
どうやら免許証を取り出しているようです。

やがて人数分、6枚の免許証を集めると、1枚ずつを確認しながら

「てめぇらぁ。なんかオレに言うことあんだろうがよぉ」。
静かに言いました。

誰もこれに答えずにいると

　ガスッ

ひとりの頭を地べたにうちつけます。

「す、すんませんでした・・・・」。

「おーー。わかってんじゃん。土下座しろぉ。土下座ぁ」

ようやく6人がよろよろと姿勢を変え、ケンちゃんに向かって土下座しました。

「どーも・・・すんませんでした・・・・」。

するとケンちゃん。

「運転してたのはぁ。富樫か。富樫っつうんだな？おまえ」

免許証を見ながら言いました。

「はい・・・」

「おめぇらよぉ。あそこは50km制限ってお国が定めてんだよ」。

「はい・・・」

「俺がそれをきっちり守ってんのによ」。

「はい・・・・」

「それあおるたぁ、どういう了見だぁ！くらぁ！」

ドスを効かせます。

「おいらがなんか悪いことしましたかぁ？ええ？富樫ぃ！」

集団の中の個人攻撃は西条くんも得意とするところですが、迫力が違います。
ほとんど脅迫。

ケンちゃん。キャラバンの鍵をチャラチャラとならしながら

「お前ら。あれだけイライラするっつーのはな？」

「はい」。

「甘いもんが足りねぇんだ。うん」。

「はい？」

「そこでだ！」

「はい」。

「ちょうどオレがケーキ持ってんだけどな。喰ったほうがいいかもなぁ」。

「はぁ？」

「だからよっ！ケーキ喰ったほうがいいっつってんだよ！」

「はい・・・」。

「1個80円だけど。何個食う？」

「はぁ？」

「1個80円で売ってやるっつってんだよっ！あま〜〜いケーキをよっ！」

「はい・・・。じゃ、それぞれいっこずつ・・・」。

「いや。富樫はもうちょっと喰ったほうがいいな。うん。あのイライラのしようは甘いもんぜんぜん足りてねぇ」。

「そ、そうでしょうか？」
それぞれ顔を見合わせて相談する作業員のあんちゃんたち。
いやはや。とんでもない車を煽ったものです。

「じゃ、ひとり2個ずつで・・・・」。

「ん〜〜〜。ひとり3個ぶんくらいあるけど・・・。どっしよっかなぁ」。

「あ。じゃ、ひとり3個ずつ・・・喰いたいっす・・・」

「そっか！喰いたいか！」

「は・・・はい・・・」。

「まいどありっ！」

毎度か？
ケンちゃん・・・・。

僕たちは（特に西条くんは）、ケンちゃんを知っていながら、とても声をかける気になれませんでした。
とにかく真っ昼間にバイパス横の駐車場で繰り広げられた恐喝劇。みんなびっくりです。
しかも脅したのが「ケーキ！」
しかもしかも普通の定価販売。


どう考えても狙ってた・・・。あれは・・・・。


ケンちゃんは、フロンテクーペの助手席から、ケーキをプラケースごと取り出すと、給食のようにあんちゃんたちに配りました。

「うん。お前のチリヂリ頭はモンブランだっ！モンブランの顔してるっ！」
「ど・・・。どうも・・・」。

「お前は〜〜〜〜。いちごショートな！いちご！くだものとれっ！」
「はい・・・。ありがとうございます」。

無理矢理ケーキ買わされたあげく、礼まで言わされている始末。

しかし

「あ！うめぇ！」
「ほ、ほんとだ！うめ！」
「こ、こんなうめぇの喰ったことねぇ！」

「だろ〜〜〜。俺が心こめてつくったんだ。まずいわけがねぇ。お前にゃタルト一個おまけにつけてやる」。

「え！いいんですか？ありがとうございますっ」

なんか仲良くなってます・・・。
顔中傷だらけのくせに。

信じられん・・・・。

すごい販売方法だ・・・ケーキ屋メルヘン・・・・・。




ランクリ忘れると、ケーキ販売に行きますよ。いや。脅迫って・・・。

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