ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「ありゃ」。
倒れた千葉くんをのぞき込む早苗お姉さん。

「こいつ。飲んでんのか？」

意識があるのか、ないのか、倒れた千葉くん。

「お欄さん・・・・すき〜〜〜〜〜」

　「えええええ！」
　「ま、まさか・・・」。
　「ほ、ほんとかよ・・・」。

どうやら本当みたいです。
千葉くん。早苗お姉さんの「五十嵐さんとのおつきあい話」を聞いておだやかでなかったのでしょう。
それで慣れない酒を飲んでのご乱行。男の哀愁にあふれています。

「千葉・・・お前・・・」。

早苗姉さんが千葉くんの横にしゃがみこみました。
ああ。さすがにスケ番お欄も乙女。

すると千葉くん。まだ意識があるようで

「あ。お欄さん！」

「ん？」

「パンスト、ずれてますよ」。

　　ガスッ

意識はなくなったようです・・・。

「何見てんだよっ！」

というか、スカートで目の前にウンコ座りする早苗お姉さんもお姉さんですが。


「なんなんだ。こいつ」。

倒れた千葉くんを横目にお欄さんが僕たちのいる部屋へと入ってきました。

「お前ら。飲んでやがったのか？」

「はぁ・・・。弟さんとごく一部・・・」。

「ま、あたしも高校時代は無茶やったからね。止めはしないが・・・」。

さすが元不良地区代表。話せます。

「ところで、なんだ”ばすーん”って？」

聴かれた僕。
「えっとぉ〜〜。なんて言っていいか・・・そうだ！グリコのなが〜いチョコあるでしょ？」

「あ？プリッツだっけ？」

「いやいや。それはチョコついてないでしょ？そうじゃあなくってチョコくっついてるやつです」。

「あーーーー・・・」


「ポッキー！」

「そうそう。それです」。

「で？」

「で〜〜〜。ポッキーはこう半濁点なわけですが、それをこう、ただの濁点に替えまして」

「半濁点、って”ポ”？　ポを？」

お欄さん、しばらく考え込んでいましたが、
突然顔を真っ赤にしたかと思うと

「てめーら！それをあたいに言わせようって魂胆かぁ！くらぁ！」

OL大暴れ。

「いや、魂胆って・・・」
言わせようもなにも、自分で聴いてきたくせに！

これなら千葉くんの暴走のほうがまだましでした。


「う・・・痛ぇよ・・・・」。
「高校卒業しても変わんないものってあるんだな・・・」。
「まったくな・・・」。

最前線にいたのは久保くん。
「あのさ。俺な。お欄さんにけっぽられるとき、少しパンツ見えたんだけど」
「うん」
「あれほどパンツ見えたのがおっかないって思ったのは初めてだった」。
「うんうん・・・」。
「水戸黄門でさぁ。由美かおるにけり殺される悪者って・・・、こんな気分なのかな」。
「うんうんうん・・・」。
「パンツ。おっかねぇー」
こくこくこく。

西条くんも目をさましましたが

「な、なんで俺の顔・・・。なんか劇的に痛いんですけど・・・」。
顔を押さえています。

「ああ。さっき灰皿の流れ弾に当たったんだよ」。

「灰皿？流れ弾？」

「ああ。ちょっと災害おきてな・・・・」。
「ほんとだ、なんだ？この部屋。大荒れじゃん。なんで？」

「話せば長いんだが」。
「グリコがへんな名前のお菓子発売してるから」。

「グリコ？」

　♪あなたもわたしも○ッキー！

結局千葉に限らず、全員負傷。

酒のグラスは飛び散り、アルコールのにおいが部屋中に立ちこめています。

「千葉もなんであれに惚れるかなぁ・・・」。
「さぁ・・・・。千葉は産婆の菜摘とばっか思ってたぜ」。
「俺、お欄さんなら、ヌーと結婚するよ・・・」。
「ヌーかぁ・・・。悪くないよな・・・・」。
「うん。ガゼルなんかもいいよな」。
「ガゼルかぁ・・・。ガゼルならインパラだろ。やっぱ」
「インパラねぇ・・・。足・・・細いよな・・・」。
「うん・・・」。

すっかり人類の女にビビりまくり、草食動物へと現実逃避する僕たちだったのでした。

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『殺人750見学ツアー』が翌日にせまった頃、僕はチャーリーたちをつれだって、駐在所にいました。

なぜか？というと、「殺人750」の都市伝説は、僕たちの時に始まったわけではなく、もっとずっと昔からあったからです。
こうなれば、当時暴走族でならした駐在さんは『殺人750』と『殺人メルヘン』の両方を知る貴重な人材なわけで、これは取材しないわけにはいきません。

チャーリーは、どうも『殺人750』にすさまじい興味があるらしく、この「取材」を言い出したのもチャーリーでした。

「殺人ナナハンかぁ。聴いたことはあったなぁ」。
と、駐在さん。

やはり。

「だがな。それは俺がバイク乗ってた時じゃない。警察官になってからだ」。

「え？そうなんですか？」

「ああ。交通課のやつらの話によると、実際にあるらしいんだ・・・これが・・・」。

「ええ。そうなんです。Ｙ市のバイク屋に並んだらしいんですよ」。

「え？殺人750がか？」

「ええ」。

「えー！そうなのか？」

なんか様子が変です。

「それがなにか？」

「え？い、い、いや。いや。嘘だろ。それは」。

「いえ。それで明日行って写真とってこようと思って」。

「ええええ！しゃ、写真？」

「ええ。撮ってきたら駐在さんにもお見せします」。

「え？あ？お、俺はいい。俺はいいよ」。

ん〜〜〜〜〜〜？

やっぱり様子がおかしい。

「と、とにかくな。そんなしょーもないこと警察に報告こなくっていいから。とっとと帰れ」。

いつもの駐在さんなら、こんなこと言わないのに・・・。

なんでだ？



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