ぼくたちと駐在さんの700日戦争

僕たちは駐在所からわずかに30mくらいの物陰から、駐在所の中をうかがっていました。
言うまでもなく、逆襲がうまくいくかを確かめるためです。

駐在さんが留守の間に、僕たちは仕掛けをすませていました。
すでに人事をつくして天命ってやつを待ってるわけです。

なおも西条くん。
「駐在おっきい〜〜〜〜〜〜」。

こどもか？

かと思うと、今度は望遠鏡を逆からのぞいて

「駐在ちっちぇ〜〜〜。っていうか駐在所遠い〜〜〜」。

こどもだ。


「まだかなぁ・・・・」。
仕掛けを作ったチャーリーは、いささか不安そうです。

しかし、この「発生」を待つ時間こそ、悪戯の醍醐味。
ワクワク感がたまりません。

が、

「ありゃ？」

僕たちは揃って声をあげました。

駐在さんが予定外に駐在所を出てしまったからです。

「あれ。駐在どっか行くぞ？」
「え？見回りの時間じゃないのに」。
「おっかしいなぁ。普段なら帰って来て一服する時間なのに」。
「私用だな。きっと。どこ行くんだろ？」
「近くだろ。自転車も使わないとこみると」。
「どうする？」

どうするって・・・。
追っかけるしかない。

というわけで、僕たちは急遽、駐在さんビコーズ。
それにしても警察官を尾行する高校生。極めてレアケースであることは間違いありません。

すると間もなくして駐在さんがたどりついた場所は・・・

「ありゃ。銀行だ」。
「金おろしにきたのかな？」

「まぁ、そんなもんだろうけど・・・。とってもまずい事態に違いはない」。

ウィンドウ越し。
駐在さんが待ち合いに腰掛けると、奥から男性銀行員がわざわざ出て来ました。

「あ・・あれ・・・」。
「うん。支店長さんだ。たぶん」。
「あ。チャーリーのおじさんの代わりに来た人！」
「言うなよっ！」
「やべ〜〜〜〜。いすわっちゃったよ」。
「どうする？」
「どうするって・・・支店長も俺らにはあんまり好印象持ってないからなぁ」。

銀行強盗に好印象を持った支店長の話を聴いたことがありません。

「とりあえず阻止だ。阻止」。
「うん。巻き添えくらわせたらたいへんだ！」

というわけで、僕たちは大慌てで銀行の中へ。

「ちゅ、駐在さん！」

ドアを押し開けるようにして、ドヤドヤと飛び込んだ僕たち。

「ん？なんだ？お前ら」。
駐在さん、当然の反応です。

支店長さんも
「あ！き、君たちはあのときの！」
「え〜〜〜っと。はい。貴行の大預金者一同です」。

「あのときの銀行強盗っ！」

預金は無視かよ・・・。
ま、無理ありませんが。

駐在さん。怪訝な顔つきで
「なにしにきた？まさかまた強盗ごっこやらかすつもりじゃないだろうな？」

「ま、まさかぁ〜〜〜。僕たちその〜〜〜。駐在さんに大切なお話で・・・」。

「ん？俺に？」

いかにもおもしろくなさそうに、ポケットからハイライトを取り出しました。

「で？なんだ？」

「えっと〜〜〜〜。肺ガンの発生率が喫煙によって跳ね上がるのはご存知ですか？」

「あ？なんだそりゃ」。

つられたのか、支店長もセブンスターをとりだし、火をつけました。

「だからぁ。駐在さんも少しタバコ控えたほうがいいなぁ、と・・・」。

「はぁ？そんな説教しにきたのか？お前ら」。

ちょっと考え込むと駐在さん。
確かに銀行のロビーで警察官に喫煙の説教をたれる高校生、というのもめずらしい。
奇妙な光景であることに違いはありません。まわりのお客さんもなにごとかと遠巻きに見ています。

「ははぁ〜。お前ら。孝昭がモクで停学なったもんだから。俺に公衆の面前で説教しようってすんぽうか？」

「い、いえ。そんな・・・」。

「残念だなぁ〜〜〜。お前らの説教程度でやめる俺じゃねぇんだよ！」

というと駐在さん、これ見よがしにハイライトに火をつけました。
　チャッ


とたんに！


シューーーーーーーーーー!!!!


タバコからすさまじい勢いで吹き出す赤紫の煙！

「な、な、な、な！」

駐在さんビックリ。
支店長はもっとビックリです。
というか銀行中ビックリ！

そうです。僕たちの悪戯とは、駐在さんのハイライトに「煙幕花火」の火薬を仕込んだわけなのですが、まさかまさか銀行で吸い出すとは予定外もいいとこでした。

あわてて火を消そうとする駐在さんでしたが

ハイライトは、煙を吐いていたばかりでなく、とうとうメラメラと発火！

「うわぁっちっちっちっちっち！」

灰皿にあわててタバコ1本を投げ捨てる駐在さん。

あ〜あ。

「チャーリー・・・なんで燃え出すんだ？お前試さなかったのか？」
「え！試したって！俺を誰だと思ってんだ？」

「で、どうだったんだよ？」

「火がついた」。

現象そのままじゃん！それじゃぁダメだろうがぁ！バカっ！

しかし火薬で発火したタバコは、灰皿にあった吸い殻を燃やし始めたため、さらにその煙が加わり、あたりはモウモウ。
赤紫色の煙につつまれる銀行内！僕たち以外はとんでもない大騒ぎです。

が、そのうち

パーーーーーン！

「爆発・・・・した？」

「ん〜〜〜。そうかも・・・」。

そうかもじゃないよ・・・。チャーリー・・・。


「これは逃げたほうがいいな」。
「うん。逃げよう」。

と、話がまとまったところに

　ん？

　雨？

いや。ここ銀行のロビーだし・・・・。


そうです。スプリンクラーです。

　やべ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そのうちに

　ジリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!

騒然とする行内に爆発的音量の非常ベルが鳴り響きました。
どうやらスプリンクラー連動らしい。さすが銀行。よくできてます、防災システムも・・・。

気づくとそれに負けないくらいの大声で支店長が叫んでいました。

「だ、誰か消防署に訂正の連絡しろっ！誤作動だって！は、はやくっ！」
「はい！」

「君っ！お客さんを奥へ！さっさとしろっ！」
「はいっ！」

「それから、シャッター、シャッターおろせ！なにやってんだ！」
「は、はい！」

いや。シャッターおろされると、逃げられないんですけど・・・。僕たち・・・。


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1時間後。支店長室。

VIP待遇の僕たち。ちょっと高校生では入れません。

その高校生に向かって
「わたしは・・・ここの支店に赴任したことを心底悔やんでるよ・・・」。
泣きそうな支店長さん。

「す、すいません・・・」。

「君たちねぇ！ふざけた悪戯してもらっちゃ困るんだよ！」
怒鳴り続けているのは銀行員さんではありません。
はい。消防署長さんです。おかげさまで。

「す、すいませんでした・・・」。

頭上げる暇がありません。

が、ようやく
「あの・・・」。

「なんだ！？」

「僕たちは・・・その・・・駐在さんの喫煙は体に悪いなぁ・・・と・・・」。

「お前ら・・・・」。
あ。駐在さんだけはわかってくださった

「ふざけんじゃねぇぞぉぉぉぉぉ！」

わけないのでした。


<煙幕花火 バラすと発火性がある＞


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