ぼくたちと駐在さんの700日戦争

田舎町で繰り広げられたしょーもない悪戯戦争です

  
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<おことわり>本日フィナーレ。2話連続です。


「母ちゃん!!!」

「よういちぃぃい!!!」

どれほどの再会だったのでしょう?
母と子は、まったく人の目をはばかることなく、抱きしめ合いました。

僕と駐在さんは、黙ってその様子を見守っていました。

「おっきくなったねぇ・・・。ほんとに・・・」。

「うん・・・うん・・・・」。

洋一くんは、声になっていませんでした。

「お前・・。朝ご飯は食べてるかい?」

お母さんは、とてもしばらくぶりとは思えぬことを聴きました。
あるいは母親とは、こんなものなのかも知れない・・・。僕は漠然と思いました。
洋一くんは、
「あ。それより。洋次、すごいじゃないか」。

「うん。そうなんだけどね・・・」。

「ん?なんかあるのか?母ちゃん。まぁ、あいつなら緊張しなきゃだいじょぶだろ?」

「それがね・・。手をね・・・」。

お母さんの説明に洋一くんは絶句しました。

「楽屋は?洋次はどこ?」

「楽屋なんて・・・わかんないよ・・・」。

洋一くんは舌打ちしました。

僕は即座に駆け寄りました。

「お母さん。楽屋なら僕がわかりますよ」。

「ん?母ちゃん、この人は?」

「えっとねぇ。話すと長いんだけど、この人のおかげで出れることになったんだよ。それから暴走族もやめて・・」。

「お母さん、話は後です。洋一さん、案内します!」

洋一くんの手をひく僕を見て、駐在さんがうなづくように首を縦にふりました。

 僕たちの出番まで、あと30分くらい?
 間に合えばいいけど・・・・。

楽屋は係員に開けてもらわないと、行けない場所にありました。

「出場者です!開けてください!」

金属の重い扉が開けられ、僕は洋一くんと走ります。

「確かこっち!」


楽屋の扉には洋次の学校の名前が一番と下に書いてありました。
出場も最後なわけですが、その学校からただひとり。無理もありません。

「洋次!」

洋次はボトルネックの練習をしていましたが、僕の声にきづくと

「ああ。ママチャリ・・・。あ・・・・・」。

「よ、洋一兄ちゃん!」

「洋次。元気だったか?」

こくこくとうなづく洋次。かなり驚いているようです。無理もありません。

洋一くんはとるものもとらず、

「手。見せてみろ」。

洋次は、おそるおそる手を出しました。

「お前、これで今日、できるのか?」

「うん。なんとかするよ。兄ちゃん」。

ボトルネックを見せます。

「そうか・・・。ボトルネック奏法か・・・・」。

そこに僕。

「ごめん。洋次。それがな。おぼろ月夜、ダメになった」。

「え?その小学生、来れなくなったのか?」

「いや・・・。そうじゃないんだけど・・・・」。

洋次は一息、ふっ、と息をはくと

「いいよ。ママチャリ。人の演奏で感動とってもしかたないし・・・。俺は自分のギターでなんとかしたい」。

「うん・・・・。でも、曲、ないだろ?」

するとこれを黙って聴いていた洋一くん。

「お前。手、まったく動かせないのか?」

洋次は首をふりました。
「いや・・・。少しだったら。動くと思う」。

洋一くんは、洋次の手の包帯を解き始めました。

「動かしてみろ」。

おそるおそる手を動かし始める洋次。

「左はだいぶ動くな。フレットおさえられないか?」

「いや・・・少しなら」。

洋次はそう言ってギターをかまえますが、かなり痛そうです。

「ふうむ・・・・・」。

うなる洋一くん。
僕のほうを見ると

「あんた・・・えっと。ママチャリくんって言ったっけ?」

「ええ」。

「紙テープか絆創膏、もらってきてくれないか?」

「ええ。かまいませんが」。

「洋次。ダウンチューニングしよう」。

ダウンチューニングとは、ギターのチューニングを半音ずつ下げる方法。
こうすると、弦は緩みますから、少し押さえやすくなるのです。

僕が学校の医務班から絆創膏をもらって部屋にもどると、洋次と洋一くんは、練習をするでもなく、なにか談笑していました。
なにしろひさしぶりの兄弟の再会。いろいろとつのる話もあるのでしょう。

「絆創膏、もってきました」。

「あ。ありがとう」。

洋一くんは、洋次の指を一本ずつテープでまきながら

「なに演奏するつもりだったんだ?」
「え・・・。アルハンブラ・・・」。

「そっか。アルハンブラはさすがにこの指じゃ無理だなぁ」。

「うん・・・・」。

「かと言って今さら”おぼろ月夜”独奏ってのも、考えもんだし・・・・」。

「す、すいません・・・。僕が・・・・」。
あやまる僕に
「いや。君のせいじゃないよ。いろいろとありがとう」。

「いえ・・・・」。

洋一くん。しばらく考え込むと

「そうだ!洋次の子守唄は?」

「え!洋次の子守唄?」

「うん。もう覚えてないか?」

「いや。忘れろって言われたって忘れらんねぇけど・・・。あれ、エチュード級だぜ?」

エチュードとは練習曲のこと。
『洋次の子守唄』がどういった曲かは、僕にはまったくわかりません。

しかしこの曲名が出て、ふたりはいきなりなごむと、その曲の思い出話をはじめました。

「あれ、兄ちゃんが母ちゃんの女学生時代のポエム帳めっけてなぁ。あははは」。

「うん。それにお前が曲つけたんだよな。けっこういい曲だったじゃないか」。

この時、僕は洋次が作曲もできることを、初めて知りました。

「あんなガラッ八な母ちゃんがあんな詩書くなんてよぉ。笑っちまったぜ。あはははは」。

「うん。よく二人で弾いたな・・・。なつかしいや。歌詞。覚えてるか?」

「うん・・・・。覚えてる・・・”あなたが目覚める朝は 絞り立てのミルクとパン”・・・」。

「母ちゃん、女学生時代は、そういう生活夢見てたんだよな・・・」。

「ああ・・・。現実はえらい違いだよ・・・」。

二人は似た顔を、そろって悲しそうに曇らせました。


「その曲弾けるのか?洋次」。
僕が尋ねると

「うん・・・。まぁ、ギター覚えたてんときに弾いた曲だから。あれくらいならなんとかなるかも知んねぇ」。

洋次はダウンチューニングされたギターを少し奏でました。
それだけでもやはり痛いのか、時おり顔をしかめます。

「でもなぁ。兄ちゃん。あんな単純な曲、いまさら大衆の面前でなぁ・・・」。

「この際贅沢言うな。あの曲ならアルハンブラと違って誰も知らないからな。ごまかしきくだろ?」

「あ・・・・・。そうか・・・・。うん。やってみるよ。兄ちゃん」。

そうこうしていると音楽祭が開演したようでした。

「あ。洋次。僕、行かなきゃ。早いんだ」。

すると洋次は

「あ。うん。ママチャリ」。

「え?」

「いろいろと・・・。ありがと。俺、なんて言っていいかわかんねぇや」。

「いいんだ。がんばれよ」。

「うん・・・。それからな・・・」

洋次はポケットからなにやらとりだすと

「あの・・・ハーモニカの子に渡してくれ。残念だったって」。

それはシャボン玉の小瓶でした。

「うん。わかった」。

「あ。それからな。ママチャリ」。

「ん?」

「スーザホンでレーダー妨害は無茶だぞ」。

やっぱり気づいていたか・・・・・。




    本日2話連続アップ 続けて第50話へどうぞ
コメント

会社からこっそり・・・。
ああっ早く先が知りたい。

それにしてもスーザホン、やっぱりばれてたのね。
2007/05/23(水) 08:36:07 | URL | 水色のうさぎ #lUnectAo[ 編集]

よし、続いて50話いきます。
2007/05/23(水) 09:06:33 | URL | マアカ #-[ 編集]

んん!
スーザホンばればれだったかぁ♪
2007/05/23(水) 09:34:49 | URL | 絵梨 #-[ 編集]

うう…
涙の準備して、次ぎいきます!
2007/05/23(水) 09:36:27 | URL | みゃあ #-[ 編集]

・・・どきどきして胸がつぶれそうです
2007/05/23(水) 09:50:09 | URL | とも #-[ 編集]

首の一振りで心繋がるママチャリさん&駐在さん、久しぶりに会っても綺麗に繋がる兄弟の心、良いですねえ。
2007/05/23(水) 09:50:38 | URL | Dealer #fXFVKkt6[ 編集]

さすが洋一兄ちゃん!!
洋次が緊張しィだって事はお見通しだったか……
そこに的確なアドバイス!!
洋一兄ちゃんもギター上手いんでしょうね

洋次パパは来てないのかな??
2007/05/23(水) 10:08:26 | URL | ぷれっそ #-[ 編集]

洋次の子守唄・・・いやでも期待は高まります。
2007/05/23(水) 13:49:40 | URL | じゅんぢ #-[ 編集]
ス、スーザホン、いつバレたんだろ・・・?汗

ママチャリだって知ってて
「馬鹿だよなぁ〜」
とかって言ってたのかな?汗汗v-14
2007/05/23(水) 15:15:01 | URL | nobuko #K.b24Jj6[ 編集]
登校50日目 その1
バレテンジャン!洋次くん 解っててママチャリくんをバカ者扱いしていたんだ〜!
う〜ん。納得〜〜〜。(^v^)
2007/05/23(水) 17:31:08 | URL | まっつん #-[ 編集]

エチュード・・・・小さい頃に父に連れられてよく行った喫茶店の名前と同じでした。
おばちゃん元気かな。お店まだあるかな。
2007/05/23(水) 17:39:56 | URL | 茶帯 #-[ 編集]

洋次の子守唄、どんな曲なんだろう

涙の用意しつつ次へ、と思ってたら、、、、

ここでスーザホンを話題に出すとは、、、、
でも、洋次の緊張も少しはほぐれたって事かな
2007/05/23(水) 17:44:29 | URL | テラsan #oyCfJ0mM[ 編集]
空へ
OZの名曲に同名のタイトルがありましたね〜
シャボン玉飛んだ・・空へ・・か
2007/05/23(水) 18:51:13 | URL | vai #-[ 編集]

「あんなガラッ八な母ちゃんがあんな詩書くなんてよぉ。笑っちまったぜ。あはははは」。

子供達を育てる為にガラッパにならざる終えなかったんでしょうね、かあちゃん。

こんな、かあちゃんばかりなら世の中が変わっただろうね。

ありがとう。
2007/05/23(水) 19:52:09 | URL | 兵庫のわきやん #-[ 編集]

どんな曲なんだろうなあ。
やっぱり洋次君のお母さん最高!!!

ところで、くろわっさん。(5)ってのはもしかして後からUP?
2007/05/23(水) 23:51:07 | URL | みきまま #AjweBWTA[ 編集]
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2007/05/24(木) 17:16:21 | | #[ 編集]
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