ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「ごめん。僕はちょっと準備があって」。
僕が言うと

「うん。俺も」。
「俺、じじいの法事」。
「俺、じじいの葬式」。
「俺、じじいの結婚式」。
「俺、じじいのお産」。
と、メンバーそれぞれ勝手な言い分。まぁ、高体連の練習がそもそもあるわけなのですが。
バレー部キャプテンの村山くんとて、それは同じでした。

「あ。そうだ村山。それからこれ、澪ちゃんとレオくんに渡して来て」。

音楽祭の招待券を村山くんに渡す僕。

「澪？」
「え？澪ちゃんとこ行くの？」
「今から？」
「ウソ？」

「え？寄るけど・・・。なにか？」

とたんにトレノに群がるメンバーたち！

というかすでに7、8人がぎゅうぎゅうに乗り込んでいます。
ゲームか？お前ら。

「こ、こら！定員オーバーだって！」

車の中は押すな押すなの大騒動が始まっていました。

「てめぇ！じじいの法事に出てろよっ！」
「てめーこそじじいの結婚式に出るんだろ？」
「千葉ぁ！てめぇでけーんだから降りろ！」
「や、やなこった。西条こそ出ろ！」
「村山ぁ！お前広いんだから少しずれろよ！」
「久保は便所でも入ってろ！」

追い出し合いが始まっています。
入れ替わりたちかわり引きずり出したり入り込んだり、それはそれは熾烈な争い。

ようやく6人くらいで納まり、ドアを絞めて中からロックしてしまい、中の連中は得意満面です。
「へっへ〜〜〜〜。ざまあみやがれ！」

窓越しに助手席半分を勝ち取った孝昭くん。
それにしたって定員オーバー。車内はぎゅうぎゅう。
だいたい助手席に2人というのがすでに無茶です。

「くそ〜〜〜〜〜〜〜〜」。

外に残された連中は、くやしそうです。


が、しばらくして車の窓をあけると孝昭くん。

「あの〜〜〜〜。村山・・・・乗ってないんだけど」。

運転手追い出すからだろ？


結局6人乗りで出かけましたが、大丈夫でしょうか？トレノ。

残ったメンバーはブツブツ言いながら、コーラスの最終練習へ。

さすがに最終練習ですので、今日は和美ちゃんも出ています。

「なにか・・・外で大騒ぎしてたわね」。
「あ？うん。まぁ、いつものことだよ」。

「ほんと。でもみんなどこに行ったの？最終練習なのに」。
「うん。ちょっと作戦があってね」。

「ふぅーん・・・。あ。それよりプログラム見た？」
「え？見てないけど」。

「トリの前、高校生のギターソロなんだって。びっくりよね」。

え？洋次がトリの前？

「持ってるの？プログラム」。

たずねる僕に和美ちゃん。
「ううん。相模先生に見せていただいたの」。

僕はちょっと困りました。
洋次の『ライムライト』は、確かに美しいのですが、トリ前、というほどに見事なものとは違います。『アルハンブラ』や『スペイン組曲』なら話は別ですが、フレットを一度に押さえるボトルネック奏法には巧妙というものとは違いました。

「うーん・・・」。

トリ前・・・か・・・・・。

→ → → → → → → → → → → → → → → → →

体育館ステージが最終練習場所。いやがおうにも本番前という雰囲気が漂います。

「あら？男子少なくない？」
と、相模コーチ。

「西条くんたちは？」

「えっと。西条と孝昭は今・・・・警察つかまってます」。

「そ」。

納得かよ・・・。

「久保くんは？」
「おじいさんの法事に」。

「チャーリーくんは？」
「おじいさんの結婚式です」。

「千葉くんは？」
「おじいさんのお産に」。


「じゃ、残った男子はそれぞれ配置についてねー」。

え？疑問はないのか？
答えになってないように当人でさえ思うのですが。

もうすっかり僕らの口応えに慣れてしまったようです。相模コーチ。

僕たちは前回の『3年生を送る会』と演目がほとんど同じでしたので、さほどに困ることもありませんでした。

が、夕方になり、さすがに明日というのに全員揃わないことにいらだち始めた相模コーチ。

「男子全員揃うまで練習続けます」。

　え・・・。そいつはまずい。

なんてったって、全員揃うはずがありません。

「やばい。なんとかしないと。あいつらいつもどるかわかんないんだろ？」
グレート井上くんが言いました。

「うん。ほんとだな。このままだと夜中になっちゃうぞ」。

もうすでに学校に残っているのは僕たちだけでした。
なにより、この後の打ち合わせができないのが困ります。

そこで僕たち。
「先生〜〜〜。喉が痛くなってきました。どうでしょう？休憩入れてなにか飲みませんか？」
「うん。コーラとか飲みたいな」。

これには女子もみんな賛成でした。

「そうねぇ。じゃ、買ってきてくれる？」

「はい。僕行ってきます。立て替えますから会計集めておいてください」。

「あら。学校名言ってつけてきてもらっていいわよ。予算つけてもらってるから」。

そりゃラッキー！

と、言うわけで僕とジェミー、グレート井上くんが買い物班。

「お前ら、そっち頼む」。
「おお！」

30本ほどのコーラやらファンタの瓶を、箱ごともってもどった僕たち。

「先生はコーラでいいですよね？」

「ええ。いいわ」。

先生はもともとお嬢様ですので、瓶からダイレクトに飲むことはありません。
そのため、水を入れていたコップを空にして、そこにコーラを注ぎました。

「はい。先生どうぞ」。

「ありがと！」

さて。雑談の花の咲いた休憩もたけなわ。

「こら〜〜〜〜〜〜〜〜〜」。

なんか先生が叫んでます。

「このコーラ。ちょっとおかしくないか〜〜〜〜〜。あははははは」。

先生の異変にみんなが気づきました。

「あ。先生、おかわりですね？」

「ん！おかーーーり！」

そうです。先生に僕が入れたのはコークハイ。
練習を続けさせないための苦肉の策です。

「あははは〜〜〜〜〜。なんかたのし〜〜〜〜〜〜」。

「はい。楽しいですね〜。先生」。

グレート井上くんたちが、女子達に帰るように伝えています。

ステージ横の相模先生。それにも気づかず

「どんなに練習したって〜〜〜、変態学校は変態だっちゅうに〜〜〜！」
怒っています。

4杯目のおかーりをした頃。先生はコークハイがおもいっきりまわったらしく、すでにロレツがまわりません。

「いのーえーーーーくんっ！きみゃぁ〜〜〜〜、こんな中にあって〜〜〜、じっつにまじめでいいこでした〜〜〜〜」。

「そ、そうですか」。
戸惑うグレート井上くん。

「ほんとすごいんだな。先生の酒癖」。
「ああ。あとは記憶なくすまで飲ませてタクシー呼ぶんだ」。

我ながらなんという作戦でしょう・・・。
台詞だけならとんでもねー犯罪です。

ポプラの時と違って、井上くんがいるために、やたら彼にからむ相模先生。

「いーのーえーーーーー！こら！こっちこいーーー。あはははーーー」。

お気に入りか？

からまれ続けるグレート井上くん。なぜかしみじみと
「なんか。うちの母と似てるなぁ。他人と思えない」。

「え？グレート母さんも飲むの？」

「うん。カープが負けたり・・・」。

「うん」。

「カープが勝ったりしたとき」。

「はぁ？」

「あとはカープの試合ないときとか」。

全部じゃん！




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　　　　11章-第47話へつづく→


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