ぼくたちと駐在さんの700日戦争

僕は、孝昭くん、チャーリーをともなって、駐在所にいました。
なにをしてるって「麻雀」です。
そもそも高校生につきあって麻雀するのもかなりなものですが、娯楽が少なかった時代、麻雀は高校生から大人に幅広く大流行していたものです。ポンジャンはご存知その子供版ですが、ドンジャラという名称で別メーカーからも発売されました。


「なにぃ？麻雀やろうだぁ？」

「ええ。点1くらいでどうですか？」
（点1=1点1円の賭け麻雀）

「ほほぉ。お前らが麻雀ねぇ」。

「で。僕らが勝ったらマスターの負け分と相殺してくれます？」

「的場のぉ？お前ら、的場の負けいくらかわかってんのか？」

「ええ。まぁ、ですから一部だけでも返したいと・・・」。

「おもしろい！が、お前ら負けたらどうすんだ？」

「ちゃんと払いますよ。じゃ、10点1円で・・・」。

「んんん？なんか賭博してるとか言ってまた脅迫するつもりじゃないだろうなぁ」。

「まさか。僕ら高校生ですよ。警察脅すだなんて」。

「さんざん脅迫してるくせに・・・。よし！やる！返り討ちにしてくれるわ！」


という成り行きで、その返り討ちに合っている真っ最中の僕たち。
駐在さん、まー、麻雀の強いこと強いこと。

駐在所で麻雀など、と、皆様は目をしかめるかも知れませんが、この程度の光景は昭和ではよくあるものでした。良くも悪くも駐在所はよく交流の場に使われたものです。

それにしても駐在さん。
高校生相手にまったく手加減というものがありません。すでに駐在さんの一人勝ち。

「お前ら〜〜〜。弱すぎてつまんね〜〜」。
お茶をすすりながら駐在さんが大いばり。その割に愉快そうです。

「くそ〜〜〜〜〜。強え〜〜〜〜」
悔しがる僕たち。

「ちょっとションベンしてくるからな。ま、オールマイティでも探しとけ。わははははは」。

お茶を飲みすぎたのか、トイレに立つ駐在さん。

　RIRIRIRIRIRIRIRIRI


やがてもどってくると、電話に出ている僕に気づかれました。

「ん？どっかから電話か？」

電話口の僕。
「・・・ええ。今、ちょうど駐在さんと賭け麻雀を・・・。ええ・・・。いや。僕たちよってたかってボロ負けです」。

不思議な顔の駐在さん。
「かかってきたのか？誰？」

こくこく、とうなづきながら僕。
「あ。署長さん、今、駐在さんもどってきましたが？どうしますか？・・・え？いい？」

駐在さん、この言葉に敏感に反応。

「しょしょ、署長？？？？ばか！か、か、かわれ！こら！」

駐在さん、瞬時に僕から受話器をうばうと。
「はいはい。はい、いえ。今ちょっとトイレに・・・か、賭け麻雀なんてとんでもない。ちょっと地元高校生とふれあいを」。


「駐在さん」。

横から声をかける僕に、迷惑そうに手をふる駐在さん。
「はい。賭け麻雀などしたことございませんとも。・・・ええ。かつて一度も〜〜〜〜」。

「駐在さん」。

「やかましい！ママチャリ」
小声で怒鳴る駐在さん。

「駐在さん、その電話。マスターです」。

「んあ？」

というわけで、一度も賭け麻雀をしたことのない駐在さん。
マスターの負け分は気のせいだったということで、チャラになりました。



その足でスナックポプラに立ち寄る僕たち。

「マスター。これでチャラでいいですね？」

「いや〜〜〜〜。あはははは。助かった〜〜〜〜。駐在さんも馬鹿だよなぁ」

「もともとは僕の借金じゃないのに・・・」。
ぶつぶつ言う僕に

「まぁまぁ。ママチャリくん。ケーキでもおごるからさ！」

「ん〜〜〜。十万以上のケーキなんてないでしょ。ここ」。
というか全国にもあんまりありませんが。

しかし、僕たちに出されたケーキは、なかなか豪華。
トッピングに「赤ずきんちゃん」らしきものまでのっかっていて実にかわいらしい。

「あ。マスター、ケーキ。種類増えたんですね」。
「うん。ちょうど駐在さんから新しいケーキ屋紹介されてね〜〜。そこ使うように言われて」。

駐在さんの紹介？
ケーキ屋？

「え・・・。それって・・・・」。

ケーキ屋ケンちゃんに違いない・・・。

「それってひょっとすると西条の町の・・・・？」

「そうそう。N市のケーキ屋メルヘン」。


「メルヘン〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜？」

　あのケンちゃんの店が「メルヘン」？

　信じられない・・・・。

「けっこうおいしくってビックリしてんだけどね」。

うん。それ以前に名前だけでビックリですけどね。
メルヘン。

「はっほ〜〜〜〜〜♪殺人蹴りっ！」のあのケンちゃんが・・・。メルヘン・・・・。

確かにケーキの飾り付けは、尋常じゃなく可愛いのですが。
それもあの殺人鬼みたいな顔からはとうてい想像つきません。


「でもN市から運んで来たんじゃ合わないんじゃ？」

「いや。けっこう手広くやってるよ。業界じゃ評判の職人だしねぇ。それにうちは洋次くんが運んでくるから」。

「そう言えば、洋次は？」

「ああ。今日は学校の日だから休み。よく働くよ〜。ママチャリくんとえらい差だ」。

ほっとけ！就業意欲がちがうんだよ！
働けば働くほど借金が増えるのと一緒にしてもらっては困ります。

「手もだいぶ動くようになってきたみたいで。まー、いい人紹介してくれたよ」。

「そうですか。よかった」。

実際洋次の手は、若いこともあって、信じがたい回復をみせていました。
が、回復しているとは言え、すでに音楽祭はその週末。
高度な『アルハンブラ』ができるほどではありません。


　それにしても・・・メルヘン・・・ねぇ。





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