ぼくたちと駐在さんの700日戦争

孝昭くんが気を吐きます。
「てめぇらよう。やってみようじゃねぇか。え？コーラス部と暴走族とどっちが強ぇかよ」。

「いや。その比較はどう考えても暴走族のほうが強そうだぞ」。

「あれ？そ、そうか？」

「うん。戦う前から勝負みえてるな」。
「うん。みえてる」。
「ジェミー＆SO ONより悪いな」。
「うん。めちゃくちゃ悪い」。

狂人鹿目を前にしてこの余裕。
西条くんと孝昭くんが揃うとやはり違います。

鹿目以外の敵2人は、なかなか着かない援軍に、少し焦りが現れていました。

　「どうしたってんだ？」
　「ああ。おかしいな」。

小声で打ち合わせる2人。

実は逆側の道路はグレート井上くんたちが封鎖しました。ここは完全孤立の場所です。


こちらは6人。敵は3人。

敵の焦燥も手伝って、はりつめた空気が流れます。
鹿目はというと、なにやらシャドウボクシングらしき動きを始め、まるでその雰囲気は伝わっていません。
　
　ここは早期決着しかない。

「お前ら、鹿目じゃなく残りをやれ。わかったな」。
西条くんが指示します。

あまり披露はしていませんが、こういう場合でも、僕たちには戦いの布陣がありました。
それを西条くんが手をつかって指示します。
その布陣に、さらに僕がそれぞれに耳打ちで作戦を伝えます。

　ビュ
　　ビュ
　　　ビュ

孝昭くんがポケットにいれていたつぶてを投げ

「いけーーーーーーーー！」

戦いが始まりました。

鹿目は孝昭くんの投げたつぶてをひょいとかわします。

今回の作戦は飛び道具でした。
アスファルトの駐車場はせいぜい小石しか落ちていません。
つまり敵には飛び道具はありません。
このために、僕たちはポケットいっぱいに少し大きめの石をつめていました。

特に孝昭くんの石つぶては抜群のコントロールで、標的に当たっていきます。

5人から石つぶてを受ける恐怖は、それはなみたいていのものではありません。

「ててて！てめーら！きたねぇぞぉ！」

「うるせーっ！喧嘩にきたねぇもクソもあるかぁ！」

彼らは大慌てで117クーペの後ろに避難しました。
普通、気が立った喧嘩の場合、それでも投げ続けてしまうものですが、僕たちは違います。
なにしろ球数に制限があるからです。

僕たちは彼らが出て来るのを待って投げればいいだけのことなので、むしろ車との距離をおきました。

一方、西条くん　対　鹿目

「せやぁ！」

西条くんは鹿目の足を狙って蹴りをはなっていました。
ボクシングも多少なりとたしなんでいる西条くんは、ボクサーがフットワークが命であることをよく知っていました。

が、敵もさるもので、かんたんに当てさせてはくれません。
僕は西条くんのキックが空ぶるのを、この時初めて見ました。

逆に鹿目のパンチは、時おり西条くんの頬をかすめていました。

　やはり！
　プロとの格差だ・・・。まずい。


孝昭くんが時おり鹿目をもにらみ、つぶてを打つ機会を狙いますが、動きが激しくてねらいきれずにいました。

と、その時、車に隠れていた2人が動きました。
僕たちはいっせいに攻撃しようとしましたが、なんと。

大男が洋次をおさえ、盾にしたのです。

「へへへ。これで石は投げらんねぇな」。

が、孝昭くん。
これにむかって

　ビュッ

さらに石を投げつけます。
驚く大男。

「こいつはどうか知らネェが、俺そいつ知らねぇもん。一緒に死ねや」。

「ええええええええ」。

さすが勝つためなら手段を選ばない孝昭くん。

とは言うものの、人間ひとりを盾にすると、さすがに後ろの人間に当てるのは無理になります。


しかし、この時。

　　バババババババババババ

さっきと逆側から、複数のバイクの爆音が聴こえてきました。

Uターンで検問を逃れた者か、あるいは調書を終えたやつら？

いずれにせよ少ない数ではありません。

封鎖はしてありますが、突破されたら圧倒的に不利に陥ります。


僕たちは、わずかにそっちに気をとられてしまいました。

そしてこの一瞬を見逃さなかった大男が

「てめぇらーーーーーーーーー！」

僕たちに襲いかかろうとしました。

が、


なんとその足のズボンのはじっこを、洋次が必死でおさえたものですから、男はそこでバランスをくずしてしまいました。

「洋次！てめぇっ！」

そして

そして

これに激昂した大男が


あろうことか洋次の手を


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


洋次の
悲痛な叫び声がコンクリートづくりの廃屋に反響しながら、響き渡りました。


　あ


　なんてこと・・・・


大男は飽く事なく洋次の手を踏みつけ続けます。

やっと見つけたシャボン玉の夢が・・・

無惨に踏みつけられ続けます。

　「でも。シャボン玉はシャボン玉なりにな。見たい夢もあんのによぉ」。

　「がんばれよ！」
　「消えんなよ！こら！」

　「ママチャリ。さんきゅうな。俺、なんて礼言っていいか」。

　「えっと・・・。その、音楽会にさ、み、み、み、みみ」。





「洋次ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・・」




僕は洋次にかけよろうと、走り出していました。


「ばかっ！」
それを止めようと孝昭くんも走ります。


　ガッ

大男の木刀が、僕の耳あたりにおりてきて
裂くような痛みが顔半分に走りました

　うあああああ！

西条くんが、これに気づき

僕のほうへとむかおうとしましたが

これを見逃す鹿目ではありませんでした。

　　ドッ！

という鈍い音がして

西条くんが地面へと傾いていきます。


「ひゃはははははは！さいじょーくーん、よそ見はだあーめーよぉぉぉぉぉぉぉ」

　ドッ！　ドッ！

西条くんがサンドバッグ状態になっていくのを、
僕は冷たく固いアスファルトの上で・・・見守るしかなく


僕の横では孝昭くんが大男に襲いかかり

千葉くんが西条くんの援護にむかったのがわかりましたが

千葉くんも鹿目のパンチをくらいました。


悪い状況は続きます。

さっきまで停滞していたバイクの音が、こちらに近寄って来るのがわかりました。

「ああー、やっときたぜぇ。あいつら」。


　まずい・・・突破された・・・・・・。




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