【責任】
戦国武将もののゲームの世界からそのまま抜け出してきたかのようなビジュアル系の謙信。その姿形に目を見張った大河ファンも少なくないだろう。16日に最終回を迎えるNHK大河ドラマ「風林火山」で、ドラマ史上もっとも美しい上杉謙信を演じた。
意表を突いたキャスティングには賛否両論あったが、謙信のおひざ元・上越の人たちはGackt謙信をしっかり受け入れたようだ。8月、当地で開かれた「謙信公祭」に、甲冑姿で白馬にまたがって登場。「地震の災いに見舞われし上越の地に上杉謙信まかりこした。みなのもの勇気を出して立ち上がるのじゃ」と見物客に声を張り上げると大歓声が沸き上がったという。
その中にいた90歳近いおばあちゃんに、後日、別の撮影で再び上越を訪れたときに再会した。普段着姿だったにもかかわらず、おばあちゃんは手を合わせ、「お早いお帰りで」。思わず「身体は元気か」と切り返すと、「よかったです。また会えましたねぇ…」。
うれしい再会だった。
「この地の人たちにとっては、いまだに上杉謙信は神であり心に残る人物。そういう人たちの気持ちを、ひとりの日本人として、男として裏切りたくない。謙信をやって、責任が(自分に)加わったと思うね」
【大志】
人気は日本だけでなく、アジア全般に広がっている。大河出演の話がきたとき、ある大志を抱いた。
「僕は、武士道の根源を作ったのは謙信だと思っている。そんな上杉謙信を通して、日本民族がどういうものかアジアの人にもっとわかってもらえるんじゃないかと思ったんだ。大河ドラマは世界で一番流れている番組だし、僕が出演することで間違いなく中国、韓国、台湾の人は見てくれる」
コンサートで5万人の観衆を酔わせる男は、自分の影響力の大きさをひしひしと感じている。自分の使命は「表現を通して多くの人の背中を押すこと。そのきっかけをつくること」だといい、そのための手段を本気で考えているのだ。
【進化】
だから、おのずと生活もストイックになる。独特の健康論に基づき、睡眠時間は1日2−3時間。朝は4時半に起きて家の道場でトレーニングやスパーリングに汗を流す。食事はたまに大好きな肉を食べる以外は野菜中心。米食は19歳でピタッとやめた。
「もう10年、コメは食べていない。コメを食べると身体のラインがキープできなくなるんだ。栄養価が高かった昔の米と違って胚芽(はいが)のない今のコメはほとんどが炭水化物。それは他のいろいろな食材に含まれているわけだから必要ない」。ダイエットというより、進化を目指すための“修行”のようだ。
【挑戦】
謙信のイメージとも重なる私生活のなかで、ちょっと意外なのが、大のガンダムファンだということ。19日に発売されるメモリアルアルバム「0079−0088」(日本クラウン)では、自ら手がけた「機動戦士Zガンダム」3部作の主題歌に加え、ガンダム初期の劇場版主題歌「砂の十字架」「哀 戦士」などのカバーにも初めて挑戦した。
「“ファーストガンダム”はガンダムの原点。中途半端な形で人にいじられるくらいなら僕がやるべきだと思った」というが、その後のガンダムについては「商業主義の副産物」とバッサリ。
「ガンダムってさ、結局はどっちがいい悪いではなく、どちらにも戦う理由がある。人間、傷つけば死ぬし、死んだら悲しいっていう当たり前の人間ドラマをテーマにしているんだよね。ロボットアニメだから誤解もあるんだけど、ヒーローとヒールしかいなかったそれまでのアニメと違って呼応型というか『君はどう思う?』という視点を初めて入れたジャパンアニメのオリジン。それを作った富野(由悠季)さんの気持ちに応えたかった」
話題がガンダムに飛んだとき、一瞬、サングラスの奥の瞳が見えたような気がした。考えてみれば、謙信も戦国時代の“ニュータイプ”だったのかもしれない。
ペン・菊地麻見
カメラ・緑川真実
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