ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「ええ。この前、すっげーぶっとばしてきた車がいて」。
「うんうん」。

「僕の前でキキーって停まって」。
「うんうん」。

「そいつに金まきあげられました!!」

「なんだと?」
「いくら？」

「2000円くらい・・・。所持金ほとんどでした」。

「なんだってお前、早く言わねぇんだ？」

「え？言えばなんとかなりますか？」
「おお。金ぶんどり返してやる！特徴覚えてるか？」
意気込む孝昭くん。

「ええ。車に電飾つけててー」。
「電飾な・・・」。

「ウィンカーがハデハデでー」。
「うんうん。ありがちだ」。

「けっこう日焼けしててー」。
「日焼けね」。

「目立つ帽子かぶっててー」。
「目立つ帽子・・・」。

「けっこう歳いっててー」。
「歳・・・」。

「確か名前が・・・・・」。

「うん」。

「・・・・総合タクシー、だったかな？」

「さ。飯食いに行こうぜー」。
「うん。飯だ飯だ。さっさと行こ」。
「うん。人生上でも一番無駄な時間くっちまったな」。
「ああ。とりもどさねぇと」。

「あーーー。先輩ーーーー。金ぶんどりかえしてくださいーーー」。



続いてかなり屋食堂。例によって僕たちはサブマリン定食。

「あんたたちねー。たまにはサブマリン定食以外頼みなよ。いっつも並の下で悔しかないのかい？」
女将さん。自分で勝手に「波の下」を命名しておきながら。

「え。ぜんぜん悔しくねぇぞ」。

「だってねぇ。潜水艦だってたまに浮上するってもんだよ？」。

「うーん。じゃ、次は沈没船定食つくってよ。俺ら浮きあがんねぇから」。

「まったくねー。井上くんまでいながらねぇ」。

「え！ぼ、僕ですか？」
「それよりさー。団体割引考えてよ。おばちゃん」。

「団体？」
「そうそう。こんな集団で来るのめずらしいだろ？」

「うーん。潜水艦の団体ってのもねぇ。困ったもんだよ」。

ちょうどこの時、道路を猛烈な騒音をたてて通過するバイクの音が聴こえました。
そのすさまじい爆音は、屋内の会話でさえままならなくなるほどでした。

「んー。こんな爆音聴けば、赤ちゃんもひきつけおこすなぁ」。

女将さんが
「なんかねー。ここんとこ増えたんだよねぇ。よその町から来てるらしいんだけどね。困ったもんだよ」。

「よその町から・・・」。

ここで情報通の久保くん。

「うん。どうやら進出してきてるらしい」。
「そうなのか？」

「となるとあまり時間猶予ないな」。
「ああ。西条、しかけちゃってるしな」。

「どういう手でいく？」

「んー。正攻法は無理だなー。相手何人くらいだろ？」

西条くん。
「あそこに集まってるやつらだとすると、最大だと50人くらいはいってるな」。

50人。途方もない数です。

「正攻法だと戦えるやつ少ねぇからなぁ。俺ら。武闘派じゃねぇから」。

グレート井上くん。
「うん。西条が5人やって、孝昭が4人やったとしても・・・」。

ここで孝昭くん。

「ちょっと待て！なんで俺が西条より少ねぇんだ？」
これに西条くん。
「いやーーー。孝昭くん。無難な数え方でしょー」。

「あんだと。こら！てめーが5人ならこっちは6人だぜ！」
「お！言うなぁ。じゃ、俺7人」

「んが？じゃーー、じゃーーー、俺はなーー。10人だっ！」
「おおおおお！てめーが10人だったら俺は20人いけるぜ！」

すぐ競う。どんどん数は増え続け

「井上ー。悩まなくても50人すぐいくじゃん」。

「あ？あいつらの算数なんかあてになるか。すでに2ケタになってるだろ？西条達の計算は一ケタが限界だ」。

限界って・・・。そりゃあんまりだ。井上くん。

すでに西条くんと孝昭くんは、とっくみあいになっていて、まわりのテーブルがガタガタ動いていました。
と、ここで、かなり屋の女将さん。

手に持っていたドンブリで、いきなり2人を殴りつけました。

♪コワ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン

奇麗な音色が2度ひびいたかと思うと

「っつーーーーーーー！」
「い、いってーーーーーー！あ、あたま割れるぞ！なにすんだおばん！」

「もうイッパツ殴られたいらしいねぇ。西条くんは」。

「あ・・・。いえ・・・。すいません・・・おねえさま・・・」。

どうやら最強は、かなり屋の女将さんのようです。
この人なら一人で50人、いけるかも知れません。

「あんたらねぇ。うちの息子、へんなケンカに巻き込まないでくれる？」

いや。河野くんはどっちかと言えば、率先してますが。

「せっかく息子、生徒会長なれたんだからさ！」

げっ！まだ信じてたのか・・・おばちゃん・・・・。

河野くんは、つい先日、次期「農耕クラブ」部長に任命されました。
まぁ、まんざらでもない。
稲の成長記録書くだけだけど。



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