ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「じゃぁよ。運転席のあのボタンあるだろ？」

「うん」。

「あのボタン押すとミサイル出るって知ってっか？」

「えええええ！ほほほ、ほんと？」

「あー。前の車じゃまなときとか、宇宙人に立ちふさがられたとき、発射すんだ」。

これは僕も初耳でした。

「うわーーーー。車ってすごいんだね！」
「だろだろ？」

「でももうちょっとましなウソ言えないと」

「え・・・・」。

「なんか喜ばないと西条にいちゃんに悪くって」。

「てめぇ。小3だろ？小3。小3らしく喜べよっ！」

するとのぶくん。突然哀しそうな顔をして

「ごめんなさい・・・ボク・・・しっかりしないと生きてこれなかったから・・・・」。

目を覆ってしまいました。

西条くん、大慌てです。
「え！い、いや。そそそ、そういう意味じゃねぇんだよ！いや。いいよ。しっかりしてて。うん」

「あーあ。西条、のぶ泣かせた」。
「うん。泣かせた」。
まわりから僕たちも援護射撃。

「え？い、いやぁ〜。そ、その〜〜。のぶ、あの、ごめんな。えっとー」

すると、のぶくん。
「あはははー。ひっかかったー！」

「げ！泣きまね!?」

西条くん
「てめぇ！どこで覚えた？泣きまねなんかよー！ろくな人間になれねぇぞ？」

「えっと。ボクの鞄を壁の上にわざと置いて、ボクが女子高生のみなさんを騙してハシゴに登らせて、お兄ちゃんたちがスカートの下から覗いたとき」。

「う・・・・」。

原因はてめぇだ。バカ。
しかもとっても正確で具体的。

「『赤ずきんちゃん気をつけて』って言う作戦なの」。

「ぐ・・・・」。

「チューリップのプリント柄ってよろこんでた」

「・・・・・・・・す、すいませんでした」。

なに小学生に謝ってんだ？こいつ。情けない。
うーん。しっかりしたいい子に育ったなぁ。のぶくん。

「生涯言われるな。西条」。
と、僕。

西条くん。
「ご、ごめんなさい」。

実際、施設に入ってからののぶくんは、前よりいっそうしっかりしていて、しかも明るい子に育っていました。
所長さんの話だと、やはり抜群の成績で、施設始まって以来の主席とのこと。
教科書や事典を読むのが好きで、すでに3年生新学期が始まる前に、3年生分の教科書を読破したそうです。


でも、西条くんがのぶくんにあげたドライブは、とても素敵なドライブでした。

「ここは？」
のぶくんが尋ねます。

「のぶになー。見せたいものあってな」。
と、西条くん。

車から降りると、駐車場では、僕たちのグループほとんどが待機していました。
小学生ひとりにこの接待！

「あーーーー！チャーリーさん！」
「のぶ〜〜〜〜」。

「ジェミーさーーーん！」
「のぶくん〜〜〜」。

みんなが次から次にのぶくんを抱き上げました。

「タカアキさ〜〜〜ん」
「のぶ〜〜〜〜」
「まだ女の子のスカート覗いてんの？」
「え・・・。いや・・・」

と、西条くん。
「のぶ。そんなゴロツキよりなー」。

と、みんなの後ろから

「ミカちゃん！」

「のぶくん〜〜〜〜〜！」

なんと！抱擁！

これにみんなビックリ！

「げげ！俺でさえ経験ないのに！」
「まったくだ！この小学生カップルがぁ！」
「いいぞ！そのまま押し倒せ！のぶ！」
「ちがうだろ」

しかもしかもしかも

なんと！Kiss!!!!!!!

「げ！このませガキがぁ！」
「う、うらやましい・・・」

ここでミカちゃん。
「フーフはみんなするんだお！」

ええ、ええ。しますけどね。
そうでした。忘れてました。夫婦でしたね・・・。

西条くん
「ミカ？俺にもキッスしてくれよ」。

と、ミカちゃん。
「それはウワキって言うんだお！だからダメ！」

あいかわらずませてる・・・・。
どこで知ったのでしょう？ウワキ。

「のぶくんもウワキしてなぁい？かわいい女の子いるんでしょ？」

「え？うん。いっぱいいるよ」。

これにミカちゃん。大むくれ。

「あ・・・い、いや。ミカちゃんほど可愛い子はいないよ。うん」。

「ホント？」
「ホント」。
「ウワキしてなぁい？」
「し、してません」。

すでに尻にしかれつつあるのぶくん。


西条くんが僕に耳打ちしました。
「ミカとのぶ、頼むな。俺は村山とリョウんとこ行って来る」。
「え？あ、ああ」。

そう言えば、村山くんと同じ病気って言ったっけ。リョウくん。


夏の絵日記のときと違い、市民プールは使いようがありませんので、西条くんは市民体育館を借りていました。
屋外では、雨が降ったり寒かったりすると困るからです。
体育館へと移動すると、そのすぐ隣りに市民図書館。

僕と洋次がギターを練習した壁が見えて来ました。
壁の「夜桜連合」の文字は消えておらず、そこに洋次と澪ちゃんがいないことだけが、あの時と違います。

　洋次・・・。どうしてるんだろ？

「おい」。
孝昭くんの声で、僕は我に返りました。
「ん？あ、なんだ？孝昭」。

「夜桜の落書きだな」。

「あ・・・。うん。地元だからな。あちこちにあるみたいだ」。
「ああ。病院の塀にもあった」。

病院の塀にも？
信じがたい・・・。

「だいぶ組織、でかくなってんじゃねぇかな」。
「うん。ありえる」。

「さっさとやんねぇと、こっちがヤバいぞ」。
「ああ。明日から本格的に動くつもりだ」。

　洋次・・・。

僕たちは、のぶくん、ミカちゃんと2時間ほど遊びました（というか遊んだのは僕たちだけで、2人はイチャイチャしていただけにも思えますが）。
ちょうど帰る頃に、西条くんと村山くんがもどりました。

「どうだった？リョウくん」。
「うん。さすが経験者の話だからな。少し元気出たみたいだったよ」。

「過酷だよな。運命ってのは」。

「なに言ってんだ。運命がそうくるなら、こっちにも考えがあらぁ」。

「考えあんのか？」
「あ？それ、お前が考えんだろうがよ」。

そういう意味か・・・。

「でも、リョウはミカいるからあんなに元気でいられるんだよな」。
「うん。僕もそう思うよ」。
と、村山くん。

とりあえず会話を聴く限りでは大丈夫なようです。

「みんなで行かなくていいのか？」
「ばかだな。この人数行ったら大騒ぎだって。病院だぞ」。
「それもそうだな」。

僕たちはそこで流れ解散し、僕と西条くんは、村山くんの車で再びのぶくんをつれて移動することに。森田くんに代わって孝昭くんが後部座席に乗り込みました。

のぶくん、またミカちゃんとしばしのお別れです。

「バイバイ。ミカちゃん」。

「うん！ウワキしちゃダメなんだお！」
ミカちゃん。すでに泣きべそ。

「うん。わかった！絶対しないから！またねーーー！」

この程度の別れでも、ちょっぴりセンチメンタルになるものです。

車の後部座席からのぶくん。

「ねー。ママチャリさん」。

「え？なに？」

「ところでウワキってなぁに？」

えっとーーーーー。

車は一路僕たちの町へ。
のぶくんには、もうひとり、会ってもらわなくてはならない人がいました。
駐在さんと、一時期お母さん代わりになっていた奥さん、そして。その赤ちゃん。「愛ちゃん」です。

「おばちゃんに、赤ちゃん産まれたの？ほんと？」

「うん。ほんと。愛ちゃんって言うんだよ」。

「へぇーーーー。女の子なんだ！可愛い？」

「うーん。可愛いけど・・・・」。

「けど？」

「ミカちゃんの前で言っちゃダメだよ」。

「あ・・・。ウン・・・。そうする・・・」。

のぶくん、とってもお利口です。



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