大学教育への平均投資収益率は低下している
以上見てきたように、教育関係費は子育て費用の中で大きな割合を占めており、特に、近年の大学進学率の上昇を反映し、大学教育に対する支出額が増加している。
それでは、大学教育を受けることは、多額の教育費に見合うだけの経済的合理性があるのだろうか。大学教育の役割については様々な考え方があるが、ここでは、大学教育を受けることにより、就職後一般に高卒者より大きな生涯所得が得られるという経済的利益に着目し、大学教育を一つの投資機会ととらえてその収益率
4を推計してみることとする。すなわち、この収益率がマイナスであったり他の投資機会と比べて低かったりすれば、大学教育は経済的には見合わないということになる。
大学教育の収益率は、大学教育にかかる費用をまず投資として払込み、就職後に高卒との賃金差を定年まで毎年受け取るような金融商品の平均利回りと考えることができる。ここでは大学教育にかかる費用として、大学の教育費及び在学時に働けないことにともない得られなかった4年間の所得だけでなく、大学への進学を想定して支出したと考えられる高校時代の補習教育費、私立小学校及び中学校の授業料を加えている。これは、大学に進学する(させる)という意思決定は高校卒業時点よりもずっと早くになされることが多いと考えられ、その場合には、小中高段階での大学進学を前提とした支出については、大学教育にかかる費用としてとらえることとしたものである。比較の対象となる高卒者は、高校時代には補習教育を受けず、小学校、中学校は公立校を選択していることと仮定する
5。
まず、大卒者と高卒者の生涯所得の伸び率を見ると、60年生まれと、65年生まれ及び65年生まれと70年生まれを比べると大卒者の方が伸び率が大きいが、70年生まれと75年生まれでは、高卒者の方の伸び率が上回っている(
第3−2−8図)。
こうしたことから、大学教育の収益率は、60年生まれ、65年生まれ、70年生まれ及び75年生まれの男性大卒者
6でそれぞれ6.0%、6.1%、6.0%、5.7%となり、最近低下している
7(
第3−2−10図)。こうした収益率の低下の背景には、大学進学率が上昇し、就業する上で大卒であることがそれほど珍しくなくなったことがあると考えられる。