還暦にじじいは、さすがにぶつかるのを予想したのか、 諦めてギアーをローに入れなおして10mも前に出て、 ポルシェが出るのを待っていた。 男のくせにだらしないやつだ。 じじいはなるたけポルシェから離れてこちらを見ている。 おじけずいた模様である。
駅前通りで渋滞待ちをしていたら、 後ろから大音量の軍歌が聞こえてきた。 加藤隼戦闘隊、勇ましい良い歌だ。 隣りで愛妻
が感心して 「 暴力団にしては珍しく音が割れていないわね、 ああゆうのって、いつもバカ丸出しの大音量だから聴くに耐えないのよ。 今日のは聴いていられるわね 」。 そうゆう問題なんだー・・・・。
ぼうりょくだん ( 右翼 )の街宣車はパジェロミニだった。 つや消しの国防色の車体にでっかい日章旗を3本もはためかせている。 どう見ても旗が走っている様にしか見えんぞ、え?、 格好最悪だなあ。 もっとでっかい車にすればいいのに。 きっと貧乏なのだろう、かわいそうに・・・。 大音量でも割れていない音楽を聴かせてくれる街宣車は、 予想通りに反対車線に出て強引に左折して何処かへ消えた。 なぜか後ろのウインドウに 「 Appi 」 というステッカーに、 よくわからないなあー。 右翼もスケボーやるんだ・・・。
国道16号でトレーラーの前だけの、よくわからない車が左折してきた。 後ろの部分のコンテナを牽引していない全長3mしかないトレーラーの出現に愛妻
がけらけら笑っている。 「 なによあれ、 前しかないじゃない。 気持ち悪いわねえー 」。 そうだね、 カブトムシの頭だけが走っているみたいだね。
帰宅して我が家のカーポートのコンクリをしゃがんでワイドハイターで擦っていたら、 地下足袋をはいて自転車に乗った、これまたじじいに声をかけられた。 じじい 「 なーに塗ってんだあ? 」。 あー、これ? ワイドハイター、漂白剤ですよ。 コケを落とすのに良いというアドバイスを頂いたもので・・・。
じじいはこの辺に住んで30年になる、とか、 大根は辛い、とか、コンクリートは洗濯機に入らないよなあー、とか、訳の解らない事を言っている。 うるさいなあー、 気が散るなあー、 もういいからどっかへ行っちゃいなよ。 ふと、じじいの自転車の前カゴを見て驚いた。 缶コーヒーが6本も入っている。 どうすんだよ、 そんなに買ってさ。 冷えちゃうよおー、缶コーヒー、 いいのかよ。
じじいはワイドハイターには驚いたらしく、 実はうちもコケがひどくてなあー、と言っていた。 ワイドハイターのでっかいボトルを見せて、じじいは感心してよく解らない自転車をキコキコこいでどこかへ行ってしまった。 2階のベランダで花に水をやっていた愛妻
が上から何か言っている。 「 ねえ、いまのひと、知り合い? ぱぱ、漂白剤で駐車場を漂白除菌なの? ね、柔軟仕上げ剤ソフランもあるけど、要る?」。 あのね、コンクリはふわふわになっちゃったら困るんだよ、 ね。