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抜けた乳歯、再生医療に 名大がバンク設立 幹細胞活用 

2007年12月10日

 子どもの抜けた乳歯から、本人や親の骨折を治せるようになるかも知れない――。名古屋大学は6日、乳歯や親知らずを集めて幹細胞を抜き出し、保存する「乳歯幹細胞研究バンク」を同大医学部=名古屋市昭和区=に設立した。集めた幹細胞を使って治療や再生医療の基礎研究に取り組む。骨髄バンクや臍帯血(さいたいけつ)バンクに続く新たな細胞バンクとして期待されている。

 研究に取り組むのは、名大大学院医学系研究科頭頸(とうけい)部・感覚器外科学講座(歯科口腔(こうくう)外科)の上田実教授らのグループ。上田教授によると、歯の幹細胞のバンク設立は世界初という。

 乳歯や親知らずの中にある「歯髄幹細胞」が再生医療に活用できる可能性が数年前に分かり、世界で研究が加速した。上田教授らは、子イヌの歯髄幹細胞で親イヌの歯槽骨を安全に再生することに成功し、世代間の移植に道を開く研究として注目された。

 上田教授によると、歯髄幹細胞は、(1)培養で増殖する(2)骨、軟骨、神経などの元になる細胞が含まれている、などの特徴がある。すでにバンクがある骨髄や臍帯血に比べ、幹細胞の密度や増殖能力が高い。乳歯や親知らずは通常は医療廃棄物として処分されるので、集めやすい。

 バンクは、無菌の施設で幹細胞の分離や保存、培養などができる。当面、歯科医院などに呼びかけ、乳歯や親知らずを48時間以内に届けてもらい、歯髄幹細胞を抜き取って培養、保存する。家庭で抜けた歯は、密閉できる容器に牛乳といっしょに入れ、宅配便で10度前後に保って届けてもらうことなどを想定している。全国から1万検体の登録を目指す。

 上田教授らは、来年春までに、幹細胞の分離や培養、保存の事例を積んでデータ収集と技術の確立を目指す一方、ヒトの治療への応用に向けて動物実験を重ねる。そのうえで、本人や親、子どもの骨折や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、靱帯(じんたい)断裂、歯周病などの治療への利用を目指す。

 将来的には、ひざやあごの関節症などの軟骨疾患、アルツハイマー病などの神経疾患、ケロイドなどの皮膚疾患への応用を考えている。

 上田教授は「生命の萌芽(ほうが)である胚(はい)性幹細胞と違い、歯髄幹細胞は倫理上の問題が少ない。バンクで研究を重ねて治療の実用化につなげたい」と話している。

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