ケータイを子どもに買い与えている親が責任を負うべき

――学校裏サイトがこれだけ社会問題となっている中で、大人はどのような態度で臨めばいいのでしょうか。

下田先生は「親の判断で子どもにケータイを与えているのだから、親に責任があるはず」と語っていた

下田氏:去年の夏、ある中学校の校長が真っ青な顔をして私の研究室に飛び込んできたことがありました。女子生徒が、自分の顔と他人のヌード写真を合成した写真が学校裏サイトに掲載されてしまったと、女子生徒と母親が校長のところへ泣きついてきたと言うんですね。そこで校長は初めて学校裏サイトの実態を知って、あまりにひどい内容に仰天した。それで私のところに「どうすればいいのか」と相談にやってきたんです。

 校長は「今すぐ生徒に指示して、学校裏サイトを閉鎖させたい」と言う。けれども私は「それは無理です」と話しました。注意すればやめさせられるという考えは、インターネットというメディアを理解していない人の発想です。

 実はほかの学校でも同じような事件が起きて、校長が朝礼で「こんなことはやめろ」と怒鳴ったことがありました。しかしその学校の裏サイトにはすぐさま「やめさせられるものなら、やめさせてみろよ」という挑発的な書き込みが行われました。こうなると学校としては、打つ手がなくなります。インターネットは匿名性の高い世界なので、誰がその書き込みを行ったのか絞りようがないからです。わいせつ画像が貼られていたとしても、営利目的ではないから警察も動けない。

――では、どのような方策が考えられるでしょうか。

下田氏:まず悪質な書き込みを発見したとしたときに、一方的に怒鳴るのは逆効果です。生徒の反感や嘲笑を買って、書き込みがエスカレートするだけです。

 また学校と親の両者が認識しておくべきなのは、本来ケータイをめぐる問題は学校の責任ではなく親の責任である、ということです。学校が「子どもにケータイを持たせてください」と親に頼んだわけではなくて、親が自分の判断で子どもにケータイを与えているわけですから、その責任も親が担うべきです。親が学校に対して「学校で何とかしてくれ」というのは無責任であり、本末転倒です。学校としては集会を開いて保護者を集め、「みなさんが子どもに与えているケータイというのは、こんな機能があって、その機能を使ってこういうことが行われているんですよ」ということをきちんと伝え、親自身に考えてもらう必要があります。

――親の中には、子どもがケータイを使ってどんなことを行っているか知らない人が多いようですよね。

下田氏:そうなんです。娘がケータイで男性を通じて援助交際を行っていることを知った親の多くが口にするのは、「ケータイを使って、そんなことをやっているなんて思ってもみなった」という言葉です。自分がどんなリスクを持った道具を子どもに渡しているか、無自覚なんですね。もともと携帯電話会社の説明責任が果たされていなかったので、親だけを責められませんが、今できることは、学校裏サイトへの悪質な書き込みが発覚したときこそ、ケータイをめぐる問題に気が付き、自分の子どもや地域の子どもをどう育てていくべきなのか、真剣に考えることだと思います。

――「子どものケータイは親の責任で」ということですが、では子どもが「ケータイが欲しい」と言い始めたとき、親はどう対応すればいいのでしょうか。

下田氏:まず親自身が、ケータイの特性や子どもたちがどんなふうにケータイを使っているのか、しっかり勉強することです。その上で息子や娘にケータイを持たせるメリットとデメリットは何なのか、自分の頭で考えて判断する必要があります。

 また、子どもに対しては「なぜ欲しいのか」をきちんと聞く。子どもから「なるほど、それだったら必要だ」と納得できる言葉が引き出せたときだけ、ケータイを買い与えればいいのです。しかもいきなり自由勝手に使わせるのではなくて、インターネット機能は子どもには必要ないと判断したら、通話とメール機能だけでよい。またインターネット機能を利用するときでも、最初の段階ではフィルタリングをしっかりとかけて、子どもが判断力や自制心、責任感を身に付けてきた段階に沿って、徐々にフィルタリングをはずしていく。そして何かトラブルが起きたときには、学校に責任を押しつけるのではなく、親が責任を取る覚悟も求められます。

――ケータイにどっぷり浸かっていて、もしかしたら学校裏サイトに書き込みをやっているかもしれない子どもを持つ親の場合は、どう対処すればよいのでしょうか。もう手遅れなのでしょうか。

下田氏:いや、そんなことはありません。ただし先ほども話したように頭ごなしに「やめろ」と言っても、思春期の子どもは反発するだけです。最近は情報モラル教育を行う学校が増えていますが、多くの子どもはバカにして話を聞こうとはしません。

 けれども説教や道徳論には耳を傾けない子どもでも、「ネット世界で危険な目に遭わないためにはどうすればいいか」といったリスク情報には強い関心を示します。「危険な目に遭ってもいい」と思っている子どもはいませんからね。ケータイ、インターネットの落とし穴に落ちないようにするにはどうすればいいのか、説教ではなくリスク回避の方法を伝えていくことが、子どもの心に一番響くと思います。

プロフィール 下田 博次(しもだ・ひろつぐ)
 群馬大学社会情報学部大学院研究科教授。専攻は情報メディア論、情報社会論。「インターネット時代のメディアリテラシー」などを研究テーマとしており、子どものケータイやインターネット利用問題に取り組むNPO団体・ねちずん村の村長も務めている。著書に『ケータイ・リテラシー〜子どもたちの携帯電話・インターネットが危ない!』(NTT出版)など。

筆者紹介 長谷川 敦(はせがわ・あつし)
 1967年広島県生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスライターになる。ビジネス、文芸、さまざまな社会現象や社会問題、動物ものなど、幅広いジャンルをフィールドとしているが、とりわけ学校や子どもをめぐる問題については、テーマにしてから10年以上のキャリアを持つ。社会環境が変化する中で、今どきの子どもたちの自己観やコミュニケーションの形がどのように変わってきているかに、深い関心を抱いている。