2008年4月より国民健康保険の保険者たる市町村をはじめとした医療保険者に対し、新たな「特定健康診査・特定保健指導」の実施を義務づけた。しかし、医療費増加の原因となりうる住民の“発掘”を重視すればするほど医療費が増える可能性が高くなり、自己責任を問われかねないなどの多くの問題がある。
問題の一点目は、長年にわたる保健事業に対する詳細な検討もなく事業の変更を行っていることである。二点目は、保険者に健診の完全実施が義務化され、達成状況の如何では後期高齢者医療制度に対して拠出する「支援金」がペナルティとして増額される点である。
三点目として、健診目的に「メタボリックシンドローム」の洗い出しが重点に据えられているが、特殊検診ではない基本健診は限られた特性に過度に偏した内容であるべきではない。慢性気管支炎や骨粗鬆症などのように、やせていることが危険因子とされている生活習慣病を軽視することになるからである。糖尿病など、逆にやせている方が治療が困難であることも知られた事実である。さらに、我が国では肥満しているよりやせている方が絶対数として癌が多く発症するので、肥満対策を強めるほど癌が増加しかねないという指摘すらある。「メタボリックシンドローム」の定義についても様々な議論があり、現行の健診システムを壊してまで新たな健診を実施する合理的根拠は希薄である。
四点目は、これまでの健診が「早期発見・早期治療」を重要なコンセプトにしていたのに対し、特定健診・特定保健指導は「早期発掘・早期介入」、つまり医療費増加の原因となりうる住民の“発掘”と、その住民の生活への介入、「行動変容」を目的にしている点である。五点目は、特定健診・特定保健指導ともに、民間営利企業への「外部委託」(アウトソーシング)を勧めている点である。保険者は可能な限り低廉な価格での事業実施を求めざるを得なくなり、保健事業が営利企業間の価格破壊競争に巻き込まれていく可能性がある。また、健診データの漏洩の危険もある。
以上の理由により、次の点について政府は緊急に対応されるよう要望する。
記
1.「健康日本21」の目標達成、とりわけ基本健診・癌検診の実施率を高めること について国として全力を挙げ、対策を講じること。
2.平成22年以降も基本健診を継承しながら、特定健診・特定保健指導の拙速な 実施を見合わせ、十分な医学的検証と国の負担を含めた費用負担のあり方につい て再検討を行うこと。
3.健診や保健指導の実績が保険者へのペナルティとなって跳ね返るような制度の あり方を見直すこと。
4.健診データの漏洩などの危険に対し、国民が安心かつ信頼できる内容・管理方 法を明確にすること。
5.保健予防活動は国の責任のもとに実施されるべき公衆衛生活動の一環であることを確認し、保健予防活動を充実させる方向で国の施策を立案すること。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。