子育て

　「子どもの夢をはぐくむ」「問題解決力を養う」「次世代リーダーを養成する」などとうたう新趣向の塾が増えている。従来の学習が中心の進学塾と異なり、「人間形成」を目標に掲げているのが特徴だ。その内容や増加している背景とは－－。【望月麻紀】

　■著名人が講師

　そうした新型塾の一つ、心拓塾の授業が１１月、東京都内で行われた。小学生の親子３０組はまず、合気道でウオーミングアップ。この日の小４以下のクラスの講師は作曲・編曲家の羽毛田丈史さん。写真を見せながらタイプが異なる音楽を流し、写真の印象が違って見えることを体感させたうえで「感情を引き出す音楽の力」を解説。一つの曲を作り上げるには、演奏家や作曲家の協調が欠かせないと説いた。

　別室では高学年の親子が、聴覚障害を持つダンサーの大橋ひろえさんと交流。「障害とは何か」「自分ができる支援は」について学んだ。

　心拓塾では月１回、各界の著名人を講師に招き、討議や体験を加えた授業を開催。これまでサッカー日本代表監督を務める岡田武史さんやアナウンサーの徳光和夫さんらが先生役を務めた。

　運営会社の秋沢志篤会長（６４）は「目的意識のない若者が増えている。夢を持ち、主体的に物事に取り組む問題解決力をはぐくむ必要がある。実際に夢に挑戦してきたヒーローに親子で接することで、親も子もその必要性に気付いてもらえるはずだ」と話す。

　■リーダーに

　デルタスタジオ（東京都港区）の渡辺健介社長（３１）は、以前勤めていた外資系コンサルティング会社で習得した問題解決の手法を子どもに教えたいと、中学生以上を対象にした「寺子屋」を開設。「子どものうちから、現状を正確に理解して問題の原因を見極め、効果的な手を打つ力を養う」のが狙いだ。手法をまとめた「世界一やさしい問題解決の授業」（ダイヤモンド社）も出版した。

　渡辺社長は「今の時代は、前例を踏襲するのではなく、想像力を駆使して問題に気付き、見えない答えを考え抜く力が求められている」と言う。

　財界や自治体の協力で０４年から高校生を対象に「日本の次世代リーダー養成塾」（塾長・御手洗冨士夫日本経団連会長）も開催されている。夏休みの２週間、１６０人が福岡県内で共同生活をしながら、国内外の一流講師の話を聞き、討議を重ねる。

　「財界の人材育成の要望を受けて始めた。理系文系の枠を超えた知的好奇心をくすぐり、将来に向けた夢のある子を育てるのが狙い」と加藤暁子事務局長。今夏は日本画家の千住博京都造形芸術大学長▽明石康元国連事務次長▽マハティール・モハマド前マレーシア首相ら２１人が講演した。

　来年１月には対象年齢を中学生まで引き下げ、保護者も加えた「子と親のための明日のリーダー塾」（塾長・榊原英資早稲田大教授）も毎週土曜日に都内で始める。

　■富裕層向け？

　新型塾の相次ぐ開設について、ベネッセ教育研究開発センターの木村治生教育調査室長は「ナンバーワンよりオンリーワンを求める社会の動きを受け、学力以外の多様な力を高めようとする保護者が増えているようだ。だが、教科学力とは異なり、成果が分かるのは１０年後。すべての保護者が関心を持つとは思えない」と見る。

　参加費も心拓塾が親子で１回３万６７５０円、デルタスタジオの寺子屋は週１回２カ月６万円。「日本の次世代」が交通費別で１０万円、「子と親のための」が１回５０００円。富裕層向けの設定は否めない。

　では問題解決力を家庭で養う方法はないのだろうか。木村調査室長は「たとえば家族旅行を子どもに企画させるのも一つの方法」と提案する。

　教育の方法や技術に詳しい山口栄一玉川大教授（教育工学）は「人間は問題を解決する力を持っている。問題を問題と気付けるか、どうすれば解決できるか熟慮することが重要。そのためには知識や教養が欠かせない」と指摘する。

　その力を養うため、山口教授は読書の大切さを強調する。知識を獲得しつつ、解決に必要な粘り強さも身に着くからだ。「中でも偉人などの伝記類は、問題の設定と解決という具体例を知ることができる」とアドバイスする。

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　■問い合わせ先

　▽心拓塾　電話０３・３２２２・１１６０

　▽デルタスタジオ　info@delta-movement.com

　▽日本の次世代リーダー養成塾・子と親のための明日のリーダー塾　電話０３・３５０５・０９０６