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【この項の目次】
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■病院勤務医のささやき
(ホームページコラム第3回) |
虎ノ門病院泌尿器科の小松秀樹先生が書かれた『医療崩壊』は読まれたでしょうか?私は一臨床医としてこの本を読んだとき、多くの病院勤務医が耐え切れなくなって病院をやめ、開業してゆく気持ちがわかったような気がしました。この本は、一般の市民の皆さんに是非読んでもらいたい本なので、紹介します。
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『医療崩壊 「立ち去り型サボタージュ』とは何か』
著者:小松秀樹
出版:朝日新聞社
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この本は、もともとは検察に提出した医療事故に関しての著者の意見書がもととなって書かれたものです。このために一般の臨床医が知りえない、警察、検察側の介入の様子や、実際にあった医療事故の詳しい経過が書かれており、医療現場のリアルな場面がわかります。またなぜそのような状況におちいったのかを、社会的側面から解説し、多くの病院勤務医が逃散するいわゆる『立ち去り型サボタージュ』という用語を用いて、この勤務医の問題を危機的な状況だと訴えています。
たとえば、
「日本の医療機関は2つの強い圧力にさらされている。医療費抑制と安全要求である。この二つは相矛盾する。相矛盾する圧力のために、労働環境が悪化し、医師が病院から離れ始めた」
「医療の不確実性は人間の生命の複雑性、有限性、各個人の多様性、医学の限界に由来する。医療行為は生体に対する侵襲を伴い、基本的に危険である。これを患者に正確にわかってもらえるようにするのは至難の業である」
「患者は疑心暗鬼で医療をみるようになってきた。医療の結果が本人の望んでいた通りでないと、とげとげしい反応がでてくるケースが明らかに多くなってきた」

「現在、医療過誤の担当官庁は厚労省ではなく、実質的に警察庁になっている。このため従来、民事責任しか問われなかったことが刑事事件化している。多くの医療関係者、とくに直接患者に接することの多い看護師が被疑者にされ、最終的に、かなりの数の看護師が法律手続きを通して、犯罪者と認定されている。」
「患者側からの攻撃の強い小児救急は担い手が減少し、崩壊した。紛争の多い産科診療も地域によっては崩壊している。」
たとえば「手術の成功率が〇%です」とか、「術後合併症が発生し在院死亡する確率が〇%です」と説明することがありますが、それは医療というものは確実なものではないということです。患者はみなひとりひとり状況が異なり、治療をする前には絶対ということはないのです。術前の説明では理解されているようにみえても、術後の結果や経過が悪い場合には態度がかわることは身にしみて経験します。患者や家族の立場からすると、態度が変わるのもわかる気がします。しかし医療の不確実性が患者側に理解してもらえないこと、場合によっては逮捕までされてしまうこと、このような中で一生懸命患者のために尽くすことができなくなって、勤務医がサボタージュしてしまうのです。
ちなみに『サボタージュ』の意味は、『破壊活動』(英 sabotage)のことで、辞書によると、生産設備や輸送機械の転覆、障害、混乱や破壊を通して敵、圧制者または雇い主を弱めることを目的とする意図的な行動をさすようです。つまり労働争議運動のひとつで、労働者が団結して仕事効率を落とすことですが、勤務医の場合、個人個人が『サボタージュ』しており、まだ労働運動にはなっていないのが現状ですが、もっとこの問題が表面化した場合、そのときにはもう医療崩壊が極致に達して取り返しのつかないことになっているかもしれません。
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