平成1867

厚生労働大臣

川崎 二郎 殿

医師不足問題対策への提言

公明党医療制度委員会

 

 近年、へき地の医療機関における医師不足、産婦人科・小児科・麻酔科など診療科目による医師不足が指摘されてきている。政府においてもこうした事態に対し平成178月に医師確保のための総合対策をとりまとめ、12月の政府・与党による「医療制度改革大綱」のとりまとめをへて、平成182月に関係事項を盛り込んだ医療制度改革関連法案が国会に提出され、現在審議されているところである。

 医師不足問題は、1)臨床研修制度の義務化に伴い大学病院で研修を受ける医師が地域によっては激減し、大学医局の医師派遣機能が失われつつあること、2)累次の診療報酬の引き下げにより悪化した病院の経営環境の下で、不採算部門である小児科などが病棟閉鎖を余儀なくされたり、労働条件の悪化により勤務医の退職を引き起こしたりしていること、3)女性医師の増加により診療科目の志望が変化したり、子育てと仕事の両立支援を含めた労働環境の悪さが就労の継続を困難にしている場合があること、4)地域における医療機関の統廃合による効率的な医療提供体制の構築がなかなか進まないことなど、多くの要素が複雑に絡み合って生じている。

 こうしたことから、地域によって人口密度や社会資本の整備状況が大きく異なっている我が国において、いかなる地域においても安心して必要な医療を受けることができる体制を整備するためには、関係各省の緊密な連携のもと総合的な対策を迅速に進めることが必要である。

 公明党は平成184月に社会保障制度調査会医療制度委員会の下に、小児医療等検討ワーキングチームを設置し、有識者や関係団体からのヒアリング、さらに地方視察など精力的に取り組んできた。そうした取組に基づき、将来にわたって安心できる医療体制の構築のため以下の提案を行うものである。

 

1.臨床研修制度及び専門医制度の見直し

@初期臨床研修制度におけるプログラムについて、小児科の研修の在り方の見直しや、臨床研修指定病院の指定の在り方について適切な見直しを行うべきである。

A後期臨床研修について、その実態を把握し、一定のガイドラインを策定すべきである。特に地域の中核病院(中核となる都道府県立病院やその他国立病院機構等の公的病院)のプログラムにおいて、支援体制の整備を前提として、へき地医療の従事を一定期間位置付けることが必要である。

B専門医の資格の取得にあたって、Aで示すようなへき地での研修を評価するような見直しが必要である。また一定水準の医療機関の管理者の要件として、一定期間のへき地医療への従事を位置付けるべきである。

C初期臨床研修や後期臨床研修においてへき地の病院や、地域の中核病院が研修医を確保することができるよう、その研修プログラムの充実のための支援施策を講じる必要がある。

 

2.医師の需給見通し・大学医学部の定員について

@平成18年に予定されている医師需給見通しの策定に際し、総数としての需給見通しにとどまらず、医師不足が指摘されている診療科目やへき地医療に従事する医師などについて一定の目標を設定すべきである。

A今般策定される需給見通しについては、盛り込まれた目標値について、3年程度の期間ごとに検証を行い、医療政策へ適切に反映させるべきである。

B大学医学部の定員については、@の需給見通しを前提として決定されるべきものであるが、へき地の医師不足の現状を勘案し、大学医学部における地域枠の拡大を図るべきである。また地域枠の拡大・活用にあたっては、自治体の実施する奨学金事業等をふまえ、卒業後の一定期間、地域での勤務を義務付けるなど新たな制度の創設について検討すべきである。

 

3.都道府県等自治体の取組及び自治体病院の在り方について

@へき地の医師不足や診療科目による医師不足へ適切に対応するため、医療対策協議会を効果的に運営するとともに、改正医療法に基づく新たな医療計画の策定にあたって実効性のある計画を策定すべきである。

Aへき地の医師不足や診療科目による医師不足へ対応するためには、自治体病院の再編統合や、公民連携も含めて医療機能の集約化が一定の役割を果たすものであり、その円滑な推進のため、国及び都道府県は財政的な支援を含め必要な支援を講ずるべきである。

B自治体病院における初期臨床研修や後期臨床研修の充実のため、国及び都道府県は必要な支援を講ずるべきである。

 

4.大学病院の在り方・医師の教育制度・医局制度の在り方について

@初期臨床研修制度及び後期臨床研修制度における役割を含め、医師の養成における大学医学部及び付属病院の果たすべき役割について検討を進め、今後のビジョンを策定すべきである。教育・研究・臨床に大別される大学医学部の役割について、より臨床を重視する体制の構築など、医療を取り巻く環境の変化への対応を図るべきである。

A大学医局の果たしてきた医師派遣機能について、その広域的な役割を踏まえ、医療対策協議会において明確な位置づけが与えられるよう協議を進めるべきである。

 

5.小児救急医療について

@地域における3.の自治体病院の再編統合や公民連携の確保、都道府県医療対策協議会における協議と新たな医療計画の策定というプロセスを視野に入れつつ、適切な圏域ごとの地域小児医療センターの整備を進めるべきである。

A地域小児医療センターの整備にあたっては、小児科医の配置基準等施設基準を設け、それにふさわしい診療報酬上の評価を行うべきである。

B各都道府県に最低一カ所、3次救命救急を担う高度医療機関の設置を進めるべきである。同センターにはPICUの整備を促すとともに周産期医療ネットワークとの連携が確保されなければならない。その整備に際しては大学病院への併設など積極的に大学病院の活用を図るべきである。

C新たな医療計画の策定にあたって地域小児科医療ネットワークの構築の検討を義務付けるべきである。

D病院勤務医の労働条件の改善を図ること、女性医師の仕事の継続を確保するため子育て支援体制の整備を図ること、女性医師の再就職を促すため、女性医師バンクの機能強化や、多様な勤務形態を導入を促すなど労働環境の整備を進めるべきである。

 

6.産婦人科医療について

@都道府県医療対策協議会における協議と新たな医療計画の策定というプロセスを視野に入れつつ、地域における3.の自治体病院の再編統合や公民連携の確保などを進め、集約化を図るべきであるべきである。

A病院勤務医の労働条件の改善を図ること、女性医師の仕事の継続を確保するため子育て支援体制の整備を図ること、女性医師の再就職を促すため多様な勤務形態を導入することなど労働環境の整備を進めるべきである。

B出産分娩という一定のリスクのある医療に常時携わっていることをふまえ、そのリスクの軽減のため医療における無過失賠償制度の創設や、裁判外の紛争処理機関の創設に向けた検討を進めるべきである。

7.診療報酬の在り方について

@5.6.の労働条件の改善を促すためにも、医師等医療従事者の現実の業務の実態に見合った診療報酬上の評価を行い、採算性の確保を図る必要がある。

A医療機能の集約を促すよう、一定の基準以上の集約化された医療提供体制についてメリハリのある診療報酬上の評価を行うべきである。

 

8.病院勤務医の労働条件について

@病院勤務医の労働条件の改善のためには病院の経営状態の改善が前提となるため、一定の水準の病院における医療提供について総合的に、メリハリのある診療報酬上の評価を行い経営状況の改善を図るべきである。

Aへき地に勤務する医師について適切な処遇を図るべきである。

 

9.女性医師について

○今後の女性医師の増加や小児科産婦人科など医師不足の診療科目では女性医師の比率が高いことを踏まえ、子育てと仕事を両立させる労働環境の整備を進めるとともに、退職後の再就職を促す再教育プログラムの整備や、女性医師バンクの機能の強化、さらに多様な勤務形態を可能にするなど、総合的なアクションプランを策定し実効性のある取組を進めるべきである。