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2病院集約に広がる不安 呉圏域の産科医療問題 '07/12/7

 呉圏域での産科医療集約化問題で、産科がある呉市の公的3病院のうち呉共済病院の産婦人科を休診し、他の2病院に集約する広島大と県の方針に対し、市民の間に不安が広がっている。小村和年市長や市議会も相次いで集約化に反対の意向を示した。方針を承諾した市や医師会などの関係者も「市民にとって3病院体制の維持こそ望ましい」と本音を漏らす。

 ▽市民目線で最善策議論を

 「第二子を授かったら体質などを把握してもらっている共済病院で出産しようと思っていた。お産はあきらめなくてはならないかも…」。呉市内の主婦(33)は第一子妊娠の際、緊急入院した経験があり、産科休診方針にショックを隠せない。

 突然表面化した「集約化」に、市民の困惑は大きい。子育て支援などの活動をする市民グループ代表の山本和子さん(43)=呉市焼山南=は「二病院では不安が大きく、深刻に悩んでいる妊婦は多い」と心配する。

市議会でも撤回の声

 三日に開会した呉市議会の定例会でも、市議から「集約化の撤回を」「広島大以外で医師確保ができるよう、市は要請してほしい」との声が上がり、現状打開を国に求める意見書提出も可決される見通し。また、小村市長も共済病院存続を前提にした三病院体制の維持に強い期待を示し、働き掛けを強める意向だ。

 広島大などの集約化方針が示されたのは、十一月末にあった市や医師会などで構成する呉市地域医療検討専門部会と呉地域保健対策協議会。広島大が共済病院から医師を引き揚げ、国立病院機構呉医療センターと中国労災病院に医師派遣を集約する提案を、これらの会で承諾したのだ。

 ある委員は「やむなく承諾したが地元には否定する権限すらなかった。結論ありきのようだった」と嘆く。両会の代表を務める呉市医師会の豊田秀三会長も記者会見で「本当は抵抗したかったが勤務医の過重労働問題もあり、のまざるを得なかった」と無念さをのぞかせた。

 集約化後は民間の二病院を含む四つの医療機関で分娩(ぶんべん)を担う見通し。圏域の分娩は昨年度が公的三病院で千七百九十三件、民間二病院で四百九十五件だった。

医師不足 影を落とす

 委員で市福祉保健部の中本克州部長は「医師一人で四百件を扱う民間病院もある。ハイリスクと正常分娩を分けるなどして共済病院存続は可能ではないか」と指摘する。

 医療機関が充実した呉市でも医師不足は影を落とし、全国的な集約化の流れの中で国や県が呉圏を先駆例として注目しているのは間違いない。ただ地元では地域事情が反映されない「集約化ありき」の動きは、本末転倒だとの受け止めが強い。

 集約化は危機を乗り切る緊急措置の一つかもしれないが、機能の分担や助産師の有効活用など検討に値する手法はある。市民にとって何が最善策かを、とことん協議する姿勢が求められている。(吉村明、増田咲子)

 ●クリック 呉圏域の産科集約化

 広島大が呉共済病院に派遣していた医師3人を引き揚げ、来年4月から、国立病院機構呉医療センターと中国労災病院に集約する。医師数は呉医療センターが現在と同じ7人、中国労災病院は2人から6人に増やす。

【写真説明】広島大と県の産科医療集約化方針を承諾した呉地域保健対策協議会




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