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2007年12月9日

◎金沢に国連機関 伝統文化継承に石川らしさを

 オペレーティング・ユニットと呼ばれる国連大学の研究・研修機関が金沢市に設置され ることが正式に決まった。横浜市にある国連大学高等研究所に直属する国連機関「いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(仮称)」であり、来年四月にスタートする。

 当面は十人程度の研究者らを構成メンバーとして、地元の自治体や高等教育機関などと 連携して国際的な課題である環境問題、伝統文化の継承に関する共同研究のほか、国際社会で活躍できる人材の育成などに取り組むそうだ。このうち日本一の大名が培ってきた伝統文化の深さ、それがいまなお息づく継承のありよう、非戦災都市のありがたさという石川ならではの特色あるテーマを世界に向けて発信したい。

 加賀友禅や金箔その他の伝統工芸の担い手がいまも活躍している金沢を、いろんな分野 で職人が頑張っているイタリアのフィレンツェに似ていると評した人がある。が、金沢以外でも、たとえば南加賀には九谷焼や山中漆器などが、能登には輪島塗などがある。郷土全体が日本のフィレンツェともいえる。

 それともう一つ、日本は分担金に比して国連機関で働く人材が少なく、そのために存在 感が乏しいといわれる現状を、人材育成で打ち破っていきたいものだ。国連は望ましい日本人職員数をおよそ三千人としているが、総職員数約一万八千人のうち日本人は五百人足らず、全体の2・7%だ。

 国連の中枢部である事務局の職員数も米国が約三百人なのに、日本はその三分の一とい うありさまだ。日本語が国連の公用語でないといった、非常に不利な条件に足を引っ張られて、国際社会への参加意識が低いのではないかとみられているようだが、誘致を機に国連機関を公用語の運用能力を磨く場にもしたい。

 オペレーティング・ユニットはアフリカや中東を中心に世界で五機関あり、金沢は六番 目の開設だが、日本では初めてである。

 十一年前、国連大学高等研究所の協力の下、石川県と金沢市が共同で「いしかわ国際協 力研究機構」を設置し、誘致を働きかけてきたのが実ったわけだから、この芽を大木に育てていく責任があると考えたい。

◎自治体病院の連携 検討急ぎたい医師集約化

 医師不足が深刻な自治体病院の経営の在り方を考える上で、課題の一つに挙げられるの は、医師の確保がとりわけ困難な産科医、小児科医を拠点病院に集約化することである。石川県は医師不足対策として近く、自治体病院の相互支援体制について関係者と協議に入る予定というが、国の方針でもある産科医、小児科医の集約化については、石川県も富山県もまだ方向が明確になっていない。病院の連携、機能分担による医療体制の充実策として、医師集約化の具体的な検討を急いでもらいたい。

 産科医、小児科医が減少している大きな理由は、勤務の過酷さである。一人―二人体制 で昼夜を分かたぬ出産や子供の病気に対応するのは並大抵ではない。疲労困ぱいの医師が多く、医療ミスにもつながりかねない状況と心配されている。

 石川県の場合、十万人当たりの医師数は全国平均を一〇〇として小児科医一一二・四、 産科医一一七・八となっているが、どちらも金沢圏に集中し、能登北部・中部や南加賀は全国平均を下回っている。富山県内の公的病院では今年九月時点の調査で、小児科医八人、産科医九人が不足していると具体的な回答が病院側から寄せられている。

 医師を拠点病院に集める集約化は、一人の医師にかかる負担を軽減し、医療の充実、高 度化を図れるというメリットがある。今年六月時点の調査では、小児科で十七道府県、産科で十五道府県が「集約化が必要」とこたえている。「医師全員が燃え尽きて辞めてしまう最悪の事態を避けるため」という切実な理由も聞かれる。半面、集約化で「医師の空白地帯」が生まれることも避けられないため、石川、富山両県など検討中の自治体が多い。

 また、小児科医、産科医がいなくなる病院は収入面で打撃を受ける。集約化を実施した 自治体では、医師の引き揚げで黒字から赤字に転落した病院もあるという。こうした場合の対応策も考える必要もある。それでも医師集約化の利点には大きいものがあり、医師不足による病院の共倒れを防ぐ方策の一つとも言える。集約化で生じる現実の問題点とその対応策にも踏み込み、より具体的に検討を進めるよう求めたい。


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