毎春、その時期になると、イカナゴのくぎ煮が届く。送り主は、玉野市出身の作家高嶋哲夫さん(58)だ。自ら手作りして友人、知己に振る舞っているのだが、なかなか器用なもので、仕上がり、味ともに大変にけっこうである。
その高嶋さんから、今度は全国で上映中の原作映画「ミッドナイトイーグル」の鑑賞券が送られてきた。それをいただかなくても、話題作ではあるし、見ようとは思っていたのだが、せっかくだから使わせてもらった。
小説もむろん面白いけれど、映画の迫力もまた格別だ。いや、迫力だけではない。高嶋スタイルの人間ドラマが、随所にちりばめられて、アクションが苦手な向きも、あるいはほろりとさせられ、あるいはじんとさせられ、感動が味わえるだろう。さすが注目を集める旬の作家の原作だけのことはあるなと、うならせる映画だ。
イカナゴのくぎ煮というのは、下手をすると食べられたものではない。それなりに仕上げるには、技術がいるが、高嶋さんはその辺を感じさせずにさりげなく完成品を届けてくる。小説づくりにどこか通じているのかなと思ってみたりもする。
高嶋さんとはついこの間もお会いして、懇談したところだが、映画化はやはり相当思い入れがあったようだ。鑑賞券に添えられた手紙にも、「やっと念願がかないました」とあった。人気作家であっても、作品が映画になるということは、特別の感慨があるのだろう。
ぜひご覧いただきたいし、岡山市南方の吉備路文学館で開かれている「高嶋哲夫展」(一月二十日まで)にもどうぞ。
(特別編集委員・横田賢一)