◇民間住宅受け入れ対策が急務
盲導犬や介助犬、聴導犬を「身体障害者補助犬」と位置づけ、障害者の社会参加を進める目的で制定された「身体障害者補助犬法」の改正案が、11月28日に成立した。これまで努力義務にとどまっていた民間企業への同伴受け入れが義務化され、補助犬に関する相談窓口が各都道府県に設けられる。いずれも、補助犬使用者らが強く求めていた改正だ。
同法は02年5月に成立し、同10月から順次、施行された。国や地方公共団体の施設、公共交通機関やホテル、スーパーなど不特定多数が出入りする場所での同伴受け入れを義務づけた。だが、補助犬使用者団体のアンケートによると、6割の使用者が法施行後も同伴拒否を経験している。
日本で約50年の歴史を持つ盲導犬を知る人は多いが、それでも、いざ店や職場に盲導犬連れの障害者が現れると、「入れていいか、分からない」「上と相談しなければ」など、言葉は丁寧でも受け入れを拒み、障害者を傷つけるケースが繰り返されている。都道府県の相談窓口がこうしたトラブル解決に積極的な役割を果たすことが期待される。
だが、改正後も残る課題は多い。職場での同伴受け入れが義務化されたといっても、対象事業所は障害者雇用促進法上の障害者受け入れ義務がある従業員56人以上の事業所に限られる。視覚障害者の主な就労先であるマッサージやしんきゅう院の多くは、受け入れ義務の対象外となる。
また今回の改正で見送られた項目に、一般民間住宅での受け入れ義務化がある。賃貸アパートやマンションなどで居住を拒まれる例があり、補助犬使用者らは「住宅こそ生活基盤の確保」と早急な対策を望んでいる。
厚生労働省によると、全国の補助犬は▽盲導犬965頭(今年3月現在)▽介助犬40頭(同10月現在)▽聴導犬13頭(同)--の1018頭。これに対し身体障害者は約350万人いる。補助犬普及はまだ途上で、法律が社会に浸透しているとは言えない。
兵庫県宝塚市で介助犬ヴァニラと暮らす木村まどかさん(25)は交通事故で車椅子生活を送る。大学を出たものの、就職には迷いがあったが、補助犬同伴を職場に義務付けた今回の法改正に「ヴァニラと一緒なら、社会に出て働けるかも」と期待する。「補助犬連れでどこへでも行けるバリアフリー社会」はまだ遠いが、改正法が障害者の社会進出に弾みを付けることは間違いない。
毎日新聞 2007年12月8日 東京朝刊