2007年12月08日
情報開示と異例の執行
今回の執行は極めて異例の執行であるといえます。時期こそ年末ということで執行可能性が高まっていましたが、国会会期中の執行は鳩山法相の言動からは避けるのではないかと思っていました。鳩山法相の意向により死刑被執行者の名前が公表されることが決まっていましたが、法務省が死刑執行を発表したのが本日11時15分。その時鳩山法相は丁度衆議院法務委員会に出席していたらしいのですが、その場で民主党細川律夫委員が確認すると執行した事実を報告したということです。1993年モラトリアム解除後の今までの法相は閣議後記者会見が翌週に行われないような時など記者会見等の質疑すら避ける傾向でしたが、このように法務大臣自らが死刑執行の発表を行ったのは極めて異例のことです。法相が死刑問題についてきちんと対応するということは、本来当たり前のことですが評価したいと思います。
また執行された死刑被執行者もかなり異例であるといえます。
今回確定順で言えば、萬谷義幸(大阪)、横田謙二(東京)両死刑確定者が有力でした。両人とも再審請求の情報も無く、冤罪可能性、恩赦可能性も極めて低かったからです。次点として今回執行された府川博樹死刑囚が有力でしたが、府川死刑囚ですら確定後の拘置期間が4年11ヶ月とこれでもボーダーライン上にありました。しかしこの萬谷、横田死刑確定者を飛び越える形で府川死刑囚、また更に石橋栄治死刑確定者をパスする形で藤間静波死刑囚の執行となったわけです。この人選については強い疑問が残ります。どのような選択基準であるのかわかりません。科刑の平等性からいえば確定順が筋だと思いますし、藤波死刑囚についてはその受刑能力に強い疑問がありましたので。藤間死刑囚は精神疾患可能性が極めて高いことが指摘されていました。またもう一人の池本登死刑囚についても再審請求中という情報があり、これも極めて異例と言えるでしょう。また同時に池本死刑囚は74歳という高齢執行となり、昨年からの高齢者執行の流れは止まりそうにありません。
ここ数年の死刑確定判決の激増を受け、2007年3月には戦後初めて死刑確定者が100名を越え、その後2回の執行はあったものの2007年12月7日現在107名の死刑確定者がいます。私の予想では2010年〜2015年にはここ数年の死刑確定者が執行段階に入るものと考えています。つまり戦後直後の死刑頻発状態と同様に大量執行の時代を迎えるといってもよいでしょう。この中でのこの異例の執行は法務省の断固たる姿勢の表れであるともいえますが、上記のような疑問点についても是非説明してもらいたいものです。
尚、現在収監中の死刑確定者は104名であるという報道が為されていますが恐らく107名の間違いではないかと思います。また法務省発表がニュースソースであるとすると、死刑確定者の一部に何らかの動きがあったということになるでしょう。
今回の執行の特徴
1. 法務省は死刑制度存続傾向、拡大傾向にある
2. 1年間で1993年モラトリアム解除後最多の9名執行
3. 精神疾患可能性のある死刑確定者への執行
4. 再審請求中の可能性のある死刑確定者への執行
5. 高齢死刑確定者の執行の継続
法務省は死刑制度存続傾向、拡大傾向にある
2010年〜2015年の大量執行時代を控え法務省は制度維持、制度拡大の姿勢が示されたといえる。また執行が国会会期中であることを考えると、法務省が死刑制度に対する国民の支持の元、拡大していく姿勢であるとも考えられる。これは鳩山法相の意向も強く繁栄していると思われる。
1年間で1993年モラトリアム解除後最多の9名執行
今回の執行により2007年の執行件数は9となり、1993年後藤田正晴法相死刑モラトリアム解除後、最多執行件数となった。
精神疾患可能性のある死刑確定者への執行
今回執行された藤間静波死刑囚は起訴後法廷での異常な言動があったことが知られている。よく知られているのは傍聴席に対してVサインを送ると言うもの。また一審横浜地方裁判所の判決公判においても判決文朗読後の閉廷直前に「最後に言いたいことがあります」と立ち上がり、暴力団幹部の名前を挙げ、さらに両手でVサインを作り、傍聴席に向かって二回手を挙げた。これらの言動について東京高等裁判所の控訴審判決で裁判長もこの事実を認め「拘禁の影響によるものと認められる」と述べている。今回の執行では藤間死刑囚に受刑能力があると法務省側が認定したものと思われるが、拘置後適当な治療を受けていたかどうかなども問題点として残る可能性がある。
再審請求中の可能性のある死刑確定者への執行
池本登死刑囚は再審請求中であった可能性が高い。もし再審請求中であれば1999年12月17日の小野照男死刑囚以来モラトリアム解除後2例目となる異例の執行である。小野死刑囚は18年6ヶ月という長期拘留後の執行であったが、池本死刑囚は11年9ヶ月と小野死刑囚と比較するとかなり短期間であるということができる。再審請求の取り下げ等もあったかもしれないが今後の情報に注意する必要がある。
高齢死刑確定者の執行の継続
今回池本登死刑囚の年齢は74歳である。これは2006年12月25日に執行された秋山芳光死刑囚(当時77)、藤波芳夫死刑囚(当時75)に次ぐ高齢者執行である。70歳以上80歳未満の高齢死刑囚への執行は躊躇しない流れということになるであろう。
最後になりますが、今回死刑を執行された3名の死刑囚の冥福を祈ります。