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2007年12月8日

◎石川厚生年金会館 ホール維持を売却の条件に

 売却される予定の石川厚生年金会館は、所有者が変わった後もホール機能が維持される ことが望ましい。大ホールが無くなってしまうと、金沢で演劇や音楽など、多くの催事が開催できなくなり、「文化都市」の名が泣く。

 石川厚生年金会館を所有する独立行政法人「年金・健康保険福祉施設整理機構」(RF O)は、ホールの存続を譲渡条件とはしない見通しだが、北海道厚生年金会館(札幌市)の場合、「一定期間施設の中心的な機能を維持すること」が条件として明示されるという。石川厚生年金会館の場合も、ホール維持を事実上、譲渡の条件とするようRFO側に求めていくと同時に、民間の買い手がつかない場合には、石川県や金沢市がホール存続に一肌脱いでほしいものだ。

 年金施設は、保険料の無駄遣いとの批判を受けて、全国約三百の関連施設が整理統合の 対象になり、石川県では五施設のうち三施設が既に売却された。石川厚生年金会館は二〇一〇年九月までに売却の予定だが、県の試算では、同会館の大ホールが閉鎖された場合、金沢歌劇座は五カ月程度、県立音楽堂は三カ月程度、それぞれ稼働率が100%を超えるという。閉鎖によって、金沢市で開催されるさまざまな文化的行事の絶対数を減らさねば対処できなくなるとしたら、ゆゆしき問題だ。

 北海道厚生年金会館の譲渡条件にホール機能の維持が盛り込まれる見通しであるのは、 「代替施設がない」からだという。人口百九十万人の札幌市で、そんな理由が通用するのは、二年前に「北海道厚生年金会館の存続を願う会」が設立され、官民挙げて存続運動に取り組んできた成果だろう。石川県や金沢市でも、北海道にならって、そうした運動を始める必要がある。民間ではホールの維持が難しいようなら、県や市が支援していくほかない。

 厚生年金会館は、かつて旧陸軍の出羽町練兵場、後の兼六園球場の跡地に建てられた。 兼六園にほど近い一等地だけに、公共的施設として存続することが好ましい。大ホールに関しては十分に活用されているのだから決して無駄な施設ではないのである。むしろ、地域に必要不可欠な財産と考え、存続のために知恵を絞ってほしい。

◎特別会計の積立金 国会の場で精査しよう

 財務省が〇八年度予算編成で、財政融資資金特別会計の積立金を取り崩し、国債の返済 に充てる方向で検討に入った。これにより、国の特別会計(特会)の積立金や剰余金を「埋蔵金」にたとえた論争が具体的に進展することになった。「埋蔵金」などというと言葉遊びのような印象も与えるが、現在三十一もある特会の中で死蔵状態のお金があるのなら、財政再建や社会保障などに生かす形で国民に還元するのが筋である。特会の積立金などの活用については民主党も積極的に主張しており、国会の場で精査してもらいたい。

 財政融資資金特会は、政府が財投債(国債)を発行して民間金融機関から資金を調達し 、政府系金融機関や自治体などに貸し付けることを主目的にしている。金利変動で調達金利と貸出金利が逆転し、損失が生じるリスクなどに備えて準備金を積み立てることになっている。積立額は〇八年度で約二十兆円が見込まれ、うち十兆円ほどを国債償還に回すことが考えられているという。

 準備金の積み立ては総資産の10%と規定され、この法定準備率を超えた分は国債償還 に充てる制度になっているが、〇六年度には、準備率に達しない状況でも約十二億円を取り崩して国債の返済に役立てた。

 財務省は今回、10%の法定準備率が妥当かどうかを検討し、引き下げも検討する。将 来の金利上昇に伴って損失が出る恐れも否定できないことから、積立金に安易に手を付けるべきではないという意見も根強いが、法定準備率を引き下げ、国債償還に回す余地はあるとみられる。

 自民党の中川秀直元幹事長は、外国為替資金特会の運用益など、過剰な積立金が四十兆 ―五十兆円あり、社会保障の財源にすべきと強調し、いわゆる増税派が主導する党財政改革研究会と対立している。外為資金特会は財政法の規定で円・ドルの複雑なやり繰りがなされており、分かりやすい議論を求めたい。

 運用が官僚にゆだねられている特会は整理合理化が進められているものの、なお不透明 さが残る。与野党の論戦を通して積立金の適正な水準を考え、実際にどれくらいの過剰資金があるのかを国民に明らかにしていくことも国会の務めである。


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