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2007年12月8日

 若いころ自転車で転倒して頭を強打、一瞬軽い記憶喪失になったことがある。自分がなぜ倒れているのか理解できないのに自転車を買ってもらったことは思い出せる、変な体験だった

新しい記憶と古い記憶は脳の別々の場所にあるらしい。物忘れのひどいお年寄りが、食べたばかりのご飯を忘れても、若いころの話ができるのと似たようなものか。忘却とは思い出さないだけだと強がりを言う人さえいる

写真集「昭和花あり嵐あり石川の昭和30年代」(北國新聞社刊)を見た。忘れたはずの白いトレパン、ゴム草履(ぞうり)、学生帽など、自分と見まがう子どもの姿に時代がにじみ、人それぞれの「ALWAYS・三丁目の夕日」が広がるのだった

金沢学院短大の山岸教授が、幼児の低い目線で街の景観を調査しているという。大人が子どもの視点を守る興味深い研究だ。写真集ではサーカス小屋が建った広い神社境内があまりに狭く、巨大に見えた市電が予想外に小さかった

記憶が子どもの視点だったせいかどうかは分からないが、初々しく何事にも感動して大きく見えた「時代の視点」の大切さをしみじみ思うのである。


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