◇権東品さん、街おこしに携わり培った信頼生かし
品川区は、国籍条項で年金制度から排除された現在81歳以上の在日外国人に対し、区独自に支援金を出す検討を始めた。浜野健区長が11月、「福祉向上という視点に立って考慮する」と区議会で答弁した。以前から懸案だったこの問題に力を尽くしたのが、在日韓国人で20年以上品川の街おこしに携わってきた権東品(ゴントウシナ)さん(56)。権さんは「日本社会で培ったものが生きた」と笑顔をみせる。【三木幸治】
1959年施行の国民年金法は当初、国籍条項で外国人を排除。難民条約の批准(81年)で条項は削除されたが、81歳以上の外国人高齢者は無年金状態に陥っている。
権さんは、品川区の青物横丁で焼き肉店「おもに」を経営する在日2世。日本で街おこし活動を始めた理由は「差別を受けた」からだ。
85年ごろ、支店を出すために物件を探し、ある大家に賃貸を求めた。だがOKの返事は来なかった。不動産屋が教えてくれた。「韓国人が嫌いだそうです」
「日本社会に認められなければ」と権さんは決意。当時、品川は旧東海道を中心に「街おこし」の機運があった。5商店街が主催する「しながわ宿場まつり」に創設からかかわった。町娘、飛脚にふんして町を練り歩く「江戸風俗行列」が人気となり、毎年約7万人の客が集まるようになった。区長や区議、区職員と信頼関係ができた。
今年4月、在日本大韓民国民団(民団)の男性が店を訪ねてきた。「力を貸してほしい」。権さんは在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と歩調を合わせ、区へ要望書を提出。区議や区職員にも協力を依頼してまわった。快く力を貸してくれる人もいた。
11月の区議会一般質問で、区議が無年金高齢者について質問をすると、浜野区長は「国の制度が改正されるまでの暫定措置であることを踏まえ、検討する」と答えた。来年度予算に向け、これから詰めの作業が始まる。
日本社会で得た信頼と実績が、同胞の活動にも生きた。権さんは「東品という名前は東京・品川で生まれたから。努力を積み重ね、今後も『誠実、情熱、継続』をモットーに活動を続けたい」と話している。
毎日新聞 2007年12月7日