「国家情報評価」がイランの核兵器開発中断を明示 死に体のブッシュ政権
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アフマディネジャド大統領(イラン・イスラム共和国大統領HPから) |
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なぜ、この時期に明らかにしたのか。
アメリカ政府は3日、 機密報告書「国家情報評価」(NIE:National Intelligence Estimates)を公表、テロ支援国家に指定しているイランが2003年秋の時点で核兵器の開発を中断していたことを明らかにした。NIEはCIA(中央情報局)など16の情報機関の情報を総合的に分析したもので、その1部を明らかにした。
これまでブッシュ大統領は、イランによる核兵器開発の脅威を執拗に主張してきた。10月17日の会見では、イランに核兵器の保有を許せば、第三次世界大戦が起こる可能性があるとの見解も示したばかり。
今年1月9日、ホルムズ海峡で潜行中の米原子力潜水艦「ニューポート・ニューズ」と日本の大型タンカーが衝突した。これはアメリカがイランを攻撃できる準備を整えていたことを示す象徴的な出来事ではないだろうか。
アメリカは依然としてイランに対する軍事攻撃をオプションとして残しているが、先のイラク戦争に踏み切る口実となった大量破壊兵器が発見できなかったことと同じくイランの核兵器開発は、アメリカが軍事作戦を強行するための既成事実に仕立てた観は拭えない。
イランには豊富な石油資源(世界第2位:確認埋蔵量1,375億バーレル、可採86.7年)がある。そのため、原子力は必要ないとの前提に立って、ウラン濃縮活動は核兵器の製造が目的との「定説」を流布しても、大きな疑念は生じない。この「定説」をアメリカがイランを攻撃する場合の正当な理由として利用することは間違いないが、アメリカがイランを攻撃する可能性は消失した。
IAEA(国際原子力機関)のモハメッド・エルバラダイ事務局長(核の不拡散問題に尽力し、05年にノーベル平和賞を受賞したエジプト人)は、03年に核不拡散体制に関する新提案を行った。
その骨子は民生用であっても、核兵器に転用することが可能な分離されたプルトニウムと高濃縮ウランの再処理や濃縮に伴う新たな生産や処理は、国際的な管理下に置かなければならないというものだ。併せて合法的に原子力を利用する国に対しては、資源の供給を保証するルールが必要ともした。
エルバラダイ事務局長は、イラク戦争勃発前に、大量破壊兵器の査察継続を主張、アメリカとイギリスを厳しく批判してきた人物でもある。
この提案を受け入れた数少ない国がイランであり、05年8月に誕生したアフマディネジャド政権は、イランの核開発を平和目的であると主張してきた。
一方、国連は06年12月、07年3月に対イラン安保理制裁決議を採択した。IAEAが06年3月、国連に対し、イランに未申告の核物質や核開発活動がないことを報告しているにもかかわらずである。
アメリカがイランの脅威を必要以上に喧伝してきたことは、イランが反米国家であることが要因だ。中東で反米の旗幟を鮮明にしている国は、イランとシリアの2国だけであり、中でも強大な軍事力を誇るイランは、アメリカの脅威となっている。
だが、アメリカにとってイランが憎むべき国である理由は、アメリカ自らがつくり出したといっても過言でない。
1941年にイラン皇帝(パーレビ朝)に即位したパーレビ国王は、近代化(西洋化)と脱イスラム化を進めた。石油の国有化を進め、国民の人気を博したモハンマド・モサッデク首相を脅威として、CIA支援の下、軍事クーデターによって独裁政権を確立したのがパーレビ国王だった。
ところが、パーレビ王政は国民の不興を買ったため、全土に反王政デモが拡大、パーレビ国王は79年1月に退位し、エジプトへの亡命を余儀なくされた。
一方、79年2月に亡命先のフランスから帰国したシーア派最高指導者のホメイニ師は、イスラム革命によるイラン・イスラム共和国の樹立を宣言した。
しかし、学生らの不満は納まらず、パーレビ元国王の引き渡しを要求、11月に在テヘランアメリカ大使館に乱入、大使館職員ら52人を人質(解放は81年1月)に占拠した。
このような経緯からアメリカはイランを敵視、イラン・イラク戦争(80年〜88年)の際はいち早くサダム・フセインを支援した。フセインの末路は周知のとおりである。
以後、アメリカとイランの関係は断絶状態が続いており、ブッシュ大統領は、02年の一般教書演説でイラク、イラン、北朝鮮の3カ国を「悪の枢軸」と名指し政権の転覆を示唆した。アフマディネジャド政権発足後の関係は一層、緊迫したものとなっている。
“世界の警察”を自負するアメリカが超大国として君臨する背後に石油利権があることは紛れもない事実。
アメリカには軍需産業と密接に関わり、好戦思想を持つネオコン勢力が台頭している。反米国家を執拗に威嚇し、相手が軍備の増強や核開発の兆しを見せれば、軍事行動も厭わないという姿勢を見せ、軍需産業の利権と石油資源の獲得を目論んでいる。
筆者が03年にバグダッドを訪れた時、市街地に立ち並ぶ劇場、電話局、役所などすべての公共施設は、アメリカ軍のミサイルを撃ち込まれていたが、唯一無傷の建物があった。それがイラク石油省だったことは、アメリカの侵略目的を端的に示す証拠であった。
こうしたアメリカの利権とは裏腹に、今回の「国家情報評価」ではイランの核開発中断が明らかになった。一見、これはアメリカに大きなダメージを与えるかのような出来事であるが、実際にはイラク問題でレイムダックに陥るブッシュ政権に見切りをつけたことを示しているのではないか。
理由は明らかにされていないが、今年8月、ブッシュ大統領の重要な“選挙参謀”であるカール・ローブ次席大統領補佐官が辞任した。ローブ氏が泥沼化するイラク問題に続き、イラン攻撃も辞さないブッシュ政権では、次期大統領選挙で共和党が敗北すると考えたとしても不思議はない。
こうしたブッシュ政権の強硬姿勢は共和党内からも反発を招いているばかりか、国際社会での信用も失墜しかねない。遅すぎた観の拭えない「国家情報評価」だが、イラン戦略の見直しを内外に知らしめなければならないほど、ブッシュ政権が死に体にあると考えるのは、邪推でだろうか。
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