宮田秀明の「経営の設計学」

「隆盛する産業」の良き手本を見た

Win-Win関係で確かな成長を遂げる韓国造船業界

 韓国の人々とは20年以上のつき合いだ。友人も仲間も教え子もたくさんいて、いつ訪れても外国に行った気がしない。しかも、韓国のエレクトロニクス産業や造船産業は日本を追い越しているのに、まだ日本を兄貴分と思ってくれているし、アジアで先進国入りしているのは日本だけだというのも一般的な認識のようだ。一言で言えば、韓国の人は日本をまだ尊敬してくれている。
 
 今回の韓国訪問の目的は、「南海岸時代」プロジェクトの立ち上げに付随するイベントの学術大会での基調講演だった。私と韓国国土研究院の副院長の2人が行政関係者などの面々に基調講演を行った。話したテーマは、「世界一を目指すアメリカズカップの技術開発」や「海洋の産業と文化の振興プロジェクト」である。

 韓国は深い東海と浅い西海、それにリアス式海岸が続いて2000以上の島が浮かぶ南海の三方の海に囲まれている。もちろん経済の中心はソウルなど北の地域だが、工業地帯を抱える南海岸地方が今、目覚ましい発展を遂げている。

 そして、さらなる発展を促すこの新プロジェクトが今回始まった。海洋レジャーや観光の産業を興し、製造業の発展と車の両輪になって地域発展を目指すのだ。モデルにしているのは“地中海”という。

 10年後の2017年頃にはアメリカズカップにも参戦したいそうだ。驚いたことに韓国中部の太田にある海洋研究院では、すでに2000年から8人の研究者がヨットの研究を行っているという。

給与が高くて企業に勢いがあるから、造船業界に若い人材が集まる

 「南海岸時代」プロジェクトを企画立案したのは、慶尚南道(キョンサンナムド:半島の南部の行政区)の発展研究院というシンクタンクである。そこでは約20人の研究員が約40人のスタッフとともにこのような仕事をしている。韓国では10〜15年前にほとんどの道でこのようなシンクタンクが設立されているが、なかなか面白い仕組みだと思う。経費のほとんどは人件費なので、比較的簡単に設立できる。

 「南海岸時代」プロジェクトの実行については、慶尚南道の金知事がリーダーシップを取って推進本部を作り、行政主導で始まった(知事の金台鎬(キム・テホ)氏についての記事はこちら)。韓国初のボートショーや仮設ハーバーでの乗船体験イベント、ヨットレースが行われた。ヨットレースの名称は李舜臣将軍盃ヨットレースという。李将軍は豊臣秀吉の水軍を打ち破った韓国水軍の偉人である。

 3日間ずっと若い研究員が通訳を兼ねて付き添ってくれて、海岸や造船所や港も訪れることができたので、この地方の新しい動きを知ることができた。

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このコラムについて

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

筆者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に「アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―」(岩波科学ライブラリー)、「プロジェクト・マネジメントで克つ」(日経BP社)、「理系の経営学」(日経BP社)など

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