経済協力開発機構(OECD)が昨年実施した十五歳の生徒を対象にした学習到達度調査(PISA)で、日本の高校一年生の順位が「世界トップレベルから脱落した」と物議をかもした二〇〇三年の前回をさらに下回る結果となった。
PISAは、〇〇年から三年ごとに実施されている。知識を実生活の中でいかに使いこなせるか、論理的な思考と応用力を調べるもので、「読解力」「科学的応用力」「数学的応用力」で評価する。
今回は五十七カ国・地域の約四十万人、日本は全国から抽出された約六千人が参加した。その結果、科学的応用力は前回の二位から六位、読解力は十四位から十五位、数学的応用力は六位から十位と、すべての分野で順位を下げてしまった。記述や論述の問題では他の国に比べて白紙回答が多く、答えを導き出す過程を自分の言葉で説明できない状況を露呈した。
知識を活用できるPISA学力は日本発展の上で欠かせない力である。低下傾向が止まらないのは心配だ。生徒の身に付くよう多角的な分析と対策が求められる。
前回の調査で、数学的応用力の順位が一位から六位、読解力が八位から十四位に落ちたことを受け、原因を「ゆとり教育」とする空気が高まった。文部科学省は、来年の学習指導要領改定で主要教科の授業時数を増やす方針だ。
しかし、授業時数を増やせば成果が上がるかといえば疑問である。日本より授業時数が少ないフィンランドが、全分野でトップクラスを維持していることからも明らかだ。問題は授業の内容をどうするかにかかっている。
今回の調査では、科学に関する生徒の意識調査も併せて行われた。それによると、科学が役に立つと考えたり、科学に関心を持ったりする生徒の割合はOECD加盟国平均を大きく下回っている。科学に楽しさや親しみを感じている生徒の割合も参加国中最低レベルという。さらに、科学関係の職業に就きたいと考える生徒は加盟国平均の25%に対して8%にすぎない。
これでは、日本が目指す科学技術創造立国も泣こう。受験目的の知識だけでは、生かすすべが分からない。授業についていけない生徒は興味を失って挫折してしまう。生きた知識にはならない。
学校は、身近な事象との関連の中で知識や活用のヒントを教える必要があろう。知識の詰め込みでなく、生徒自らが考え理論を展開させることが楽しく興味の持てるようにする授業の工夫が重要だ。教育関係者が奮起しなければ順位はさらに低下しよう。
初めてのアジア・太平洋水サミット(議長・森喜朗元首相)が二日間の日程を終えた。大分県別府市で開催され、安全な飲料水や清潔なトイレなどの衛生設備が利用できない人を二〇一五年までに半減することを目指すなどとした議長総括を発表した。
サミットは、専門家らの非営利のネットワーク組織「アジア・太平洋水フォーラム」の主催で、昨年「日本水フォーラム」会長を務めていた橋本龍太郎元首相の呼び掛けで発足した。地球温暖化による海水面上昇で島しょ国では国土消滅の危機が迫るなどこの地域固有の水問題の解決に向けて連携を図ることが狙いだ。今回の参加者は約四十の国や地域からの首脳ら約三百人に上った。
アジア・太平洋地域は、〇四年時点で安全な飲み水が利用できない人は約七億人に達し、アフリカの約三億人、中南米・カリブ諸国の約五千万人に比べ圧倒的に多い。参加した各国首脳らからも深刻な現状が報告された。
島しょ国キリバスのアノテ・トン大統領は海面上昇が淡水の塩水化を招き、さらに都市部に人口が集中して水質に悪影響が出ていると話した。ネパールやブータンの閣僚らはヒマラヤの氷河の融解が激しく、氷河湖決壊の懸念を語った。
地球環境の変化や途上国の経済発展に伴い、洪水や干ばつ、水不足、水質悪化などが深刻化している。複数の国にまたがる河川では利害対立から紛争を引き起こす恐れもある。危機に直面した国からは資金や技術支援を訴える声が相次いだ。
日本は水関連技術の先進国である。議長国としても安全な水の確保へ一段の貢献を果たさなくてはなるまい。
(2007年12月6日掲載)