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【断 大月隆寛】ハケンの来歴
このニュースのトピックス:雇用・失業
「ハケン」と呼ばれてテレビドラマの題材にまでなっている派遣社員。でも、それを束ねる人材派遣業者、って昔からあるんですよね。口入れ屋とか桂庵(けいあん)とか言ってましたが。女中…あ、いや、今は家政婦さんって言わなきゃならないんでしょうが、要するにお屋敷や商家に奉公(これもすでに死語かも)するために、田舎から出てきた人がここに登録しておくと、希望する条件にかなった口があれば教えてくれる、と。紹介料をとっての商売なわけで、何のことない、江戸時代からあるものです。
明治以降だって、人手がたくさんいるようになった仕事の現場じゃ、必ずこういう商売は介在した。港湾労働に炭鉱、鉄道建設…などなど、そういう「口きき」がいないと人手が集まらないのは「近代」という時代の必然なわけで。それが今や事務職系、いわゆる勤め人の類にまで波及してきた、と。
一時、M&Aで買収仕掛けてもうけるライブドアが博徒系で、ネットの出店でもうける楽天はテキヤ系、って、あたしゃよく言ってました。いまどきの人材派遣業者ってのも由緒正しいその筋がらみの商売。ただし、そういう商売の者が、政府の委員会や財界の会合に出て大所高所からもの申す、なんてことは昔は絶対になかったし、またそれを真に受けて天下国家の政策が左右されるなんてことも、まずあり得なかった。ならば、何がどう違ってこういうことになってきたのか、それこそが本当に考えられるべき問い、でしょう。
「不安定雇用の増大」「格差社会の進行」なんてお役所的な大文字のもの言いの背後には、こういう来歴ってのもあったりする。変わったことと変わらないことを静かに見極めようとすることが、〈いま・ここ〉を本当に吟味するためには必要なんですけどねえ。(民俗学者)