現在位置:asahi.com>社会>その他・話題> 記事

多摩川にピラニア、コクチバスなど 生態系が危機

2007年12月06日23時45分

 アマゾンや北米にしか生息しないはずの珍魚・怪魚が、多摩川で相次いで見つかっている。観賞用の魚をもてあまして捨てたり、釣りを楽しむために魚を放したりする人が後を絶たないためだ。せっかく浄化が進み、アユが戻ってきた川の生態系が、このままでは大きく乱れかねない。「多摩川を『外来魚のデパート』にしてはならない」。川で漁に携わる人たちは危機感を強めている。

写真

漁協のいけすに設置されたお魚ポスト=川崎市多摩区で

 7月、東京都大田区の多摩川下流でスズキを釣っていた釣り人の竿(さお)に、幅広の刀のような銀色の魚がかかった。体長60センチもある南米産の熱帯魚シルバーアロワナだった。

 数日後、約2キロ離れた場所で、今度はアヒルのような口をした虎模様の魚が釣れた。同じく南米産のタイガーショベルノーズキャットだ。

 アマゾンの魚ばかりではない。北米産の肉食魚ロングノーズガーや、北海道にすみ、国際自然保護連合(IUCN)から「絶滅危惧(きぐ)1A類」に指定されて「幻の魚」と言われるイトウも見つかった。イトウは90センチもある大物だった。

 川崎河川漁協の調べでは、近年見つかった多摩川の外来魚は、名前のわかったものだけで約100種類。その多くが観賞用として世界中から輸入された魚だった。90年代に水槽で魚や水草を育てるアクアリウムのブームの到来とともに、「捨て魚」の数が増えたという。

 かつての多摩川は「魚がすめない」と言われたが、下水道が整備され、流域住民が洗剤を選ぶなどの努力を重ねた結果、年間にアユ200万匹が遡上(そじょう)してくるまでに清流が回復した。そのことも放流を助長しているらしい。

 「大きくなって飼えなくなったが、かわいそうで殺せず、川に放流するのだろう。魚がすめる川になった途端、いろんな魚が捨てられ出した」と、同漁協の山崎充哲(みつあき)さん(48)は嘆く。

 山崎さんは漁協に提案し、05年5月に「お魚ポスト」を設置した。川崎市多摩区の河川敷公園にある漁協のコンクリート製の水槽に5メートル四方のいけすを設け、観賞魚を川に捨てようと近くまで来た人に、代わりに入れてもらうというものだ。

 ポストには設置直後から次々と熱帯魚が入れられた。グッピー、エンゼルフィッシュ、コリドラス。昨夏にはピラニア3匹が入れられた。「多摩川に放流されていたらと思うとぞっとする」と山崎さん。ポストに入っていた熱帯魚の多くは、近所の小中学校などに飼育してもらっているという。

 多摩川では04年ごろから、釣り用に持ち込まれたとされる北米産のコクチバスも見つかっている。在来魚を食い荒らして問題になっているブラックバスの仲間で、生態系や漁業への影響が最も心配される魚だ。今夏にはそのコクチバスの稚魚と親魚が見つかり、繁殖が確認された。親の腹からは食べられたアユも見つかった。

 「いろいろな外来魚が簡単に捨てられるうちに、第二、第三のブラックバスやコクチバスになる恐れもある。多摩川にも独自の生態系があり、アユやシマドジョウ、カマツカなどの魚たちが懸命に生きていることを知ってほしい」と山崎さんは訴えている。

PR情報

このページのトップに戻る