国策と地域医療(消える病院・全5回の2)

新シリーズ 社会保障が危ない〜「改革」の真相5
第2部 消える病院〜検証「医療崩壊問題」
中の1 国策と地域医療

逆境に向き合う中核病院
 
青森県・下北半島は、本州の最北端に位置し、斧(おの)のような形をしている。その斧の先端部、いわゆる本州の最果て≠ノ当たるのが、大間町だ。町内のあちらこちらに、青森県ではなく北海道函館市の医療機関の看板が立ち並ぶ。
 「大間町の場合、フェリーで海を渡って北海道へ行く方が、むつ市に来るより便利だから」と、むつ総合病院(むつ市)の小川克弘院長が、その事情を説明してくれた。『医者に通うのに、船で海を渡るとは!?』。地理的な問題があるとはいえ、初めて聞く下北地域の医療事情の一端にカルチャーショック≠フようなものを覚えた…。

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 むつ総合病院は、むつ市を中心に大間町・佐井村・風間通村・東通村の1市1町3村を対象とする「むつ医療圏」の中核病院となっている。この5自治体が下北医療センターという一部事務組合をつくって同病院を運営しているが、国の「第5次病院経営健全化計画」の適用を受けており、「経営的には決して楽ではない」(小川院長)。
同計画が始まった2002年4月には約55億円の負債(不良債権)を抱え、この5年間で約31億円を解消したものの、なお約24億円の負債を残している。同センター事務局長の高坂志一さんは「相次ぐ診療報酬の引き下げも響いている」と、苦しい胸の内を明かす。

 多くの公立病院と同様に厳しい病院経営に直面しているが、むつ総合病院は恒常的な医師不足問題にも悩まされている。「下北は僻地(へきち)というイメージで、昔から医師不足は深刻だった。大学の医局制度が厳然としていた頃でも『教授から下北に行け』と言われ、『はいそうですか』と応じる医師は少なかった」。こうした事情から、下北では韓国や台湾から医師を招いていた時代もあったという。
 現在は、弘前大学医学部からの派遣で持ちこたえているが、「04年度からの新医師臨床研修制度の影響で、大学も人手が不足している。いつ引き揚げられるか分からない。正直、なんとかつないでいるような状態で、いつも薄氷を踏む感じ」と、小川院長は苦悩を隠さない。加えて「呼吸器や血液関連、放射線科、神経内科も足りない。さまざまな病状の患者さんがいるため、専門の医師を備えておく必要がある」という思いにも駆られている。

地域完結型医療へ尽力
 
このような逆境にさらされている同病院だが、地域医療の拠点として活路を見出す懸命な努力も展開している。一つは、臨床研修病院の認定を受け、地域医療を志す若い医師たちを育てていることだ。「しっかりとした『医育』機関として病院機能を充実させ、医療の質の向上を果たせば、医師を派遣してくれている大学も下北にもっと目を向けてくれる。この地域できちんと臨床ができることを発信したい」と、小川院長は力を込める。

 もう一つは、医療の地域連携だ。下北地域の場合、県都の青森市まで約100`。車で2時間を要し、地域の医療連携が取りやすい市部から相当に離れている。特に、冬は吹雪で交通がままならないこともある。地域完結型の医療が不可欠だ。小川院長は語る。
 「地域の開業医と連携し、急性期や回復期は病院で、維持期は診療所や開業医でというようにネットワークを組み、役割分担を進めている。将来的には、特殊な検査等を要する場合に、病院から診療所や開業医の応援に行く体制なども整えたい。患者さんのために良い医療を提供することが、何よりも問われている」

 現場スタッフをはじめとする医療関係者の尽力で、下北の地域医療は「ギリギリの状況でも何とか踏ん張っている」(小川院長)が、将来に不安がない訳ではない。
 それは、下北地域が特に戦後に直面してきた歴史とも重なり合っている…。

(つづく)



更新:2007/12/06   キャリアブレイン

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