社説(2007年12月6日朝刊)
[学習到達度調査]
今の教育改革でいいのか
小中学校で従来の「ゆとり教育」を転換し授業時間を増やす流れが鮮明になっている。一連の教育改革で果たして学力の問題を解決できるのか、根本的な疑念がわいてくる。
経済協力開発機構(OECD)が昨年実施した学習到達度調査(PISA)で、日本の高校一年生は科学的応用力、数学的応用力、読解力のいずれも前回(二〇〇三年)よりランクを下げた。
今回は五十七カ国・地域の十五歳約四十万人が参加。日本の科学的応用力は二位から六位、数学的応用力は六位から十位、読解力は十四位から十五位にそれぞれ落ち込んだ。
PISAは「生きるための知識と技能」をテーマにしており、身に付けた知識を使いこなす力(リテラシー)が問われる。丸暗記や反復学習による知識重視の学力だけでは対応できず、自ら考えることが求められる。
知識は時間がたてば陳腐化する。変化の激しい時代には、生きる力、知識や技能を基に自ら考え、判断することが重要になる。今回調査では日本の教育の弱点が表れているのではないか。今後の改善に生かすことが大事だ。
生徒に対する質問調査では、「科学についての知識を得るのは楽しい」という割合は国際的に最低レベル。科学が役に立つと考えたり、科学に関心を持ったりする生徒の割合も低かった。
政府は「科学技術創造立国」を打ち出しているが、今回の調査結果を厳しく受け止める必要がある。
文部科学省は来年の学習指導要領改定へ向け、「ゆとり教育」の実質転換と約三十年ぶりの授業時数の増加を打ち出した。こうした方向で学力問題を解決するのは難しいのではないか。
PISAでは日本より授業時数が少ないフィンランドがトップクラスを維持した。大学院で専門教育を受けた教員による少人数教育で知られ、教育関係者の注目を浴びている。
本人のやる気を最重視し、頻繁なテストもない。低学力層の底上げで全体の平均点が上がり、高学力層の点数も伸びているという。フィンランドの教育哲学をもっと学ぶべきだろう。
日本の教育現場からは「今の現場には余裕がない。応用力を身に付ける指導は難しい」とため息が漏れる。教師は多忙になり、子供たちとじっくり向き合うゆとりがなくなっている。
改定学習指導要領の基本となる(1)授業時間数増(2)伝統や文化の尊重、国を愛する態度の育成(3)学習意欲向上―だけでいいのか、幅広い論議が必要だ。
授業の質を高めていくために、小規模学級の実現、教員の増員などについても真剣に検討していくべきだ。
社説(2007年12月6日朝刊)
[生活用品値上げ]
冷え込む消費者心理
新聞でもテレビでも、連日のように「値上げ」が報じられている。しかも、値上げされたか、これから値上げされるものはガソリン、電気料金といった交通・光熱費のほか、食パン、加工乳、みそ、ティッシュペーパー、食品保存用ラップなど、私たちの生活に欠かせない必需品ばかりだ。
単価は数百円かもしれないが、購入頻度が多いだけに数%の値上げでも家計に与えるダメージは大きい。第一生命経済研究所は、これら生活必需品の価格上昇が続けば平均的家計で年間一万円弱の負担増になると推計する。
総務省による十月の全国消費者物価指数は十カ月ぶりにプラスに転じたが、前年同月比0・1%の微増だった。デジタル家電などの下落が続いているためだが、十年に一度買い替えるかどうかの高額商品が値下がりしているから物価はほぼ横ばいだといわれても、庶民にはピンとこない。
内閣府が発表した十月の消費動向調査で、消費者心理を示す消費者態度指数が悪化に転じた。同調査では物価見通しについて、一年後に「上昇する」と答えた一般世帯が76・3%に達し、二〇〇四年四月の調査開始以来最も高かった。物価は上がっており、これからも上がる―。消費者は肌でそう感じ、戦々恐々としている。
物価上昇により企業業績が好転し、結果として賃金も上がればいい。だが、厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によると、十月の所定内給与は前年同月比0・3%減で、三カ月連続の減少となった。物価が上がって収入は減るというダブルパンチに、消費者マインドは冷え込むばかりだ。
庶民は、生活が今後さらに厳しくなると感じている。一部商品値下げに踏み切ったイオンの幹部役員は「値下げで消費を活性化させないと経済全体にマイナスになる」と説明した。経済において、心理的要素は決して小さくない。将来が必ずしも楽観できない状況下での値上げラッシュが消費者心理を冷え込ませれば、国内景気悪化のリスクは一段と高まる。
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