1. ナショナリズム論
作成途上です!
・・・・・・できあがっている部分だけを公開します。完成のめどは全くついていませんが、時間をかけて徐々に充実させていきたいと考えています。
■以下はナショナリズムに関する文献一覧と簡単なコメントあるいは解説です。以下の三つのパートから構成されています。
【概論・理論】([古典]の部分を中心にかなりできあがってきました)
【比較研究】(まだまだです)
【事例研究】(ほとんどできていません)
【概論・理論】
[古典]
(註: 「古典」の定義は曖昧だが、1980年代までに出版され、ナショナリズム研究の共通の知的資源になっているものを「古典」と呼ぶ。だが、あまり厳密なものではない。)
●Hans Kohn, The Ideas of Nationalism, 1944
古典の中の古典。もちろん古さは感じさせるが、ナショナリズムの発生を市民革命の勃興に求める議論や、「西のナショナリズム」対「東のナショナリズム」の対抗図式は、現在でも議論の素材になっている。しかも著者の博覧強記に圧倒される。大澤真幸編『ナショナリズム論の名著50』でのこの本の解説を参照してください。
●E.H.Carr, Nationalim and After, 1945
コンパクトで明晰な分析。ナショナリズム発生から第二次大戦終結までのヨーロッパのナショナリズムの歴史的変遷を四つの時期に区切って論じている。かつてはかなり有名だったようだが、現在はあまり省みられることが少なくなっている。邦訳はあるが絶版。
●Karl Deutsch, Nationallism and Socal Communication, 1953
ナショナリズム研究の忘れられた名著。ホブズボームは下記の著作で「もはや学ぶところはない」と切って捨てているが、コミュニケーションの近代化という観点からナショナリズムの発生を分析する視点は重要であろう。また、コナーはドイッチュとの対峙しながら「エスノナショナショナリズム」を論じている。
●Elie Kedourie, Nationalism, 1960
ナショナリズムをイデオロギーとしてとらえたもの。市民革命時代の「人民主権」という理念が「民族自決」というナショナリズムの理念につながったとする議論。民主主義の理念とナショナリズムの理念との間の断層と連続性をともにとらえたものとして興味深い。邦訳あり。
●Anthony Smith, Theories of Nationalism, 1971
現在は「近代主義」批判の論客として知られるスミスも、かつてはむしろ「近代主義的」であったことを示している著作。近代化の影響下での「知識人の危機」と、その知識人の果たす役割に注目している。スミスの議論全体を理解するには、「エトニー」をめぐる80年代のスミスとこの著作をつき合わせてみる必要がある。
●Charles Tilly, ed., The Formation of of National State, 1975
ナショナリズムに関する概論というよりも、ヨーロッパにおける国民国家形成史分析である。だが、ここでのティリーらの分析は、国家が国民をつくったとする、後の「近代主義」の共通理解となる論点を、歴史的事例を交えて明晰に論じている。しかし絶対主義時代の国家の集権化をそのまま「国民国家」形成と認知してしまうのは、やや時代的に先走りすぎているといえよう。じじつ90年代のティリーは、ちがった見方をとっているように思われる。
●Michael Hecter, Internal Colonialism: The Celtic Fringe in British National Development, 1975 [1999, with a new introduction and a new appendix]
次のネアンとともに、イギリス(ブリテン)を対象に、産業の不均等発展が周辺部のナショナリズムを発生させたという議論を行ったことで有名な著作。「国内植民地」という言葉は、分析の概念のみならずナショナリズム自体の内部でも広く用いられるようになた。どちらかというと論文集に近い下記のネアンの著作に比べ論述には体系性があり、、歴史をクロノロジカルに追いながら、イギリス帝国の形成、産業の不均等発展、周辺部のケルト系ナショナリズムの発生を、数量的データをふんだんに用いながら検証している。また、ネアン同様、その経済還元論を批判されたが、ヘクターはその後「文化的分業」という概念を用いて応戦している。ヘクターは合理的選択論の社会理論家としても知られ、Princiles of Group Corporation (1987)は邦訳もある(ミネルヴァ書房)。
●Tom Nairn, The Break-Up of Britain, 1977
本書の大部分はイギリス、スコットランド、ウェールズのモノグラフ的研究だが、「不均等発展」からナショナリズムの発生を理解するという理論的視点が提示された名著。フランクなどの、いわゆる「従属理論」が出てきた時代背景を受けている。しばしば経済決定論と批判されているが、よく読むと周辺化された知識層の果たす役割に注目するところなど、なかなか面白い。また、「近代化」という社会学的問題とナショナリズム分析を連結させた(ドイッチュとは違った視点から)視覚の広さも注目に値する。また、マルクス主義の立場からナショナリズムの問題を扱ったものとしての意義もあり、イギリスの左翼社会科学系雑誌『ニューレフト・レビュー』を通じて、後のベネディクト・アンダーソンにつながっていく。
●Hugh, Seton-Watson, Naions and States, Westview, 1977
アンダーソンが『想像の共同体』において頻繁に参照している著作。「ある共同体の相当数のメンバーが自らネーションを形成していると見なしているとき、あるいはあたかもそうであるかのように行動しているとき、ネーションは存在する」という、当事者視点を徹底させたネーションの定義が有名。各ケースの分析も、ネーションの観念、特にナショナルな言語や文化の定義と、そこにかかわる知識人や政治権力を分析している。数多くのケースが地域ごとにまとめられて論じられていて、辞典的な使い方もできる。
●Anthony Smith, Nationalism in the Twentieth Century, The Australian National University Press, 1979
ファシズムは人種主義(レイシズム)を特徴にしているのでナショナリズムではないという独自の理解が展開されている。これには異論も出されるだろう。また、これには正統派ユダヤ教徒であるスミス自身の事情もからんでいるかもしれない。
●Anthony Smith, The Ethnic Revival, Cambridge University Press, 1981
おそらく前期のスミスと、「永続主義」のスミスとをつなぐ著作。「インテリゲンツィア」の役割に関する分析が優れている。同時に「エトニー」という概念も提出されている。
●John Armstrong, Nations before Nationalism, The University of North Carolina Press, 1982
アンソニー・スミスに多大な影響を与えていることで有名な著作。スミスはこの著作に出会ったことで自覚的な「永続主義者」に転じたようである。用語法もいくつかをアームストロングから借用している。この著者は、中東、ヨーロッパの古代中世を対象に、「ナショナリズム以前」のエスニック・アイデンティティを論じている。そこでアームストロングが強調するのは、polityと呼ぶ政治権力(王国、帝国など))であり、それによって形成された「神話構成体mythomoteur」がナショナリズム以前のエスニックアイデンティティとなっているという議論を展開している。その点、より民衆的な共同性を強調するスミスとはやや立場が違っているように思われる。
●Benedict Anderson, Imagined Communities, 1983 [1991, revised and extended edition]
出版されて20年足らずでナショナリズム研究の不滅の古典を占めている名著。ネーションを「想像の共同体」ととらえた視点の新鮮さと鋭さは広く国際的に認められている。特に「出版資本主義」(出版物が商品として流通し、広範囲の読者層が形成されるようになること)や「巡礼」(エリートのキャリア形成過程における地域間移動)といった要因からナショナリズムの出現を分析するアンダーソンの語り口は、実に巧みである。また本書の特色は、アメリカにナショナリズム発祥の地であるという反ヨーロッパ中心主義的立場である。そのこととも関連していようが、この著書のもっとも優れた分析はアメリカおよび東南アジア(アンダーソンのフィールド)にある。ヨーロッパに関する分析は、ヨーロッパのナショナリズム研究者(ブルイリーやオットー・ダンら)からはあまり高く評価されているとは言いがたい。さらに、本書での日本に関する分析は最悪に退屈な箇所である(日本人の研究者はあまりこのことを指摘しないが)。いずれにせよ、名著だからといってナショナリズムに関する知識のすべてをこの本に期待するのは間違いである(当たり前の話だが)。むしろこの本は、いくつかの分析視点の鋭さと同時に、その「アバウトさ」に特徴があるともいえる。邦訳あり(NTT出版)。
●Ernest Gellner, Nations and Nationalism, 1983
これも、あえて解説を要さないほどの有名な著作。非常にエレガントな文体と論理である。産業化がナショナリズムを生み出したという論旨はあまりに明晰だが、歴史的事実に基づく批判(ナショナリズムは産業化が進展していない段階で発生することが多いこと)も受ける結果となった。産業化はナショナリズムの発生というよりはむしろ、普及(大衆化)と関連させたほうがよいであろう。また、ゲルナーには、産業化の不均等発展がナショナリズムを発生させるという、ネアンと同一の議論(ネアンもしばしばゲルナーの昔の著作を引用しているが)もあることは、意外に忘れられがちである。邦訳あり(岩波書店)。
●Peter Alter, Nationalism, Edward Arnold, 1985
ナショナリズムの定義から始まり、19世紀初頭以後のナショナリズムの歴史と多様性を概観したもの。非常にバランスがとれており、類型化のしかたも無理がない。もし英語の文献が許されるなら、授業のテキストに使いたいくらいである。
●Anthony Giddens, The Nation-State and Violence, 1985
世界的に有名な社会学者(ブレア政権のブレーンでもある)ギデンズの著作。彼の社会理論の視点から、近代の国家である国民国家の形成の過程が論じられている。しかし「ナショナリズム」に関する分析は少なく、むしろ「国家」の歴史社会学とみなすべきであろう。邦訳あり。
●John Breuilly, Nationalism and the State, 1985 [1993, revised edition]
日本では意外に知られていない名著。ナショナリズムの発生をめぐる国家の役割を重視する。しかし前述のティリーらの議論と違い、国家の集権からからナショナリズム発生にいたるプロセスは、より複雑なものと捉えられている。すなわちそこには、国家の権力奪取にむけて動員する政治運動の発生という契機が重要視され、その運動の発生の制度的文脈である「社会」(あるいは「市民社会」)の役割が重視されている。またブルイリーの議論では、ナショナリズムを「対抗的な政治運動」と捉えている点も特徴的である。なお、この著作は、きわめて広い範囲から事例を引いて比較研究を行っている点でも特筆すべきであろう。
●Eric Hobsbawm, Nations and Nationalism since 1780, 1990
ホブズボームはイギリスの高名な歴史学者であり、有名な「時代」四部作に比較すれば、この著作はむしろ「余技」に属するのかもしれない。じじつこの著作は、彼の著作としては例外的に小規模であり、ここで引いている事例は断片的なものが多く、もっと突っ込んだ分析を求めたい気にもさせる。彼の主要著作四部作とつき合わせながら読むのも(時間はかかるが)いいかもしれない。この著作の中心的な論点を抽出するとすれば、近代国家形成のインパクトが大きかったということ、政治の民主化・大衆化の結果、言語やエスニシティに依拠したより小型の「ネーション」が、ナショナリズムを表明するようになったということ、などである。ホブズボームが、レンジャーと共編した『伝統の創造』という有名な著作で行った議論も、このナショナリズムの大衆化という議論の文脈の中で理解することができる。邦訳あり。
●Anthony Smith, The Ethnic Origins of Nations, 1986; National Identity, 1991; Nationalism and Modernity, 1998
80年代後半からのスミスの多産ぶりにはびっくりさせられる。上記はその一部。だが、内容的には大きな発展はなく、どの著作も同じような議論を、文字通り「手を変え品を変えて」繰り返している。だからあえて個別の著作には言及しない。これら一連の著作での主要な論旨は、アンダーソン、ゲルナー、ホブズボームらの「近代主義」的アプローチ(ナショナリズムは近代になって発生したとする視点)への批判である。スミスはそれに対し、「エトニー」という近代以前的な制度的・文化的レガシーのもつ「永続的・連続的」や役割に着目している、という点はすでに広く知られている。しかし彼は(70年代の彼自身の議論を見てもわかるとおり)決して「原初主義」をとるのではなく、「近代」に際しての断続性を認めながらも、連続性を戦略的に強調するという立場をとっている。したがって、90年代末からの彼は、「原初主義」への回帰を誤解されそうな「永続主義」という自己命名をやめ、「エスノシンボリズム」という自己命名に変更している。これもスミスの戦略的配慮から来るものであろう。[1986][1991]は邦訳あり。
[最近のものから]
●Paul Brass, Ethnicity and Nationalism, Sage, 1991
いわゆる「道具主義的」アプローチの典型的な例。インドなどの南アジアをフィールドに、エリート間の権力とうす、そこにおけるエスニックなシンボルの操作や動員などが分析されている。「道具主義」の限界を踏まえて読むなら、なかなか説得力に富んでいて面白い。
●Bernhard Giesen (Hg.), Nationale und kulturelle Identität, Suhrkamp, 1991
ヨーロッパのナショナル・アイデンティティ形成に関する論文集。
●Berhhard Giesen, Die Intellektuellen und die Nation: Eine deutsche Achsenzeit, Suhkamp, 1993
ギーゼンはドイツの社会学者。理論にも強い人で、この著作も第一部は理論編である。第二部は18世紀末から19世紀半ば(ドイツ統一以前)までの知識人とナショナリズムの関係を論じたもの。そして第三部は戦後の知識人(特に左翼系・革新系)のナショナル・アイデンティティを論じたもの。第三部だけでも面白い。私(=佐藤)は、この著作から「ホロコースト・アイデンティティ」という概念を借用して論文を書いたことがある。基本的にはドイツの分析だが、概論書としても読める。
●Michael, Mann, The Sources of Social Power, volume II: The Rise of Classes and Nation-states, 1760-1914, Cambridge University Press, 1993
英仏革命から第一次大戦までの欧米の歴史をあつかったもので、ナショナリズムの「概論」とはいいがたいが、本書全体の議論が有意義な国民国家形成論になっている。近代国家の形成と市民社会の生成との相互連関関係を通じた国民国家形成の過程を、「四つの社会的powers」の複雑な連関関係から分析している。大部だが読み応えのある著作。邦訳あり(NTT出版)。
●Thomas Hylland Eriksen, Ethnicity and Nationalism: Anthropological Perspective. London and Chicago: Pluto Press. 1993
「エスニシティ」と「ナショナリズム」に関する総合的研究。タイトル通り人類学的知見を多く入れている点が特徴的。
●Josep R Llobera, The God of Modernity: The Development of Nationalism in Western Europe, Berg, 1994
「近代ナショナリズムはフランス革命以後の現象だが、ナショナル・アイデンティティは長く持続した現象である」という視点から、ヨーロッパ中世以来のナショナル・アイデンティティの歴史を分析し、また後半では資本主義、国家、階級と市民社会などの「近代的要因」について論じている。スタンスとしては、A.スミスに近いもの。ただし議論はヨーロッパに限定されている。
●Walker Connor, Ethnonationalism: The Quest for Understanding, Princeton University Press, 1994
いわゆる「エスノナショナリズム」をめぐるコンナーの論文を集めたもの。『ナショナリズム論の名著50』を参照せよ。
●Ernest Gellner, Encounter with Nationalism, Blackwell, 1994
ゲルナーの論文集。
●Hagen Schulze, Staat und Nation in der europäischen Geschichte, Beck, 1994
ドイツ史学者が、ヨーロッパにおける「国家」と「ネーション」の発展史を概観したもの。「国家」と「ネーション」が概念的・制度的に別個の起源をもち、フランス革命以後それが一体化し「国民国家」として発展していったという歴史的経緯が、様々な歴史的事例をもとに論じられる。第二次大戦で歴史的な記述は終わっているが、最後にヨーロッパの中の国民国家の問題も論じられている。
●Michael Billig, Banal Nationalism, Sage, 1995
先進諸国(特にイギリス、アメリカ)における、熱狂的でない「平凡な」ナショナリズムを論じたもの。日常的に人々が行っている語り方(『われわれ国民は」など)や行動(国旗を立てたり国歌を歌ったり)の中にナショナリズムが現れているということ、その意味で先進諸国もナショナリズムとは無縁でないことを論じている。「9.11」以後のアメリカの状況と関連させて読むこともできる。
●Rogers Brubaker, Nationalism Reframed, Cambridge University Press, 1996
東欧・ロシアをフィールドにしながら、ネーションを「実践的カテゴリー」としてとらえ、それが制度化され、政治的に利用されていく過程を、政治的・制度的文脈の中で分析していこうとする比較ナショナリズム研究。なお、ブルーベイカーは私(=佐藤)が学問的に尊敬する恩師である。
●Montserrat Guibernau, Nationalisms: The Nation-State and Nationalism in the Twentieth Centry, Polity Press, 1996
●Paul James, Nation Formation: Towards a Theory of Abstract Community, Sage 1996
●Gopal Bakakrishnan, ed., Mapping the Nation, Verso 1996
豪華な執筆人による論文集。編者の好みで、オットー・バウアーの論文も含まれている。編者のゴーボール君は、私(=佐藤)のUCLA留学時代の友人である。
●Ernest Gellner, Nationalism, New York University Press, 1997
●Geoff Eley and Ronald Suny, eds., Becoming National: A Reader, Oxford University Press, 1997
アンソロジー。有名なルナンの論文も含まれている。編者による序論は一読の価値あり。
●Adeian Hastings, The Construction of Nationhood: Ethnicity, Religion, and Nationalism, Cambridge University Press,1997
いわゆる「近代主義」を批判しながらも、スミスのような「永続主義」もとらない、あえていえば「中世主義」とでも呼ぶことができるだろうか。ネーションの発生を中世イギリスに求めるユニークな視点を提起している。歴史学者好みの著作。またアフリカのナショナリズムの発生に果たしたキリスト教の役割についての分析も面白い。なお、著者の本職は神学らしい。少し詳細に検討すべき必要のある著作。
●Craig Calhoun, Nationalism, Open University Press, 1997
キャルフーンはアメリカの歴史社会学の中堅どころの代表格の人物である。中軸となる主張には乏しいが、最新の研究動向を踏まえた議論が展開されている。
●T. K. Oommen, Citizenship, Nationality and Ethnicity: Reconciling Competing Identities, Polity Press, 1997
●David McCrone, The Sociology of Nationalism, Routledge, 1998
題名が示すほどに「社会学」的であるとは思えないが、ナショナリズム発生における社会的要因に注目してはいる。著者はスコットランドのナショナリズムを専門にする研究者である。
●John A. Hall, ed., The State of the Nation: Ernest Gellner and the Theory of Nationalism, 1998
●Montserrat Guibernau, Nations without States: Political Communities in a Global Age, Polity Press, 1999
●Umut Özkirimli, Theories of Nationalism: A Critical Introduction, St. Martin's Press, 2000
1990年代までのナショナリズム論の適切な整理をやっていて、大変便利な著作である。「前近代主義」「エスノシンボリズム」「近代主義」という三対の軸を立てている。
●Montserrat Guibernau and John Hutchinson, eds., Understanding Nationalism, Polity Press, 2001
●Gerald Delanty and Patrick O'Mahony, Nationalism and Social Theory, Sage 2002
題名のとおり、ナショナリズムを社会理論の分析枠組みの中に位置づけようとしたもの。なかなか鋭い視点がある。だが著者が提示する「理論」的枠組みがどれほど有効であるかというと、疑問も残る。
●Andreas Wimmer, Nationalist Exclusion and Ethnc Conflict: Shadow of Modernity, Cambridge University Press, 2002
最近のナショナリズム論の中では、私(=佐藤)の一押しのもの。国民国家論を枠組みに、中東、アフリカ、ラテンアメリカ、西欧の民族紛争を分析してしまおうという野心的研究。国民国家論としてこれ以上に説得力のあるものは、現在他に見当たらない。
●Philip Spencer and Howard Willman, Nationalism: A Critical Introduction, Sage, 2002
ナショナリズムをめぐる様々な論点を整理している。上記Ozkirimli(2000)のように図式的ではなく、対象となる論点も広い。副題が示すとおり、「批判的」見地からのナショナリズム論の導入としてすぐれている。
●Anthony W. Marx, Faith in Nation: Exclusionary Origins of Nationalism, Oxford University Press, 2003
ナショナリズムを啓蒙主義と市民革命の産物であるとするハンス・コーン以来広く知られた議論を根本的に批判し、近代ナショナリズムの起源を16世紀の宗教紛争に求めたもの。副題が示唆するように、「シヴィック(市民的)」と特徴づけられた「西洋(欧)的」なナショナリズムにおける排他的で不寛容な面をえぐりだそうという意図がある。
●Jyoti Puri, Encountering Nationalism, Blackwell, 2004
●Sima Godfrey and Frank Unger, eds., The Shifting Foundations of Modern Nation-States. University of Tront Press, 2004
●Monserrat Guibernau and John Hutchinson, eds., History and National Destiny: Ethnonationalism and Its Critics, Blackwell, 2004
ロンドンにあるASEN(Association for the Studies of Ethnicity and Nationalism)のコンフェランスの記録。
●John Hutcinson, Nations asZones of Conflict, Sage, 2004
アントニー・スミスを主導者とする「エスノシンボリズム」の新たな展開。
●Michael Mann, The Dark Side of Democracy: Explaining Ethnic Cleansing, Cambridge University Press, 2004
「民族浄化」の包括的研究。民主化との関連に注目している。
●Rogers Brubaker, Ethnicity without Groups, Cambridge, MA: Harvard University Press
最近のブルーベイカーの理論的展開。「認知的アプローチ」を主張。
●Andrew Thompson and Graham Day, THeorizing Nationalism. Basingstoke and New York: Pelgrave Macmillan. 2004
ナショナリズム論の入門に最適。特に最近の理論的展開についてバランスの良い記述をしている。
●Umut Özkirimli, Contemporary Debates on Nationalism: A Critical Engagement. Basingstoke and New York: Pelgrave and Macmillan. 2005
ウズクルムルのナショナリズムの理論研究の第二作。今回はどちらかというと規範論的側面からの整理が行なわれている。
●Steven Grosby, Nationalism: A Very Short Introduction, Oxford: Oxford University Press, 2005
オックスフォード出版の「大変短い入門」シリーズの一つ。ポケットサイズ。しかし内容はかなり挑戦的でインパクトあり。「近代主義」の議論をほとんど省みず、「前近代主義」的なアプローチに徹している。日本の事例も引用され、伊勢神宮や靖国神社の写真まで入っている。「前近代主義」の議論にとって日本は格好な事例であることがわかる。
●Atsuko Ichijo and Gordana Uzelac, eds., When is teh Nation? Towards an Understainding of Theories of Nationalism, London and New York: Routledge, 2005
ASENのコンフェランス記録。例によってビッグネームな研究者によって「近代主義対反近代主義」の論争が繰り返されているが、そろそろこの論争の賞味期限も切れいているといわなければならない。
●Jonathan Hearn, Rethinking Nationalism: A Critical Introduction. Basingstoke and New York: Pelgrave Macmillan, 2006.
「入門」として大変にしっかりとかかれている。1980年代までの中心的対立軸であった「近代主義」対「前近代主義」にくわえ、最近の理論的対立軸を「権力」と「文化」の軸でまとめている。特に後半は出色。
●Aviel Roshwald, The Endurance of Nationalism: Ancient Roots and Modern Dilemma. Cambridge: Cambridge University Press,2006.
最近よくある「近代主義批判」の一つ。ナショナリズムの起源を古代にまで遡っている。
●Daniel Chernilo, A Social Theory of the Nation-State: The Political Forms of Modernity Beyond Methodological Nationalism. Abington and New York: Routledge. 2007
マルクスからルーマン、ハーバーマスにいたる10人以上の社会学者・社会学理論家の議論を検討し、国家理解に想定されている「方法論的ナショナリズム」を指摘しつつ、社会理論のもつ普遍性に可能性を見出そうとしうもの。なかなか面白い。
●Phipil G. Roeder, Where Nation-States Come From: Institutional Change in teh Age of Nationalism, Princeton and Oxford: Princeton University Press, 2007.
ローダーはソヴィエトの専門家。ロシア、ソ連の例を持ちながら、制度学派的枠組みから国民国家の発生と波及を論じた著作。この制度学派的枠組みは注目すべきである。
[規範理論]
(リベラリズムの立場からナショナリズムを再評価しようとする論調とそれへの批判)
●Yael Tamir, Liberal Nationalism, Princeton University Press, 1993
●David Miller, On Nationality, Oxford University Press, 1995
●Will Kimlicka, Multicultural Citizenship: A Liberal Theory of Minority Rights, Oxford University Press, 1995
●Ronald Beiner, Theorizing Nationalism, State University of New York Press, 1999
●Alain Dieckhoff, The Politics of Belonging, Nationalism, LIberalism, and Pluralism, Lexington Books, 2004
[グローバル化の中の国民国家とネーション]
(20世紀末からのグローバル化の中で、国民国家やナショナル・アイデンティティがもつ意義について論じたもの。)
●Robert J. Holton, Globalization and the Nation-State, Macmillan/St.Martin's Press, 1988
●Paul Kennedy and Catherine J. Danks, eds., Glibalization adn Natonal Identities: Crisis or Opportunity? Palgrave, 2001
●Günter Mardus, Zur bisherigen und zukünftigen Rolle der europäischen Nationalstaaten, Peter Lang, 2002
●T. V. Paul, G. John Ikenverry, and John A. Hall, eds., The Nation-State in Question, Princeton University Press, 2003
[国家論]
(ネーションと区別された意味での国家state[=ある一定の領土を統治する権力機関]に関する一般的分析や歴史的概論)
●Charles Tilly, ed., The Formation of of National State, 1975
⇒上記参照
●Gianfranco Poggi, The Development of the Modern State, Stanford Universty Press, 1978
ヨーロッパにおける国家発展を「封建的」「身分制的」「近代的」の三つの段階に分けて分析したもの。国家といえば圧倒的に政治学のテーマのように思われるが、社会学者であるポッジは、国家の社会関係的基礎に着目している。
●Peter Evans, Dietrich Rueschemayer, and Theda Skocpol, eds., Bringing the State Back In, Cambridge University Press, 1985
ずっと国家の問題を軽視してきたアメリカの社会学において「国家論の復権」をアピールした重要な著作。社会学が国家を真剣に論じるようになったのは、この著作が出された1985年ころからである。下のギデンズの著作と同年に出版されている点も興味深い。
●Anthony Giddens, The Nation-State and Violence, 1985
⇒上記参照
●Andrew Vincent, Theories of the State, Blackwell, 1987
●David Held, Political Theory and the Modern State: Essays on State, Power, and Democracy, Stanford University Press, 1989
●John A. Hall and G. John Ikenberry, The State. Princeton University Press. 1989
1980年代段階での国家論のサーヴェイを行ったもの。
●Gianfranco Poggi, The State: Its Nature, Development and Prospects, Stanford University Press, 1990
ポッジは、国家を論じる貴重な社会学者である。そこにマキャペリ以来の国家論の伝統をもつイタリアの社会学者としての自負を感じ取ることができるかもしれない。上記1978年の著作の続編として書かれている。
●Charles Tilly, Coercion, Capital, and European States, AD 990-1992, Blackwell, 1990
今やアメリカを代表する歴史社会学者のティリーのパースペクティブをよく表わしている著作。題名からわかるように、中世から現代に至るマクロな歴史発展を整理する枠組みを提示している。
●John A. Hall ed.,, The State: Critical Concepts, 3 vols, Routledge. 1994
国家論の便利なアンソロジー。全三巻。ありがたいことに法制多摩図書館が所蔵している。
●Christopher Pierson, The Modern State, Routledge, 1996
最近の国家論の論点を明晰に整理している。国家論の入門書として最適である。
●Thomas Ertman, Birth of the Leviathan: Building States and Regimes in Medieval and Early Modern Europe, Cambridge University Press, 1997
中世から16世紀ころまでにおけるヨーロッパの国家形成を分析したもの。
●Linda Weiss, The Myth of the Powerless State, Cornell University Press, 1998
グローバル化した資本主義経済が国家の役割を縮小させるというテーゼに真っ向から対決し、経済発展における国家の役割に注目したもの。日本をはじめとする東アジア諸国の例が詳細に論じられている。
●Walter C. Opello, Jr. and Stephen J. Rosow, The Nation-State and Global Order: A Historical Introduction to Contemporary Politics. Rienner, 1999
●Philip S. Gorski, The Disciplinary Revolution: Calvinism and the Rise of teh State in Early Modern Europe, Chicago: University of Chicago Press, 2003.
気鋭の歴史社会学者による著作。近代国家形成にカルヴィニズムの果たした役割が論じられている。鋭利でわかりやすく無駄のない記述はほとんど芸術的域である。この議論に同意するにせよしないにせよ一読の価値あり。
[日本語によって書かれた研究]
●山内昌之『民族問題入門』(中公文庫、1996)
題名のとおりの優れた入門書。
●田口富久治『民族の政治学』(法律文化社、1996)
●『岩波講座 現代社会学 24:民族・国家・エスニシティ』(岩波書店、1996)
名前のワリiに社会学らしくない論文集。
●西川長夫『国民国家論の射程:あるいは「国民」という怪物について」(柏書房、1998)
日本における国民国家論の代表的論者の論文集。
●関曠野『民族とは何か』(講談社現代新書、2001)
●姜尚中『ナショナリズム』(岩波書店、2001)
「思考のフロンティア」シリーズの一冊。ナショナリズムの概論的なものを期待すると裏切られる。大半が日本の「「国体」ナショナリズム」にあてられている。題材が狭すぎる。もう少し一般的な「ナショナリズム論」を展開してほしかった。
●松本健一『民族と国家』(PHP新書、2002)
●大澤真幸編『ナショナリズム論の名著50』(平凡社)
欧米および日本のナショナリズム論の代表的著作を古典から現代に至るまで紹介した便利な書。
●山内正之『帝国と国民』(岩波書店、2004)
●井関正敏『ナショナリズムの練習問題』(洋泉社、2005)
●大澤真幸『ナショナリズムの由来』(講談社、2007)
ようやく出版された大澤氏の超大著。
●大澤真幸・姜尚中編「ナショナリズム論・入門」(有斐閣、近刊)
・事例研究を含んだ論文集
●蓮實重彦・山内正之『いま、なぜ民族か』(東京大学出版会、1994)
東大教養学部で開かれたシンポジウムの記録。
●歴史学研究会編『国民国家を問う』(青木書店、1994)
トピックの選び方、視点ともに、いかにも「歴研」らしい論文集。ある意味オーソドックス。
●中谷猛・川上勉・高橋秀寿『ナショナル・アイデンティティ論の現在』(晃洋書房、2003))
トピックの選び方が面白い論文集。
[辞典類]
●世界民族問題事典(平凡社、1995)
大変便利でかつ内容の充実した事典。
●Encyclopedia of Natonalism, 2 vols, Academic Press, 2001
概念・理論編と地域編に分かれる。各分野の第一人者もしくは先端の研究者が執筆していて充実している。
【比較研究】
●Miroslav Hroch, Social Conditions of National Revival in Eurpe: A Comparative Analysis of the Social Composition of Patriotic Groups among the Smaller European Nations, Columbia University Press, 2000 [oroginally published in German in 1968 and 1971 in Prague; the translation first published by Cambridge University Press in 1985]
中央・東・北ヨーロッパのナショナリズムを包括的に比較した名著。ホブズブームが『ネーションとナショナリズム』の中で高く評価している。著者のフロッホは旧チェコスロバキア(現在はチェコ)の歴史家で、マルクス主義の理論枠組みを用いている。
●Reinhard Bendix, Nation-Building and Citizenship, University of California Press, 1977
ヴェーバーの支配概念、トクヴィルの議会制概念、マーシャルのシチズンシップ概念などを巧みに用いて比較歴史社会学的研究を行ったもの。
●Rogers Brubaker, Citizenship and Nationhood in France and Germany, Harvard University Press, 1992
フランスとドイツにおける国籍形成の比較歴史社会学。佐藤成基監訳による翻訳あり(明石書店)。
●Liah Greenfeld, Nationalism: Five Roads to Modernity, Harard University Press, 1992
イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、ロシアの比較研究。社会的地位をめぐる闘争とネーション観念との相互連関関係の分析が興味不快。詳細は大澤真幸編『ナショナリズムの名著50』を参照せよ。
●Lyn Spillman, Nation and Commemoration: Creating National Identities in the Unitede States and Australia, Cambridge University Press, 1997
いわゆる「移民国家」とされるアメリカ合衆国とオーストラリアにおけるナショナル・アイデンティティを、建国百周年,二百周年の記念式典における「コメモレイション」を分析することで比較しつつ明らかにしようという著作。ナショナル・アイデンティティを「文化的レパートリー」として分析するという最近の新しい文化社会学の方法論を用いている。
●Adrian Favell, Philosophies of Integration: Immigration and the Idea of Citizenship in France and Britain, Palgrave, 1998
●Jack Snyder, From Voting to Violence: Democratization and Nationalist Conflict, Norton, 2000
民主化がナショナリズム・民族紛争を高めるというテーゼを、様々なケースを題材に検証した野心的著作。19世紀ヨーロッパから、現在のアジア、アフリカにいたるまで、扱う範囲は広い。
●Michael Keating, Nations against the State: The New Politics of Nationalism in Quebec, Catalnia, and Scotland, Palgrae, 2001 [2nd edition]
キーティングは、ヨーロッパ、カナダなどの地域ナショナリズムを専門に研究している研究者で、この著作は彼のこれまでの研究の集大成的なものと思われる。
●Riva Kastoryano, Negotiating Identities: States and Immigrants in France and Germany, Princeton University Press, 2002 [originally published in French in 1998]
【事例研究】
[ヨーロッパ]
[アメリカ]
[アジア」
[中東]
[アフリカ]
[日本]
・戦前
奥武則『大衆新聞と国民国家』(平凡社選書)
小熊英二『単一民族神話の起源』(新曜社)
同 『<日本人>の境界』(新曜社)
鈴木健二『ナショナリズムとメディア−−日本近代化過程における新聞の功罪』(岩波書店)
副田義也『教育勅語の社会史』(有信堂)/多木浩二『天皇の肖像』(岩波書店)
西川長夫・松宮秀治編『幕末・明治期の国民形成と文化変容』(新曜社)
西川長夫・渡辺公三編『国際秩序と国民文化の形成』(柏書房)
橋川文三「ナショナリズム−その神話と論理」『橋川文三著作集〈9〉』(筑摩書房)
福間良明『辺境に映る日本』(柏書房)
タカシ・フジタニ『天皇のページェント』(NHKブックス)
藤田省三『天皇制国家の支配原理』(未来社)[かなり難解]
牧原憲夫『国民と客分のあいだ』(吉川弘文館)
宮地正人『日露戦後政治史の研究』(東京大学出版会)
村井紀『南方イデオロギーの発生』(大田出版)
安丸良夫『近代天皇像の形成』(岩波書店)
李孝徳『表象空間の近代』(新曜社)
・戦時体制期
安部博純『日本ファシズム研究序説』(未来社)
雨宮昭一『総力戦体制と地域自治』(青木書店)
信夫清三郎『聖断の歴史学』(勁草書房)
竹内好「日本のアジア主義」(松本健一『「日本のアジア主義」精読』岩波書店)
橋川文三(筒井清忠編)『昭和ナショナリズムの諸相』(名古屋大学出版会)
秦郁彦『軍ファシズム運動史』(原書房)
松沢哲成『日本ファシズムの対外侵略』(三一書房)
丸山真男『日本政治の思想と行動』(未来社)[古典的名著]
吉見義明『草の根のファシズム』(東京大学出版会)
・戦後
浅羽通明『ナショナリズム』(ちくま新書)
阿部潔『彷徨えるナショナリズム』(世界思想社)
井関正敏『天皇と日本人の課題」(洋泉社)
磯田光一『戦後史の空間』(新潮社)
小熊英二『〈民主〉と〈愛国〉』(新曜社)
加藤典洋『アメリカの影』(筑摩書房)
山本英治『沖縄と日本国家』(東京大学出版会、2004)
吉野耕作『文化ナショナリズムの社会学』(名古屋大学出版会)
和田春樹『北方領土問題を考える』(岩波書店)
同上 『北方領土領土問題 −歴史と未来』(朝日新聞社)
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