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メタボ再考:揺らぐ診断基準/5止 特定健診

 ◇科学抜きのスローガン

 「医学的な根拠が不十分なまま実施されるなんて、ひどい話です」

 来年度から始まる特定健診・保健指導制度を巡り、先月20日に東京保険医協会が都内で開いた説明会。小川統一事務局次長がメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)対策として始まる新制度を批判すると、500人以上の会員は身を乗り出した。

 小川事務局次長は突然、問題点を列記したパンフレットを握りしめ、立ち上がった。「興奮して立ってしまいました。本当に気分が悪い」

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 「胸のつかえが下りたような気がする。(施策を進める)自信を持ちました」

 05年春、厚生労働省で開かれた幹部向け勉強会。メタボ研究をリードしてきた松澤佑次・住友病院長(大阪大名誉教授)が講演を終えると、辻哲夫・厚生労働審議官(当時)は、こう口を開いた。日本内科学会など8学会が同年4月、メタボ診断基準を発表。生活習慣病対策を医療制度改革の柱にしようと考えていた厚労省幹部は「我が意を得たり、とはこのことだった」と振り返る。

 厚労省は生活習慣病対策を柱に据える方針を固めつつあったが、足りないものがあった。「施策を科学的に後押しし、分かりやすく伝える概念」(当時のスタッフ)。メタボこそ、厚労省が求めていたものだった。

 勉強会から数カ月後の05年9月、厚労省の地域保健健康増進栄養部会は「メタボ概念を導入した生活習慣病対策の推進」を盛り込んだ中間報告をまとめ、翌月には政府の医療制度改革の試案が発表された。メタボ対策を中心にして生活習慣病患者・予備群を減らすとの国の方針があっけなく決まった。

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 新制度の思わぬ影響が出る恐れがある。

 日本人の死因トップ、がんによる死者を減らすため、今年6月に閣議決定されたがん対策推進基本計画は「がん検診受診率を50%に上げる」との目標を掲げた。だが、新制度は法律で実施を義務付けたが、がん検診は市町村に実施の努力を求めるだけ。予算が限られる中、がん検診は後回しになる恐れがある。

 メタボ基準に異論が相次ぐことについて、厚労省生活習慣病対策室は「メタボの概念が揺らいでいるとは思っていない。新制度スタートに何の問題もない」と話す。

 ところが、国費を投入する厚労省研究班では既に、メタボ基準を再検討する作業が続々と始まっている。東京大などが参加する研究班は、09年夏ごろまでに全国約2万4000人のデータを基に、最適な腹囲の数値を検討する。別の2000人でメタボの主な原因が内臓脂肪かそれ以外かを分析する。国立循環器病センターなどの研究班も大規模疫学調査から、メタボと循環器病の関係を検証する予定だ。

 国は来年度予算で、新制度のために500億円を超える額を要求した。地方自治体や保険者の予算を加えれば、数千億円規模の負担が必要だ。多額の予算をつぎ込む新制度が、科学的根拠が固まらないまま走り出そうとしている。=おわり

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 この連載は鯨岡秀紀、永山悦子、下桐実雅子、須田桃子、関東晋慈、大場あいが担当しました。

毎日新聞 2007年12月6日 東京朝刊

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