ホーム > きょうの社説


2007年12月6日

◎景気に減速感 金融商品取引法の手直し急務

 「回復の動きに減速感が漂っている」。石川県の景気の現状と見通しについて、北國銀 行が示した景気判断は、日銀金沢支店が公表した直近の調査より相当厳しく、私たちが皮膚で感じている「体感温度」に近い。

 景気減速を招いた原因について、本紙「北風抄」で、富山市出身の金融コンサルタント 木村剛さんは、貸金業法と建築基準法の改正、金融商品取引法の制定が現在の「コンプライアンス不況」を呼び込んだ、と指摘した。実際、石川、富山両県の七―九月の住宅着工数はいずれも前年比三割減、十月の北國銀行の投信販売は六割減、北陸銀行は四割減という。経済の実情を慎重にしんしゃくしたとは思いにくい法律の制定で、景気回復の足取りが怪しくなってきている。ひたひたと忍び寄る「行政不況」の実態に目を凝らし、今のうちに打てる手を打っておきたい。特に金融商品取引法は改善の余地が多くあり、早急な手直しが必要である。

 九月末施行の金融商品取引法の狙いは、国民が安心して投資できる環境の整備にある。 元本割れの恐れがある金融商品について、売り手が十分な説明をするよう求め、違反した場合は行政処分が科せられる。法の趣旨はまことに分かりやすく、国民の利益にかなう法のように見える。

 ところが、趣旨は明快でも、中身が異常なほど細かく、政省令を合わせると実に一万ペ ージに及ぶ。これを完全に理解し、厳密に運用するのは至難の業だ。金融機関は、リスクについての詳細な説明だけでなく、たとえば顧客のリスク許容度はどの程度なのかなど、顧客ニーズを正確に把握するよう求められているため、商品によっては顧客への説明時間が一時間以上かかることも珍しくない。

 絶対安全な横断歩道をつくっても、人が渡るのに一時間かかるようなしろものだったら 、税の無駄遣いだと指弾されるだけだろう。売り手に膨大な手間暇をかけさせ、顧客に長時間の我慢を強いるような法もまた「悪法」と言うしかない。

 金融機関にとって、金融庁は鬼より怖い存在だ。だから、必要以上に説明に時間をかけ るという側面もあるのだろうが、そんなこともみな織り込んで、使い勝手のよい仕組みに改める必要がある。

◎法人事業税再配分 安易でもやらぬよりまし

 地方自治体の税収格差是正策として、政府・与党が地方法人二税のうち、法人事業税を 大都市部から地方に再配分する案を固めたことに対し、自治体の間でも賛否両論がある。確かに発想も手法も安易な気がしないでもないが、抜本的な対策がすぐにはまとまらない以上、暫定的措置でも、やらないよりましではないか。

 地方自治体の税収格差は、地方の努力だけではいかんともしがたい。地方の犠牲の上に 、大都市のみが繁栄する仕組みを変えていかなければならない。自治体間の税の再配分はあくまで暫定措置であって、中央から地方への税源移譲を核とした抜本改革につなげていく必要がある。

 税体系の再構築により、過密地から過疎地に企業や人を呼び込む格差是正策として、法 人税、所得税への「軽減課税」導入も検討するよう再度注文しておきたい。

 法人事業税と法人住民税の二税は、大企業の本社が集中する東京都などに偏っており、 税収は最多の東京都と最少の長崎県で六倍もの開きがある。政府は当初、二税合わせて一兆円ほどの再配分を目指したが、東京都などが強く反対したため、今回は法人事業税に限り、東京都や愛知県などから四千億円前後を再配分する方向で調整している。

 地方法人二税は行政サービスの対価であり、再配分は「受益に応じて負担する地方税の 原則に反する」という東京都などの反対理由にはもっともな面もある。決して筋のよい手とは言えないけれど、税収格差を改める一つの方法ではある。

 全国知事会などは、法人事業税の再配分は地方税の一部を実質的に国税化するもので、 基本的に地方分権にそぐわないと言う。その上で、消費税率5%のうち1%が配分されている地方消費税を拡充し、それと同額の地方法人二税を国税化する「税源交換」を主張している。

 地方消費税は偏りが小さく、税源として安定性があり、分権の流れにも沿っている。税 収格差是正策として、地方法人二税の再配分よりも筋が通っており、総務省も地方財政審議会もこの方式を支持している。しかし、地方消費税拡充の主張が、消費税率の引き上げを前提にしているとすれば、賛成し難い。


ホームへ