旭川を何軒もの家が流れて行った。屋根の上で助けを求めて手を振る人も家ごと濁流にのまれてしまった。
一九三四年の室戸台風で、岡山市の水害記録をまとめた「百間川沿川における昭和九年九月室戸台風災害の記録〜語り継ぐ大水害の脅威〜」の証言の一部だ。国土交通省岡山河川事務所が発行した。
岡山市は堤防が決壊し家屋や橋、家畜が流れ、濁流の海となった。増水があまりに急であったため逃げる機会を失った人がいる。屋根まで水が来るのに一時間もかからなかったからだ。今も昔も、早めに避難するのが災害の一番の教訓である。
百間川一帯では、出水は朝、半鐘で知らされただけで、住民が情報を入手するのは困難だった。県北部で豪雨があったことなど、状況が十分につかめていなかったことが、大きな洪水被害の原因だったという指摘は貴重である。
二〇〇四年に水害から七十年を迎え市民グループ「百間川研究会」(岡山市)が、体験者に聞き取りを始めたのが証言集のきっかけだ。記憶は時とともに風化していくが、八十歳前後になるお年寄りの記憶はしっかりしていた。忘れることができないのだろう。
現代では、天気予報も含め防災情報は充実している。しかし大切なのは自分の安全は自分で守るという気構えだ。証言集を読めば追体験ができるだろう。防災意識を高めるきっかけにしたい。