ロシア下院(定数四百五十)選挙は、プーチン大統領が筆頭候補となった与党「統一ロシア」が憲法改正も可能な三分の二を上回る議席を確保、地滑り的な勝利となった。
与党圧勝により、来年春に退任意向のプーチン大統領は政治的影響力の維持に向け足場を固めたといえよう。
今回から下院選挙は比例代表制に一本化、議席獲得に必要な最低得票率も7%に引き上げられるなど制度が大きく変わる中、プーチン大統領就任後約八年間の実績に対し国民の審判が下った。
大統領はエリツィン前政権時代に権勢を振るった新興財閥を追放し国民の支持を得たが、知事の任命制導入など中央集権化を断行、メディア統制や野党デモを排除したことなどから欧米諸国やリベラル派市民から「民主主義の後退」と強い批判を受けている。
だが、統一ロシアは圧勝した。選挙戦で有権者に過去の混乱への後戻りか、それとも安定かの二者択一を迫ったことが大きい。ソ連崩壊後のエリツィン時代の生活困窮などだれも思い出したくなかろう。「大国復活」を掲げ、原油高を背景に経済成長と政治的安定を実現したプーチン大統領にどんどん注目が集まってきて、ついに「ポスト・プーチンはプーチンだ」とまでいわれた。有権者心理を巧みに利用したこの構図の背景に政権側の綿密な戦略があったことは間違いあるまい。
プーチン大統領は憲法の連続三選禁止の規定に従い、来春退任する意向を表明している。しかし、与党圧勝によって権力基盤を一層強固なものにしたため、退任後も指導者として君臨する政治力を手中にしたといってもよい。
今後の焦点はプーチン大統領の後継候補がだれになるかだが「時代に合う人物」とするだけで依然、具体名を挙げていない。また、大統領自身の退任後のポストについては巨大化した与党・統一ロシアの党首、あるいは首相、下院議長などさまざまな要職が挙がっているが、いずれのポストに就いてもプーチン氏は大統領を超えた存在であり続けるだろう。そして、遅くとも二〇一二年の大統領選で復帰するとの見方もある。
独自性を強めるロシアにどう向き合うか。大統領が進めた国益追求路線は引き継がれ米国のミサイル防衛(MD)計画やエネルギー、民主化問題をめぐり欧米との摩擦は続く。対日関係では経済協力を優先する方針に変わりはないだろうが、北方領土問題で対立する平和条約締結交渉は難航しそうだ。今まで以上に粘り強い話し合いで活路を開いていかなければならない。
政府は「二〇〇八年度の予算編成の基本方針」を閣議決定した。地方重視の姿勢を鮮明に掲げたのが最大の特徴で、年末の予算案策定に向け調整が本格化する。
基本方針は経済財政諮問会議がまとめたものを閣議で正式に決めた。地方再生策を講じることを柱に、公共事業関係費の前年度比3%削減や歳出削減路線の堅持も示した。
福田政権にとって初の基本方針である。次期衆院選を視野に入れ与党では公共事業などで歳出増要求の圧力が高まる中、政府主導をどこまで貫けるか。福田康夫首相の指導力が試されるだろう。
公共事業関係費の3%削減や歳出削減路線の堅持は、安倍前政権時代の八月に決まった概算要求基準(シーリング)に盛り込み済みだ。今回の基本方針で地方再生策の強化を打ち出したことは、首相の強い決意の表れといえる。
地方重視の姿勢は評価したいが、どう予算に反映するかが問われる。基本方針では「共生の考え方に基づき、地方の声に耳を傾け、地方の再生に取り組む」とし、政府の地域活性化統合本部が先日決めた「地方再生戦略」に沿って予算化を図るという。
戦略の核は「地方の元気再生事業」である。国がメニューを決めず、公募した各地域の自主的な産業振興策などを支援する。このほか地域を地方都市など三分類し、医療や福祉水準などの確保や持続的な経済・社会活動を営めるようにする施策も進める。
権限を弱めたくない中央省庁の抵抗や縦割りの弊害など、予算案決定までには曲折が予想される。厳しい財政状況を踏まえて選択と集中を徹底し、地方分権の視点を忘れず実効性のある再生策にする必要がある。
(2007年12月5日掲載)