「瞬間的な記憶力」ではチンパンジーの子供が人間の大人よりも優れていることを、京都大霊長類研究所の松沢哲郎所長や井上紗奈研究員らのグループが突き止め、3日付の米科学誌「カレント・バイオロジー」で発表した。複雑なものを瞬時に記憶できる人間の子どもの特殊能力「直観像」に通じるものがあり、松沢所長は「脳内の処理メカニズム解明などが次の課題だ」と話している。
4歳のチンパンジー3頭とそれぞれの母親の計6頭を対象に04年4月、研究を開始。タッチパネル式コンピューターの画面に毎回位置を変えて1〜9の数字を表示し、小さい順に触れることができれば干しブドウなど餌を与えた。
その結果、この課題を毎日25分程度繰り返すと、母子共に半年で数字の順序を記憶。「2、4、7」など非連続の表示や、「1」に触った直後に他の数字が白い四角形に変わっても順番通りタッチできた。
次に記憶容量を調べるため、画面に5個の数字がごく短時間表示された後、白い四角形に変わるよう設定。小さい順にタッチするテストを実施したところ、0.65秒▽0.43秒▽0.21秒と短くしていっても、5歳半になったチンパンジーのうち最も優秀な子供の正解率は約8割で安定していた。表示された直後10秒間、大きな物音で気を取られても正解率は変わらなかった。
一方、大学生9人に同じテストを受けさせると、表示時間0.65秒では平均正解率約8割だったが、0.21秒では4割以下。また、チンパンジーの大人は、人間の大人とあまり変わらない成績だった。【鶴谷真】
三宅なほみ・中京大教授(認知科学)の話 直観像は例が少なく、よく分かっていないが「見たものをそのままの形でしか覚えられない」能力とも言える。人間は言語で抽象的に記憶する点でチンパンジーとは異なる。今回の成果は人間だけを調べていては分からない知力に光を当てることにつながるだろう。
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