中国新聞オンライン
中国新聞 購読・試読のお申し込み
サイト内検索

安心お産、どう実現 山口県で産科医不足 '07/12/4

 ▽医療機関3割減 見えない長期対策

 産科医師の不足から、全国と同様に山口県内でも、出産できる医療機関が減っている。一九九六年の五十九施設が現在は四十一施設。この十年余りで三割減った。少子化対策を重点施策に掲げる県は、医師を基幹病院に集める「集約化・重点化」計画の策定を急ぐ。さらに、本年度から庁内に「医師確保対策班」を設けて協議を続ける。しかし、即効性のある施策だけでなく、長期的な対応は見えてこない。

 山口市のJA厚生連小郡第一総合病院は、三月から常勤医が一人となり、正常分娩(ぶんべん)の取り扱いを中止した。土井一輝院長は「勤務医は繁忙なうえ、開業医に比べて収入は少ない。何かあれば訴えられる傾向が強く、医師になろうとする人がいない」と強調する。

 山口・防府医療圏域で今、開業医の休業や病院が一カ月間の患者数を決める分娩制限が相次ぐ。里帰り出産を望む女性が四カ所目の施設でやっと予約できた例もある。山口市内に転勤して来た一児の母(28)は「二人目を産むつもりだが、分娩制限があることに驚いた」と打ち明ける。

 医師の一人は「このままだと受け入れ先がない『お産難民』が出る」と危機感を募らす。

 高リスク出産に対応する総合周産期母子医療センターがある防府市の県立総合医療センター。二〇〇六年の分娩数は六百一件で前年の一・五倍となり、ベッドの稼働率は平均120%になった。

 常勤の医師五人は月に五、六回の当直をこなし、明けも通常の勤務を続ける。負担を軽減するため、今年六月から助産師による外来診療を始めた。しかし、採用に二十九歳以下の年齢制限を設けており、ベテラン助産師の確保は難しい。

 県が新設した医師確保対策班。女性医師の確保や定着に向けて職場を改善する研修会を開いた。医学生を対象にした貸付制度を山口大の地元出身枠での推薦入学者にも広げた。だが、即座に効果が出る施策ではない。

 県医療対策協議会の専門委員で、産婦人科医会県支部の伊東武久支部長は「地域の医療を維持するには『医師の人事部』が必要」と主張する。県内の全域をにらみ、過不足がないよう勤務医を割り当てる機能だ。かつて大学の医局が担っていたが、臨床研修制度の導入による学生の医局離れで難しくなっている。

 「県の実情に合ったコントロール機能を、県が担うのか、大学に任せるのか。突っ込んだ議論をしてほしい」と伊東支部長は求める。

 県は現在、来年度予算編成に向けた作業を進める。定例の記者会見で産科医確保の対応を問われた二井関成知事は「県として積極的に対応すべきだとの思いはある」と述べた。

 医療現場が募らせる危機感に、どう対応するのか。県の役割の早急な具体化が求められる。(高橋清子)

【写真説明】診療所から転院した母親の血圧を測る総合周産期母子医療センターの助産師(防府市の県立総合医療センター)




MenuTopBackNextLast
安全安心
おでかけ