―マッスルに関係ないところで……
坂井:関係ないところで!?
―今のプロレス界について、坂井さんはどのように思われてるのかなと。
坂井:いきなり、すごい質問ですね。
―いいところ、苦しいところ、いろいろあるような気がするんですが。
坂井:僕はもう。ホントに今しか知らないんで、今は皆さん「良くない」って言われますけど、自分は良かった頃を全然知らないですし、これが当たり前だと思ってるんで。(動員は)延べ人数合わせたら多いんじゃないんですか?
―んー、そうとも一概に言えないですけどね……。
坂井:おかしいところは、いっぱいありますよね。インターネットとか見てると。まー、僕個人なんですけど、あんまりプロレスをやってるっていう自覚が……
―(笑) ないんですか?
坂井:ないんですね、悲しいことに。収録してる感じなんですよ(笑)、あくまで。自分のプロレスとの関わり方が特殊なのかもしれないですけど、やっぱり番組を撮ってる感じなんですね。収録なんですよね、スタジオでの。そういうイメージが強いんで、あんまり「俺はプロレスをやってるんだぜ」というのではなく、こんなことホントに言って載せていいのかわからないですけど、僕はプロレスラーという役をやってると思うんですね。みんなそうだと思いますよ。プロレスラーって最初から存在しませんからね(笑)。 プロボクサーっていう人はいるのかも知れないですけど、生まれながらのプロレスラーって人はいないんですよね、たぶん。だから、もともとプロレスとかってないんじゃないですかね。
―ない(笑)。
坂井:もともとプロレスってものはないじゃないですか? 誰かが勝手に作り上げたものですからね。プロレスラーという人たちを勝手に作り上げて、リングを作り上げて、そこで格闘技、闘ってる姿を見せるっていうものですからね。ドラマとかと一緒なんじゃないですか? 時代劇とかと。そういうセットとして、プロレスの会場にリングを置いて、観客を置いて、悪い奴がいて、エースがいてヒーローがいて、外国人選手がいたりとかしてお相撲だったりの出身の選手がいて、そうやって闘ってっていう。僕は自分の中で咀嚼して、噛み砕いて理解しているつもりなんですけど。そうじゃないと、やっていけないですよ、怖くて。リング上での姿を鵜呑みにしてたら、怖くて誰とも付き合えないですし、あくまでこの人はホントはこういう人なんだっていうふうに信じないことには、自分はちょっとやっていけてないと思いますね。人間はそれぞれに仮面をかぶって生きているわけですから。社会やそういうシステムの中で、それぞれその役割を演じてるわけですからね、皆さん社会を構成する一員として。サラリーマンや夫や妻や長男や小学校に通う学生や大学生、みんな演じていきてるわけですから。狼として育てられれば、僕は狼として生きてますよ(笑)。
―女子なんかはどうですか?
坂井:女子……僕、女子の大会とかで呼んでもらったことあるんですけど、ものすごい盛況でしたよ。
―そうなんですか。
坂井:僕はJDスターさん、格闘美ですね。JDスターさんに呼んでいただいたんですけど、そのときは新木場1st RINGパンパンでしたし、(お客さんが)すごく真面目にプロレスを観ている感じがしましたね。どっちが勝つんだろうっていうハラハラを……ちゃんと選手がプロレスをやってるところを観て、頑張ってるところを見て、楽しんでるなっていうふうに感じましたよね。
―女子プロレスは大丈夫ですかね?
坂井:女子プロはもう、難しいですよね。本音で話した方がいいですか? 本音を交えつつ、使えるところだけ使う形でいいですか? やっぱりみんな言うこと聞かないんですよね。ハッスルの方で女子プロレスラーの方とか、日本のプロレスラーと、タレントというか芸能人枠の人とがあって、芸人と例えばレイザーラモン(HG)さんとレスラーと、意外とメンタリティーが近い部分とか体育会系なところとかがあるから、控え室でもスムーズにことが進むんですが、女子だとそういうのがないんじゃないかな(笑)。そういうのをやっていかないと、これから女子プロレスが大きなメディアでやっていくにはね。「めちゃイケ」が女子プロレスをやってたのって覚えてます? あれが僕の考える一番理想的な女子プロレス。というか、プロレスとメディアの関わり方として一番いい。地上波でやってるプロレスで一番面白いのが、「めちゃイケ」のプロレス。僕は、もともとアクションやりたい女の人とかがいて、プロレスやるっていうアストレスさんのやることっていうのは、スゴイなって思いましたけどね。女子のお客さんって、ホントに体育会的なものっていうかスポーツというか、格闘技としてスゴイものを観たがってる感じがするんで。そういうのを考えると、これからの方がやりやすいんじゃないかなって思いますけどね。いないですけどね、新人の人とかあんまり。細かいところで体操教室に通う女の子たちを使って、さくらえみさんが我闘姑娘をはじめたりとか、実際その舞台の小劇場系の演出家とかを入れてLLPWさんがL-FIGHT、神取(忍)さんとガッツ石松さんとかがやったりっていうのとか。アストレスがあったりとか、そういういろんなことが男子より起こっていると思うんですよ。それが興行といういびつな形をとってるから、そういう動員とかでしか成功しているかどうかって計る物差しがないんですよ。だけど、ソフトというかやり方とかシステムらしいシステムを作っているとか、全女とかジャパン女子とか道場から生まれてきた女子プロレスとは、全然違うところからスタートさせてるものとかに対して、もっと僕は評価されてもいいんじゃないかなって思いますね。ひいてはマッスルも、道場から生まれてない……。我々、さっき写真撮ってもらったパソコンのある映像班の事務所の編集室から生まれてるものですから、ほとんど。編集しながら、僕はDDTの中継とかを編集しながら、「こうだったら面白いかな」っていつも自分で想像しながら、「もう、イヤだな〜」とか思いながら、これ「燃えたらな〜」とか「コイツやりすぎたら面白いな」とか(笑)。 「ここで人入って来たら、面白いな」とか、「リングが低いやつだったら面白い」とかやってるんで。結局、僕も仕事、現実からの逃避としてやってるんで(笑)。 女子プロは、だから要はさっきも言いましたけど、興行という形をとっていくと動員という物差しでしか成功してるか、失敗してるかっていうのを計れない。けど、もっとそうじゃない、そこまでにたどり着くまでの過程が充分面白いものとか、いっぱいあるんで。ここに来て、いろんな選手がいろんな興行をやってますよね。プロモーション興行って言ってますけど、そうじゃないところで、どんどんニョキニョキなって来てて、それはそれでまたアイドル系のプロレス番組、プロレス企画番組ってありますよね? MONDO21とかで。キャットファイトと女子プロの中間みたいなものとか、いろいろやってますけど、そういうのはどんどん増えてくると思いますし。それはそれで、面白いんじゃないかなと思ってますね。男子みたいに分かれているわけではなくて、いろんな人が分散してやってるわけでもない。いろんなところで、ニョキニョキこう出てきてるのが面白いなと思いますね。
― プロレス界全般で、坂井さんが面白いなっていうか、興味を持ってる団体とか選手とかっていますか?
坂井:やっぱり、666とかかな。面白いと思いますね。あとは、K-DOJOとかでも、GETではなくてRAVEの方が面白くて。Hi69さん辞めちゃいましたけど、ヤスウラノさんとかMIYAWAKIさんとかそのへんの人たちがいろいろ考えて、あと、そっか……石坂鉄平、柏大五郎さんとかがやってると思うんですけど。若い人たちがやってる興行。666も怨霊さんを中心にバカ社長さんとかセーラーチェーンソーのような若い人たちとかが、いろいろやってるのが面白いですね。プロレスじゃない業界の人とかが、スタッフとかその登場人物の人たちが、プロレスという場でリングで表現しようとしているじゃないですか。それはやっぱり面白くなりますよ。他の分野でやっていた人たちが、表現をする場所を変えてやってるっていうのは興行としても成立するんで。ホントに普段、あの人たちはライブハウスでやってることをリングに置き換えたっていうことですから。たぶん、ライブハウスが使えなくなって、リングでやってる(笑)。 プロレスだったらいいんじゃんみたいな感じでやってる。それってスゴイことだと思います。面白いのは、あと……自分が少し関わってるんですけど、K-DOJOがGET、RAVEに続く第三のブランド、BELIEVEっていうのがDJニラさんが中心になって。これがまた、既存のプロレスにとらわれない興行っていうのを考えているみたいですけど、マッスルと666とBELIEVE、この3つで何かこうムーブメントみたいなものを、新しい形のインディーズプロレスと言うか。ハッスルさんって、ああいう大きな資本があってやってるのは、あれはもう一つの産業ですからね。一つのバビロシステムが完成されたものですから。それではない、あくまで選手達の衝動で、初期衝動のようなものでやってるのが、昔のバンドブームのようにプロレスブームが起こってきてもいいんじゃないかなと。バンドってみんなやらなかった、誰もが。ロックスターにミュージシャンに憧れはしたけど、なかなかできなかった。でもインディーズバンドとかに注目が集まるようになって、それでポンポンポンとデビューできたりとか、そういうバブルが起こってもいいんじゃないかなと。そこで僕は、その世界での大槻ケンヂになれればいいじゃないかと。(笑) 有頂天のキャラみたいな感じで、そのときナゴムレコードでボーンと儲かって、最終的には小劇くらいでやっていければと。
― なるほど。このあと、ちなみに666の取材で、今回誌面はマッスルと666で「ぴあ」は。
坂井:ギョギョ(笑)。 じゃあ、もうちょっとアナーキーな感じの方が良かったですかね。
―:いえいえ。「ぴあ」が注目してるのは、マッスルと666なんで。
坂井:それと、まあ旗揚げ予定のBILIEVE。
―:来月くらいにやろうかな(笑)。 5月4日もいよいよ近づいてきてますけど。何か、考えていることとか…。
坂井:そうですね、マッスルもですね、いろいろ無闇やたらに何も考えずにいろんな選手にオファーを出して登場人物が、多くなっちゃったんですよね。一度声をかけたら、「またお願いします」って言ってないのに、ぶっちゃけた話、契約書なんて存在しないわけですから(笑)。 勝手に来るんですよ。勝手に来ちゃうんですよ、会場とかに。「え!? 大阪じゃないんですか?」みたいな、「普通に観に来ようと思ってたんで」みたいな感じで言われたり、チケットをお願いしますみたいに頼まれると、自分の方も「あ、いや一応、前出てもらってるんでいいです」とはなかなか言えないですよ。
― ハハハ(笑)
坂井:基本的にそういう人たちで構成されてますから、自分以外(笑)。ちょっとどうしようって。膨れ上がってしまったんですよね。何だかんだ言って、もうリストあげたら、ぶっちゃけDDTより人数多いから。「はじめろよ!」って言われたのが、まったくそうじゃなくなって、全部登場人物合わせたら20人くらいの大所帯になってしまっているんですよ。それじゃ、またさらに新しい人たちっていうのもドンドン入れていかないといけないけど、かと言ってこちらも大したギャランティも払ってないので、向こうも気持ちで皆さん出てくれているので(笑)。 とにかく、切るという表現は変えて欲しいんですけど、切るに切れない(笑)。 ドンドン増えていく状況。あまりに膨れ上がって20数名、これからよりまた、高みに行くために二部リーグ制を。我々も分けようと思ってますね。K-DOJOさんの興行観て思いついたんですけど、「GIVE」と「ALIVE」っていう……かわかんないんですけど、二つのリーグに分けてやっていこうかなと思って。そのドラフトみたいなもの、二部リーグ制のドラフトみたいなものを次のホールでできたらなと思ってますね。実際、やんないですけど(笑)。
― やんないんですか!? (笑)
坂井:ここは切って欲しいところなんですけど、ホントに。たぶん、これはやらない……やるとしても次の次くらいですかね。二部リーグ制にして、東と西の客席をAリーグ、Bリーグと分けて応援合戦をやらせるわけですよ。K-DOJOがやっていて非常にいい感じだったので、次はできるだけそういうふうにしようと思ってます。
―5月4日ではなく、その次……
坂井:5月4日ですね。
―5月4日! もう東西に分ける!?
坂井:さっそく。
坂井:東の雛壇を買ったお客さんは、最初から「GIVE」。西側の雛壇を買ったお客さんは、「ALIVE」。南はレフェリーを応援してもらって、演出家の(鶴見)亜門さんを応援するシート、北側は……出してないのか。北側はないですね。そういう感じで、ちょっとこう……南側は東西に分かれて応援する、国を二分して分かれて紛争する人たちを見て、いかに人と人が憎しみ合い傷つけあうことは、無益なことなんだろうかってことを俯瞰してもらうっていうね(笑)。面白いでしょ!?
― さっき言ってることと、1分で変わりましたね(笑)。
坂井:もう病気みたいなもんですよね。
― そこにお客さんの意志は存在しない……
坂井:お客さんの意志が存在するか、しないか……。しないですよね。僕はお客さんは、エキストラだと思っているんで(笑)。 出演者、ちゃんとした舞台装置ですよね、立派な。登場人物の一人です。チケットをいっぱい売ってリングに上がるレスラーと一緒ですよ。チケットを買って会場に来る。違うかな(笑)。
― 今までとは違ったサプライズとかは用意してたりはしないんですか?
坂井:サプライズ……
― 今までもいろいろとサプライズってあったんですけど。
坂井:サプライズ……サプライズ問題に関してですけど、我々一回の経験値から言いまして、一つのそのリングとか舞台から、会場にいるお客さんを驚かせる、サプライズさせるっていうのは、我々の今のやり方だと300人が限界なんですよ(笑)。ビックリが伝わるのは。新宿FACE、500人くらいになるとやっぱりダメ。あんまり隅々まで行き届かなかったんですよ。僕らリング上でしゃべってる時も、相手見てしゃべってる時も壁見てしゃべってるわけですから。そうしないと届かないですよ、メッセージっていうのは意外と。そういうことで言うと、後楽園ホールだと今までと同じやり方をしてたら大勢は目に見えているわけです。ビックリさせようと思っても、ビックリしない。ビックリしない客にこっちがビックリみたいな(笑)。 ていうのを、昨年の10月2日(後楽園ホール)のマッスルで、自分はそう思ったんですよね。だったら、最初からその会場の千人のお客さん、千人入るっていう過程でしゃべってますけどね(笑)。 だから、千人来てもらわないと困るわけですよ。千人のお客さんにビックリさせてもらうみたいな、こっちが(笑)。 だったら、できるだろうと。そっちの方が効率がいいと思うしね。だから、今はこのような抽象的な形でしか言えないですけど、そういうことをちょっと考えています。皆さんと一緒に何か作り上げていこうと思ってます。いつも、こちらからのエンターテインメントを観て楽しむだけみたいな、与えられたエサだけを食べ続けているようでは、どんどんみんな飼い犬になってしまうわけですよ、客も。お客さんも自ら、エサを求めて荒野を進まないといけないんですよね。今のプロレスファンは、完全に家畜なんですよ。飼い犬ですよ、飼い犬。
―(笑)
坂井:飼い犬ですよね。もっと昔の自発的にプロレスを、どこか面白いところはないか、どこを観たら面白いんだ、誰を観たら面白いかみたいなふうに、目をギラギラさせて、ヨダレをしたたり落としてですね、自ら食いかからんばかりに街をノシノシと歩いていた頃のプロレスファンたち。あれは、そのプロレスファンの何が面白いんだと探した頃の賜物が、プロレススーパースター列伝ですよね。プロレスラーのありもしないところまで、楽しもうっていう。レスラーの骨一本まで、髪の毛一本までしゃぶり尽くそうという、面白いことはないかと。あれはもう完全に、プロレススーパースター列伝。ああいうふうな時代だったんですけどね、今はそうじゃないと思うんで。だったら、そっちに戻そうと。でも昭和のそういうプロレスに戻そうっていうのは、僕は無理だと思うんですよ。あの頃はパソコンも無かったし、ブログだってなかった。スカパーだってなかった。だから、今は今なりの参加の仕方というか、エサの探し方があると思いますよ。そのエサを我々は随所に散りばめます、次回の興行では。何のアレにもなってないか……(笑)。 エサをチラつかせようと思ってます。最初難しいんで、エサがどこにあるかっていうのを僕らも教えますから、興行を通して。それでみんなで、だんだん新しい興行の楽しみ方っていうのを感じてもらおうと思ってますね。
―5月4日も昼のDDTと昼夜興行になるんですが、そのへんの心配は?
坂井:あー、そうですよね。
―:3月もそうでしたけど。
坂井:ホントに大変でしたね。ホントに風俗のハシゴをしたような、「もう何も出て来ない!」みたいな感じになってましたからね、お客さんが。「もうアドレナリン出ない」みたいな。やる方も観る方も。だから、DDTのスタッフはスタッフで、何とか気の持ちようやシフトで上手くあまりテンぱらないようにはこの間の経験を生かしてやるんで、お客さんはお酒を飲むなり、ドーパミンが出やすくなるような、アミノ酸をいっぱい含んだ肉類をちゃんと興行の2時間前までに摂取して。12時から興行観て3時に終わるんで、そしたらすぐ肉を食べて(笑)。 良質のアミノ酸を摂ると、セロトニンでしたっけ、アドレナリンやドーパミンの元になる物質でアドレナリンを作り出してください。摂取してください。そうすると、皆さんが興行に向けていい形で楽しめるようになると思います。もはや、レールみたいなもんですよ(笑)。 レールみたいなもんなんで、こちらは場は提供しますんで、それぞれどこかから何か思い思いに入手して、ガッチリ決まった状態で観に来てください。ホントにヤバイです。スケジュールだけは入念に注意して。自分はたぶん、DDTの方は出ない。さすがに当日はお休みさせてもらうように、今、話はしてるんですけど。前回、松野さんがお昼のDDTの方で興行でケガをしてしまって、夜に急遽出られないっていうようなことになったんですけど、そればっかりはホントに仕方のないことなんで。でも少なくとも自分はもしそんなことがあるとマズいんで、念には念を入れて試合はしないということで(笑)。 プロデューサーとしてどうなのかな(笑)。 G1の決勝があるから、G1の決勝に大穴を開けるわけにはいかないから、初戦からしばらく連戦はちょっとマズいんで、休ませてくださいって言ってるようなもんなんですけど、ハタから聞いたら。今回ばかりは、おかしいこととわかりつつも。後楽園ホールのチケットを手売りしてしまってますけど、そのへんはちょっとご了承いただいて(笑)。
― ちなみに5月4日以降のマッスルの予定なんていうのは……。
坂井:ちょっと、3月の新宿FACE、5月の後楽園ホールと僕らにとっては大箱が続くんで、できればちっちゃい、細かい日取りは押さえてないですけど、北沢タウンホールとか新木場1st RINGとかで興行やりたいと思ってるんですよね。二部リーグで。小さくなった会場で、2日ずつ押さええてですね、「GIVE」と「ALIVE」でやろうと思ってます。2日で600、300と300で600入れば、いいかなって感じなんですけど。後楽園ホールって1回で千人入れなきゃいけないわけですけど、別にそれは300人の会場で3回やってもいいわけですからね。なんで、そういう延べで数えればいいわけですから。一つの興行を。同じ興行を3回、同じカードで。土曜夜と金曜の昼と木曜の夜で、そういう3公演で。だから、「GIVE」と「ALVE」と対抗戦。
―(笑) 同じカードではないですね。
坂井:厳密に言えば……でも、流れは一緒です。
― 選手が違うわけ?
坂井:選手が違う……二部リーグにして違うこと、違うストーリーっていうか、違う流れを作ったら、それはもう4時間のものを作ってるのと一緒ですから。2時間、2時間、全く同じものを(笑)。 キャストだけ替えて、劇団☆新感線みたいな。キャストだけ替えてやったりとかしてるんで、同じ戯曲を。それは、スターが出ているからこそ、成立するアレですけど(笑)。 スターでもない、我々のような場末の三流レスラーが、替わっても何のサプライズもないですけど。そういう感じでやっていって、結果的に延べ千人近く入れられれば、みたいな興行を考えてます。確実にお金だけは欲しいんで。お金だけは欲しい。
― 前回のインタビューから一ヵ月くらい経ってますけど、映像の話とか進展ありました?
坂井:してますね、はい。具体的なっていうか、自分の中でだけなんですけどね(笑)。 してますけど、思いついたら全部やっちゃいたいところなんで、考えてる分は全部後楽園で出します(笑)。 とりあえず、先の先の映像のことも考えてますけど、結局面白いなって思ったら、何とかそれを次の後楽園で。映像作品とプロレスをいろいろ世に送り出していきたいっていうのを前回話したんですけど、やっぱり面白いのを考え付くと全部興行に生かしたくなりますね。結局、僕はライブとしての興行でどういうことをやったら面白いかっていうことを考えていたら、やっぱりある程度、行き詰まるというか煮詰まっちゃう部分があって。映像をベースとしたプロレス映画というか、プロレスのドキュメンタリー、プロレスの音楽情報番組、プロレスラーの育成番組みたいなものを考えてたら、わりと自由にこんなことができる、こんなことができるってあって。で、テレビ番組が撮ってるスタイルにプロレスというものを置き換えてみて考えたら、いろいろ思いついたんですけど、面白いから、だったらすぐライブで出したいってなっちゃうんですよ(笑)。 それがまたいい形で後楽園ホールの興行で、ライブで出せればいいかなと思っております。
― また新しいことをどんどん考えればいいんですもんね。
坂井:なんか、磨り減っていくなぁって感じですね。自分の中のいろんなものが。
― 坂井さん個人についてもちょっとお伺いしたいんですけど、マッスル以外にもDDTやインディのリングに上がったりとかしてます。マッスルとは違った部分で、坂井さんの目指すものというのは?
坂井:僕はわりといろんなところに行って、いろんなものにキャラクターに染まるというか、そこのレスリングを、例えばよく「王道を体験しました」みたいなのとか「ストロングスタイル体験しました」とか「本場のルチャに触れ合えて良かったです」みたいなのではなく、すべてを坂井色に染めたい。行ったら行った先々で。K-DOJOに行ったら、ニラさんに「ニラさんさぁ、あんまりこんあところでTAKAみちのくの下でさぁ、くすぶってるような人間じゃないよ。人に使われて終わるような人間じゃないでしょう。自分でやったらさ、おいしいよ。みんな見る目変わりますよ」みたいな感じで。「やればできるんだから。お客さん来るよ!」、「マッスルとかさ、適当にやればなんとかなるんだから」みたいな感じでけしかけて、そこでまたK-DOJO第三のブランドみたいのをやらせたい。そういうことをいろんなところで、地雷をね(笑)。 時限爆弾を仕掛けていけたらなと思ってますね。いろんなところをそういうふうに、布教して回っているというか。だから、危険分子ですよね。団体さんからは、呼ばない方がいいかもしれない(笑)。 でも、一応体も大きいですし、明るいポップなキャラクターもありますんで、そういうふうに普通に使っていただいても、それなりの若手クラスの仕事はできるんじゃないかって思ってます(笑)。
―DDTの中ではどうなんですか?
坂井:DDTの中では、最近大鷲(透)さんがベルト獲って、ディーノがベルト獲って、かなり自由にやられてますしね。DDTも大分、アバウトになってきたというか、くだけてきたなって、DDTを観に来たお客さんが。チャンスかなって思ってますね。
―大鷲効果でいい方に向かっている。
坂井:行ってますね。ディーノさんが、ゲイがチャンピオンって時点で基本的におかしいですよね(笑)。 おかしいのわかってて、プロレスの向こう側にDDTが行こうとしている、敢えてそこに問題提起させているのにも関わらず、ケロちゃん、リングアナを呼びに行くところとか、どうなってるんだと。何で自分で火の粉を呼び寄せるんだと。すごいなって思いますけどね。だからこそ、個人としてはそこで正統派のレスリングを展開して、ちゃんとしたプロレスで僕一人見せようとは思ってますよ。
―そうなんですか(笑)。
坂井:自分はちゃんとしたレスリングで見せる、プロレスでちゃんと見せるみたいな感じでやっていけたらなと思ってますね。
―一時、よく大鷲さんのモノマネとかやってましたよね。アレには何か理由が……。
坂井:憧れ……ウルトラマンごっこやる気持ちですよね。
―子供の頃に。
坂井:はい。子供がウルトラマンの真似して遊ぶように、僕だってそりゃまぁ、男の子ですから強いものやヒーローに憧れてしまうわけですよ。だから大鷲さんの真似をしたりっていうのは、大鷲さんの動きを勉強したり。素でしゃべると、僕はホントに初めて目の前で見てお手本になる人なんですよ、大鷲さん。プロレスラーとして、大鷲さんのやる動き、技、マイク、入場、退場、すべてが自分には勉強になるっていうか。身長・体重とかわりと近くて、どういうふうにDDTで振る舞っていいか、ずっとわからなかったんですよ。4年間やってきて、まだ居場所が見つかってない(笑)。 大鷲さんとかが出てると、こんなふうに気合い入れてやってる人もいるんだなぁって。お手本ですよね、ホントに。付き人になろうかなって思ってますよ。ディザスターボックスに入りたいくらい。自分も日焼けして。いや、一回相撲部屋にですね、新弟子として入って力士になって、ディザスター入りしたい(笑)。 一回、高砂部屋に入門して、今からだからまた壮大に嘘を吐かなくちゃいけないんですけど、年齢とかありますから。一回大学に入りなおして、学生相撲出身だとちょっとイケるじゃないですか? そうじゃなかったら、ちょっとわからない部分ってありますからね。
―:ちゃんこ大鷲でちゃんこ作るのなんかもいいですよね。
坂井:そういう料理人のおもてなしするっていう気持ちも、大鷲さんは持ってるんですよね。僕は完全に見逃してましたけど。僕は接客経験がないんですよ、今まで。そういう意味で必要なんですよね。
―:そうですね。食べに行くと、私には作ってくれますよ。
坂井:作ってくれる!? そういう梅宮辰夫的な部分も、男が男を惚れさせる的な部分もあるんですね(笑)。 大鷲はその大きな手で、ちゃんこをよそってくれたみたいな、そういう部分も。今日は浅間山で獲れたタラの芽だからみたいな。タラの芽の天ぷらをサッと出してくれる。「デカいっすね。このタラの芽」「デカいだろ? 一人じゃ食えないだろう」「塩だけでいけますね」っていうような、そういう。魚じゃないですよね。魚ドーンっていうより、タラの芽とかなんだと思いますよ。
―坂井さんは休みの日とかは何をしているんですか? イメージ的には芝居とか映画を観てそうな感じが。
坂井:すいません。芝居とか映画は、仕事の中に入れてしまってるんで。基本的に休んでないことになってます。
―なるほど。
坂井:他の人が休みの日にやることは、全部仕事中にやることにしています。休みは、
休んでる感覚がないですね。何やっても。
― 全てが仕事の範疇って感じですか?
坂井:そうですね。何やってもプロレスと結び付けちゃったり。
― 最近観た映画や芝居とかで、何か面白かったものは?
坂井:大衆演劇、浅草の。大正館とか、そういう小さい劇場で2〜3週間とか1ヵ月とかやってるんですよね。座長がいて、旅回りみたいな仕事ですよね。大衆演劇の一番すごい人がいて。天才・竜小太郎っていう、流し目のスナイパー・竜小太郎っていう人がいて、その方がなかなかすごかったですね。これからは大衆演劇だなぁって思いますよね。あとは、「あずみ」を観て来ましたよね。舞台版の「あずみ」。黒木メイサさんとジャニーズJrの人たちがやってる。明治座でやってて、時代劇なんですけどすっごく面白かったですね。時代劇やりたいんですよ。プロレスやってても、時代劇面白いなって思いますね。タイムスリップ……プロレスはお芝居じゃないですから、いきなりこういう設定でっていうのではなく、自己で時代劇的なプロレスができたらと思いますね。
― 絵が浮かびますけど、面白そうな感じが。
坂井:いろいろできると思いますよ。外人とか引き立つんじゃないですかね、時代劇の方が。ペリーとか怖かったと思いますよ(笑)。 ペリーとかストーンコールドどころじゃないでしょうね、来た時。「やべぇ、ブリディー!」みたいな感じなんですかね。幕府の偉い人たちが、キッと待ってるわけですからね。出てきたらスゴイですよね。チェーン振り回しながら。だから、昭和のプロレスがやりたければ、昭和に戻ればいいだけですからね。簡単ですよ。
― 先々、そういうのも出てくるかも。
坂井:そうですね。だから、休みもそんなになっちゃうんで。あんまり休めてない。個室ビデオに行きますね。
―:何を観るんですか?
坂井:AVも観ますし、ビデオ、映画。TSUTAYAでビデオとDVDを借りて、アダルトビデオは最初の1、2本だけ借りて、あとは自分で借りてきたビデオを自分でこうやって体育座りして観てます(笑)。 狭いところに閉じこもって。
― その方がなんか、発想が湧いたりするわけですか?
坂井:発想が湧くというか、それに集中できる。映画館とか、周りに人がいるとダメなんですよ。多動なんで。映画とか舞台とかだと、動き過ぎだって怒られるんです。この間も、下北沢のオフオフシアターっていうところで、亜門さんがやってたんですけど、すごい狭い会場でこんな(小さく)なって観てたんですけど、隣でナスビが観ててすごい鬱陶しそうにしてて、「あー怒ってるな」って感じで。
― 別に知り合いでも何でもなく……。
坂井:何でもなく。動いて客席からも舞台からも目立つとか言われて、勝手に後ろの席に替えられるんですよね。小劇場で一番後ろの端っこの方で小さくなって、そわそわしながら観てますから、一人の方がいいんですよ。
― 家ではダメなんですか?
坂井:家は家で観るんですけど、家だと他にも「あー、洗濯しなきゃ」とか。僕はだいたい、いつも先を気にしてるんで。「電気代払ってねーや」とか、「この交通違反も払ってないな」とか「掃除もしなきゃ」とかそういうのが。そういう病的な部分が大分進行してますよね(笑)。
―:面白い話が聞けたので、最後に5月4日向けて。
坂井:コレ、どうまとまるんですか?
―:ウェブはこの調子で書きますよ。誌面はちゃんとまとめます。前回ちゃんとまとまってましたよね。
坂井:まとまってましたけどね。結構ビックリします。そうそう、この間2ちゃんねるの話したじゃないですか、実況スレッド。SAMURAIの中継。池田さんに「どういう時に手応えを感じましてか」って言われて、僕はSAMURAIで中継やった時に、実況板ってあるでしょ、中継終わった後に見たんですけど、もう1000くらい書き込みがバーってあってすごいなと思って、それでそこにコテハンの人がいて、●●●●●●●●っていうコテハンの人がいて、●●●●●●●●って人が最初は「何だよ、こんなの」みたいな感じで、「こんなの流すんじゃねー」みたいな感じで、最終的には「コレ面白いね」みたいになってて、それがうれしかったって言ったんですけど、なんか「ぴあ」のウェブにインタビューがアップされたのを見てて、次の中継の時に「あなたのことをこんな感じで坂井がしゃべってますよ」って誰かが書き込んで、「俺、ここまで言ってねーよ」みたいな。確かにそこまで言ってなかったんですよ、実は(笑)。 僕、ちょっと誇張してて。「俺、そこま言ってねーよ」みたいになって、俺やっちゃったなーと思って、味方をまた敵にしたみたいな感じになって、せっかく味方に立ってくれたのに敵になったみたいな感じで。最後に俺それで、初めてですよ、2ちゃんねるに書き込んだの。「マッスル坂井」って名前で、「本日も皆さんご視聴いただき、ありがとうございます。 ●●●●●●●●さん、この前は『ぴあ』に書いてしまいすいませんでした。確かにそこまで言ってなかったですよね」みたいね感じで。ちょっとレスがついて、10分ばかしチャット状態でやらせてもらって。
―●●●●●●●● は納得してくれましたか?
坂井:納得してくれました。「頑張ってください」って。ホントに励まされて。僕はホントに支えられてやってますよ。プロレス男ですよ。あれは、「ぴあ」の誌面には……
― 誌面はあの話はカットしてあります。ウェブだけですね。
坂井:池田さんが載せなかったら、それで良かったのに。載ってなかったら、こんな話にはなってなかったですからね。
― あまりにも面白いんで、つい。
坂井:匿名の、ハンドルネームでやってるクセの強い人たちが、そんじょそこらのことじゃ自分を曲げないくらいの気持ちで、巨大掲示板っていうのも修羅場でやってるわけですから。戦場でやってるわけですから。そんな人たちに「うん」と言わせられればいいんですよね。かと言って、あんまり依存するのも良くないですからね、自分らが。で、シメですか? 今のがシメで。
― 今のが、シメで!
坂井:いあや、嘘です。面白いと思えますから、信じてやるしかないですよね。だから、温かい目で見守って欲しいですね。
―5月4日、楽しみにしてます。
坂井:あっ、あとひとついいですか。
― どうぞ。
坂井:僕の友達が、大学の同級生が、大きな商社に入ったんですけど、入院をしてしまって。精神のバランスを崩してしまって。今ずっと病院に入院してて、外出が認められて、実家に戻ったんですよね。それで、先週お見舞いに行ったら、「坂井、俺さ病院の売店で『ぴあ』買ったんだよ」っていうか入院している奴が「ぴあ」買ってる時点で間違ってるんですけど。出かけるためのガイド誌ですから。「『ぴあ』なんか買って、余計イライラが募るばっかりなんじゃないの」って言ったら、「気晴らしになると思ってさ」みたいに言ってて。「そうだよね」ってな感じで、深く突っ込まないようにはしてるんですけど。「開いてたらさ、お前の写真とインタビューがドーンと載っててさ、ビックリしたよ」と。「俺、ビックリしてさ。みんな頑張ってるんだなって思ったら、俺も頑張んなきゃなって思ったんだよね」みたいなことを言われるかと思ったら、「言ってること、メチャクチャじゃないか。頭おかしいんじゃないか」みたいに。「あんなほとんど嘘みたいなこと、よくベラベラしゃべれるよな。病院行った方がいいよ」みたいに言われて。プロの人にね、認められるほどの支離滅裂な内容だったと言われて、逆に頑張んなきゃなみたいな。頑張んなきゃっていうか、俺、大丈夫なのかなって思いまして。すごいショックでしたね。逆に僕が励まされて。「眠れないようだったらコレ飲めや」みたいな感じで。「いや、俺いつも眠いから」みたいな感じで。「起きれるような薬もあるけ」って言われて、そりゃまずいじゃないかみたいなことがありました。「ぴあ」効果。さすが、全国誌。
― ハハハ
取材・文:リザーブ池田
撮影:星野洋介
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