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2007年12月05日(水曜日)付

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国際学力調査―考える力を育てるには

 二酸化炭素の排出量と地球の平均気温という二つの折れ線グラフを見せ、ここから読み取れることを書かせる。

 そんな問題が並んでいるのが、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)である。学校で習った知識をどれぐらい覚えているかではなく、知識の応用力や論理的に考える力を問うのだ。対象は15歳で、日本では高校1年生が参加している。

 06年の結果によると、OECD加盟国以外も含めた57カ国・地域の中で、日本は科学的な応用力で6位、数学的な応用力で10位、読解力で15位だった。

 最初の00年、前回の03年と比べると、順位はいずれも下がっている。参加国が増えており、単純には比較できないとはいえ、学力低下に歯止めがかかっていないことはまちがいない。

 PISA調査といえば、03年に数学と読解力が大幅に順位を下げ、学力低下の論議を一気に高めた。文部科学省は導入して間もないゆとり教育を見直し、国語や理科などの授業時間を増やして総合的な学習を減らすことを決めた。

 問題は、このカジの切り方でよかったかどうかである。

 今回の結果からは、日本の子どもの特徴について二つのことがいえる。

 まず、フィンランドなどの上位の国と比べると、学力の低い層の割合がかなり大きいことだ。この層が全体を引き下げている。これまでも様々な調査で、勉強のできる子とできない子の二極化が深刻な問題と指摘されていたが、底上げの大切さが改めて示されたわけだ。

 もうひとつは、科学では、公式をそのままあてはめるような設問には強いが、身の回りのことに疑問を持ち、それを論理的に説明するような力が弱い、ということだ。

 併せて実施したアンケートを読むと、その原因は授業のあり方に問題があることがわかる。理科の授業で、身近な疑問に応えるような教え方をしてもらっているかどうか。そう尋ねると、日本は最低レベルだったのだ。

 自分で問題を設定し、解決方法を考えるという力に弱い。このことは科学の分野に限らないだろう。

 学力の底上げと応用力。二つの課題を克服するには、どうすればいいのか。

 一人一人の学習の進み具合をつかみ、授業についてこられなくなったら、そのつど手助けする。落ちこぼれをつくらないためには、きめ細かな後押しが要る。

 応用力を育てるには、公式の当てはめ方などを機械的に教えるのではなく、その論理を子どもたちに自ら考えさせる。そんな授業が求められる。

 いずれも、十分な教員の数とともに、その質を上げることが必要だろう。

 単に授業時間を増やしただけでは、どうしようもないことは文科省も承知のはずだ。応用力が問われているのは、文科省もまたしかりである。

給油新法―「逆転」ならではの審議を

 インド洋での海上自衛隊の給油活動を再開するための、新法の審議が参院で始まった。民主党が参院の主導権を握る「逆転国会」でこの問題にどう決着をつけるか。いよいよ与野党の綱引きがヤマ場を迎えた。

 国会の会期は15日までだが、政府・与党はこれを延長するのか、衆院の3分の2以上による再議決に踏み切るのか。すでに、法案審議の出口をめぐる観測が盛んに語られている。

 展開次第では衆院の解散・総選挙の可能性が絡む。来年度予算案の編成も迫っている。福田首相や民主党の出方に注目が集まるのは仕方ない。

 だが、野党が「逆転」の真価を発揮できるのはこれからである。数の力を振り回されるのはご免だが、与党主導の衆院審議とはひと味もふた味も違う論戦を見せなければならない。

 給油再開こそ国際責任を果たす道だ。政府はこの主張一本やりだが、もっと全体像を踏まえた議論がないと、国民も判断に苦しむ。朝日新聞の世論調査で自衛隊の給油活動再開への賛否が44%と同数だったのも、その表れだろう。

 タリバーン政権の崩壊からすでに6年。なのにアフガン情勢はむしろ悪化している。現地に部隊を出している国々では、民間のアフガン人や自軍兵士の犠牲が増えるにつれ、このままでいいのかという真剣な議論が行われている。

 日本の自衛隊撤収は、部隊派遣を続けたい各国政府にとって国内世論を説得するうえで打撃かもしれない。自衛隊がいなくなったあとの給油の穴を埋める不便さもあろう。だが、アフガン支援の手法と目的、効果を再考量すべき時期に来ているのは間違いないのではないか。

 民主党も新法に反対だと言うなら、日本はどのような貢献をすべきなのか、対案を法案として出すべきだ。

 もうひとつ、給油新法の審議とも絡んで終盤国会の大きな課題がある。守屋武昌・前事務次官らの贈収賄事件をはじめ、防衛行政をめぐる腐敗、疑惑の構造をただすことだ。

 刑事事件としては東京地検が捜査しているが、国会にも役割がある。政治家や官僚、自衛官OBが装備品の調達や工事の入札、天下りなどで税金をむさぼっていたとすれば、その実態を明らかにする。再発防止のための仕組みをつくる。文民統制の主役は国会であることの責任をきちんと果たしてもらいたい。

 防衛行政全般に対する国民の信頼が揺らいでいる。政府・与党は防衛疑惑の解明と給油再開は別問題だと主張するが、そうとは言い切れまい。3分の2の再議決で新法を強行したとしても、信頼の問題を棚上げする形で海外に送られる自衛隊員たちは気の毒だ。

 民主党は、政局への思惑で審議を引き延ばすようなことがあってはならない。逆転参院に期待する有権者に応えるためにも、精力的に審議を進めるべきだ。

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